第47回 | 2011.05.16

都市農業の追い風をビジネスに変えろ! ~農住共生型のビジネスモデルの構築~

都市農業は、隣接する消費地への新鮮な農産物の供給といった生産面での重要な役割のみならず、身近な農業体験の場の提供や災害に備えたオープンスペースの確保、潤いや安らぎといった緑地空間の提供など、多面的な役割を果たしているという公益的な側面から、都市農地を保全・活用し、「農」のあるまちづくりを進めようという動きが都市部自治体で活発になっている。

農林水産省はこれまで、都市農業の振興に向けた取組を支援してきたが、平成23年度は、施策が「食と地域の交流促進対策推進交付金」(都市農業振興整備対策)へと一本化されて、強化されている。対象地域は、農業振興地域以外の生産緑地や、いわゆる都市農地であり、簡易な基盤整備(農地の整備、農用地の保全、耕作道整備、用水施設整備、排水施設整備、営農飲雑用水施設整備)、簡易な施設整備(農機具等保管施設、6次産業化関連推進施設、農薬飛散防止施設)、防災設備整備、市民農園等整備、水辺環境整備に対し、1件当たり概ね500万円、経費の1/2の交付金を受けられる。対象となる団体は、農業協同組合、農事組合法人、土地改良区に加え、商工会、地域住民の組織する団体なども含まれ、かなり柔軟な活用が可能で、都市農業の推進に向けた追い風となっている。

都市農業は、ほ場面積が狭く、税制対策などの面で農地の集約が困難であること、住宅地などと隣接しており住民へ配慮した営農形態が求められることなどの課題はあるが、目の前に消費者や実需者がいるという圧倒的な優位性を持つ。しかし、都市農業を営む多くの農家が、不動産事業などとの兼業形態をとっており、農業自体にはあまり力が入っていないのが実状である。

一方、都市農業の優位性をいち早く認識し、先駆的な農業に取組む農家も多い。国立市の佐藤氏もその一人である。農地はすべて生産緑地で、梨を中心とする果樹、ブロッコリーなどの露地野菜、自家消費が中心の水稲で耕作面積1haに満たない。梨は手間がかかる貴重種の栽培に取り組んでいる。秀玉など市場に流通しない品種を栽培し、宅配販売のみを行っているが、人気が高く予約待ちといったことも珍しくない。また、野菜は周辺農家と違う品種、作型を選ぶなど徹底した差別化を基本に、近隣の飲食店向けと直接取引を行っている。

休日の早朝の機械使用は避ける、堆肥は散布したらすぐに耕運するなどの作業の工夫は前提条件で、住民に嫌な思いをさせないことを第一としている。その上で、仲間と一緒に野菜収穫ハイキングなど市民が楽しめるイベントを行い、農業への理解を深めている。さらに、野菜の株売りで自分の手間を減らし、収穫体験を通じて農業の楽しさを実感してもらうなど、都市農業だからこそできることに工夫を重ねている。佐藤氏は、ゲストティーチャーとして小中学校での講演、野菜栽培の指導等に走り回り、農園を訪れた子どもは1,200人を超える。また、市民の自発的な組織である「くにたち・梨園ボランティア」と協力した活動等を行っている。高齢化により作業が困難になってきた梨園を中心に、摘果、袋がけ、草刈などあらゆる作業を実施している。毎年1回実施している「くにたち産・梨市」では、JR国立駅前で市内で生産された梨の試食・販売、梨園の紹介などを行っている。このように都市住民を農業の「サポーター」と位置づけ、都市農業の継続に貢献してもらっている。

農家の努力で守り育てられてきた都会の優良農地を、「生産緑地」として孫の代まで守り続けたいという思いが生み出したが、「練馬方式」という体験農園のビジネスモデルである。農業体験農園とは、練馬区が管理する市民農園とは異なり、農家が開設し、耕作の主導権を持って経営・管理している農園である。利用者は30㎡の区画に対し、年間29,000円の入園料・野菜収穫物代金を支払い、農家の指導のもと、種まきや苗の植付けから収穫までを体験する。基本的に春~夏野菜、秋~冬野菜の2期作になっていて、時期をずらしながら週末に3日間ほど講習会が設定され、利用者はそのどれかの日程に参加し、園主の講習・実技を見聞きしながら、栽培を楽しむ。

30㎡で29,000円であれば、理論的には1反で100万円の収入になる。米は概ね反収10万円、露地野菜では反収100万円を超える作物ないことを考え合わせると、かなり高収益なビジネスモデルと言えよう。この他にも、観光農園(いちごなどの摘み取り園)や、消費者への直売・宅配、あるいはスーパーや飲食店との直接取引を行うことで、相当の収入を上げている都市部の農家も見られる。
これまで都市部の農地は、住宅などの供給地として位置付けられてきたし、地域住民もなぜこんなところで農業をやるのかといった批判もあった。しかし、都市農業・都市農地の位置付けが変わり、都市部住民への「農」へのあこがれが強まりつつある今日、目の前にいる消費者へ手を伸ばせば、消費者は顧客にもなり、サポーターにもなる。この強みを最大限活かし、農住共生型のビジネスモデルを構築したい。