第139回 | 2013.04.08

集落営農の法人化を急げ! ~集落営農実態調査より~

農林水産省が実施した集落営農実態調査によれば、2013年2月1日現在の集落営農数は14,634組織で、2012年2月1日より108組織減少し、調査開始以来はじめて前年比を割り込んだ。集落営農数は、水田・畑作経営所得安定対策の導入時期にあたる2007年や、戸別所得補償制度(現・経営所得安定対策)のモデル対策事業を導入した2011年に大幅に増加したものの、その後は横ばい傾向が続いていた。地域別に特徴が出ているが、その中でも関東農政局管内は2年連続の減少であり、2013年の集落営農数は1,007組織で、前年より15組織減少している。

一方、集落営農法人のうち、法人組織は2,912組織で全体の19.9%を占め、昨年より2.3ポイント増加しており、2005年以来一貫して増加傾向にある。うち、関東農政局管内における法人組織は252組織で、集落営農数の25.0%と全国平均を上回り、昨年より32組織増加している。

集落営農組織の実態を考えてみよう。先ず、組織の構成員であるが、10名以上の比較的大きな組織がある一方で、実働しているのは3~4名程度という小さな組織も多い。また、水田の集積により、コメづくりのみを行うケースが大半である。代かき、田植え、防除、収穫などの作業が発生する場合にのみ、機械の共同利用による集団的な作業をしているのが一般的な集落営農の活動実態であると考えられる。集落営農組織の平均農地面積は、約34haであるが、中山間地域などでは小規模な営農面積に留まったり、耕作条件が不利な農地が対象だったりと、もともと経営的に厳しい状況にある組織も多いと考えられる。

こうした実態のもとで、任意団体の集落営農組織が減少しているのは、高齢化により組織が維持できなくなっていることが主な要因と考えられる。国の事業導入に合わせ、組織を作ったものの、設立当時のメンバーも年々高齢化あるいは死亡し、後を引き継ぐ人材が集落にいないといった状況がうかがえる。経営的に成り立たないから、後継者は出来ない。集落を守りたいと、収益度外視で頑張ってきた主力メンバーは年々老いていく。やがて誰も営農をやらなくなる。これが集落営農崩壊のシナリオである。

一方、農作業の効率化や組織基盤の強化に有効と考えられる法人化は、着実に進展している。任意組織に対し、法人組織は様々な経営上の強みを持つ。以前、このコラムでは、農家の法人化には様々なリスクが伴うことから、必ずしもよいものではないことを解説した。その考えは変わらないが、集落営農については可能な限り法人化の可能性を検討するべきだと言うのが私の考えである。法人化とは、経営が成り立つ組織形態を意味する。経営として成り立てば、当然後継者も出来るし、例え設立当時のメンバーが死んでも、地域にその組織は残る。では、任意組織である集落営農組織を法人化するためにはどうしたらよいか。

一つ目のポイントは、経営の複合化である。コメを作っているだけでは、周年を通して安定した作業量と売上が確保できない。麦・大豆・飼料米に加え、露地野菜や施設園芸、さらには加工事業など、コメの単一経営から、複合的な経営をめざしていく必要がある。複合経営を行うことで、例え10町歩の農地しかなくても、相応の売上をあげることができる。そのためには資金も必要となろうが、法人化すれば有利な制度資金を借り入れることができるし、多様な補助金も活用できる。立地条件、土壌や気象条件などにより異なるが、知恵を絞れば地域にあった複合経営の姿は描けるはずだ。

例えば、都市近郊型の集落営農では、コメに加え、野菜や果実などを計画的に生産し、直売所に出荷するといった複合化が考えられる。比較的畑作に向く農地を選定し、一定の水田を畑地に換えて、野菜などの生産ほ場に転換していくことを考えたい。地権者は怒るかもしれないが、集落営農組織が崩壊してしまえば、耕作放棄地になるだけだ。もちろん、客土、土壌改良に金も手間もかかるが、地域の建設業者などの力を借りながら構成員全員で取り組めば、少しずつでも整備が進むだろう。また、整備した畑で農産物を作るだけでなく、農園利用方式による市民農園や、体験農園を開設することも考えられる。

二つ目のポイントは、雇用形態の複合化である。毎月一定の給与・報酬をもらって常時農作業に従事する者、日給制で共同で取り組むべき作業が発生したときのみ参加する者、時給制で繁忙期の支援をする者など、3つ程度の形態を考えたい。こうした形態をとることで、人件費を抑制出来るだけでなく、生産・出荷に関する計画的・効率的な体系づくりに結びつけることができる。

例えば10名の構成員のうち、3名は専従、7名は非常勤など、役割分担を明確にするべきである。高齢者で能力が落ちたものは、専従から非常勤にシフトし、替わりに定年帰農者を含む若手を、専従として登用することも重要である。みんなで同じパイを均等に分け合うのではなく、特定の者に稼がせるという発想が重要である。そのためにも、平等主義に基づく農事組合法人ではなく、やった者がやっただけ稼げる株式会社の組織形態を選択することをお薦めしたい。

また、繁忙期の支援体制づくりは、構成員の親族をはじめ、非農家をいかに取り込むかが鍵になる。特に、都市近郊型の地域にあっては、自治会や地域活動を通して、農業に興味・関心がある人を掘り起こし、仲間づくりを進めることが重要である。その場合、雇用するのではなく、手伝ってもらったお礼として、コメや野菜などを現物支給していく方法も考えられる。

三つ目のポイントは、経営者としての資質を持ったリーダーの確保・育成であり、四つ目のポイントは、販路開拓と付加価値販売である。これらについては、このコラムで何度も書いているので割愛する。

農林水産省は、2020年までに、23,000の集落営農組織を設立する目標を掲げている。2014年に予定されている経営所得安定対策の抜本的な見直しを含め、集落営農組織の持続性・発展性を担保できるような施策展開を期待したい。そして、全国の自治体は、集落営農の法人化にもっと力を入れるべきである。経営が成り立つ組織づくり、任意団体から法人組織への移行は、簡単なことではないが、自治体が取り組む喫緊の課題であると考える。集落営農の崩壊は、農地の荒廃だけに留まらず、集落の崩壊にもつながることを銘記されたい。