第94回 | 2012.05.07

野菜と果実の消費拡大に向けて ~価値を伝える流通手法を考える~

先般、農林水産省の旧知である担当者の方と、「野菜、果実の消費拡大に向けて」というテーマで意見交換を行った。近年、野菜・果実ともに国民の高齢化、人口減少により、国内の総消費量は減少傾向にある。この傾向に何とか歯止めを掛ける効果的な施策がないものか、検討中であると言う。意見交換に当たり、担当の方は様々な統計資料などを加工して分析をされていた。先ずはその概要を紹介したい。

総務省の統計によれば、野菜については過去10年間、国民一人当たりの摂取量は横ばいであるものの、価格の低迷により支出金額は下がる傾向にある。家庭での野菜の購入量を品目別に見ると、だいこん、きゅうり、はくさい、なす、ほうれんそう、さといもなどの品目では、過去20年間一貫して減少傾向にある一方で、キャベツ、たまねぎ、トマト、にんじん、レタス、ねぎ、ピーマン、ブロッコリーなどの品目は、購入量が増加もしくは横ばい傾向にある。また、年代別・性別の摂取量を分析したところ、男女共に60歳代の摂取量が最も多く、若いほど摂取量が少ないことが分かった。

果実では、過去10年間に国民一人あたりの摂取量は減少傾向にある。品目別に見ると、増加傾向にある主要品目はバナナだけであり、その他の品目は全て減少傾向にある。野菜については食育が浸透する中で、健康のために食べなければならないという意識があるものの、果実は嗜好品としての位置付けに留まり、景気動向に左右されやすい環境にある。また、年代別の分析では、特に若い男性はほとんど果実を食べていないという事実が明らかになった。また女性でも、20歳代・30歳代の40%以上が全く果実を食べていないという分析結果が提示された。

さて、このような現実を踏まえ、どうしたら野菜・果実の消費拡大に結びつくのであろうか。学校給食を始めとした食育の持続的推進が基本的な施策となることは言うまでもないが、その上で、流通面での施策として3つの意見を述べさせて頂いた。

一つ目は個食化への対応である。高齢化・核家族化の流れは今後も止められない。みかんM玉8~9個で1kg袋の荷姿など、小売店で固定化されている概念を壊し、近年増えつつある2個入りの個食パックや1個売り、さらには4分の1カット等の販売方法へと、さらなる個食対応を進める必要があるだろう。

2つ目は、簡便化・甘党化に対応した品種の改良である。野菜では、スナップえんどう、高糖度トマト、安納芋など、甘味がある品種が人気である。また、果実では、皮ごと食べられて糖度が高いシャインマスカットが絶好調である。ほとんどの水産物の消費が低迷する中で、切った状態でさしみとしてそのまま食べられるマグロのみの消費量が拡大しているが、これは調理が簡単で食べやすくておいしいという商品特性が評価されていることを裏付けている。また、野菜が持つ苦味や果実が持つ酸味もおいしさを構成する要素であるが、甘くなければ美味しくないという味覚が国民に浸透してしまったようだ。食べ方、糖度などを表示した売場づくりは効果的である。

3つ目は「ファスト・ベジタブル」(簡単に調理出来ておいしく食べられる野菜)の食べ方提案と調味食品の開発である。近年小売店では、ドレッシング類のフェイスが拡大しているが、ドレッシングは、野菜をサラダという最も簡単な調理方法で美味しく食べられることを訴求した商材である。また、かれこれ30年前の衝撃的なデビュー以来、不動のヒット商品となっている調味食品「クックドゥ」は、「ファスト・ベジタブル」を提案した商品である。ドレッシングや調味食品と野菜を同じコーナーで販売し、食卓メニューを提案するクロスマーチャンダイジングの販売手法は今後も有効であろう。

この意見交換と時期を同じくして、全国屈指の仲卸であるデリカフーズグループが主催する「医・食・農・工連携が、新たな時代を創造する」というテーマの研修会に参加した。この研修会では、農林水産省食料産業局食品小売サービス課の山口外食産業室長、経済産業省地域経済産業グループ地域経済産業政策課の大原統括地域活性化企画官の講義に始まり、(社)生命科学振興会の渡邉理事長、浜松大学健康栄養学科の金谷教授から講演を頂いた。その後はデザイナーフーズ(株)の市野取締役を始め、デリカフーズグループの各トップから様々な情報提供があった。

5時間近くに及ぶ研修会の中のメインテーマは、「野菜の消費拡大による、健康寿命の延伸と医療費の削減」であり、デリカフーズグループが目指す最終目標と位置付けられていた。健康で長生きするための条件は、①エネルギーを摂り過ぎない、②抗酸化力の高い食事を摂ることの2つだと言う。

野菜は「抗酸化力」「解毒力」「免疫力」の3つの力を持っている。旬の野菜ほど、抗酸化力が高く、美味しいものは身体に良いと言う。ほうれんそうの場合、旬である冬場はハウス栽培主体の夏場より6~7倍ものビタミンC及び抗酸化力を含有している。品目別に見ると、ほうれんそうやピーマンなどは抗酸化力が高く、たまねぎ、きゅうりは低い。果実ではバナナ、キウイフルーツ等の品目では抗酸化力が高い。また、ねぎは生より焼いた方が抗酸化力が高く、菜の花は30秒程度茹でたもので最も抗酸化力が高く、それ以上茹でると抗酸化力は急速に低下するなど、調理方法や品目の違いについて、大変興味深い情報提供があった。

これらの研究成果を踏まえ、デリカフーズグループでは、野菜が持つ価値を科学的な裏付けで表現した「デリカスコア」(流通・栽培・安全・成分を基本に20項目で評価、FOODACTIONアワード受賞)を基本に、外食産業には抗酸化効果を高めるためのメニュー提案を行う一方で、小売業には、抗酸化力、免疫力、解毒力別に野菜を区分した売場提案、抗酸化力別の表示と価格の差別化などを行い、消費拡大を促進する方針であると言う。こうした取組が、野菜・果実の消費拡大につながることを期待したい。

現在の社会環境の中では、消費拡大は至難の業である。しかし、野菜や果実が持つ価値については、国民は既に気付きつつある。問題は、価値を分かりながらも買って、調理して、食べるという動機付けが弱いこと、あくまで価格が安いことが前提であることなどの社会的な風潮によるところが大きい。日本人は近年所得の低迷により、エンゲル係数が高まる傾向にある。それでも飽食の時代は続くだろうが、改めて食を見直し、健康によく、おいしい野菜・果実をより多く食べ、価値に応じた対価を支払うよう、官民一体となって啓発・販促活動に力を入れて行きたい。