第219回 | 2014.12.22

道の駅整備におけるPFI事業導入の可否を考える ~PFIは果たして有効なのか~

道の駅は、行政が仕掛ける地域活性化モデルとして、成功の可能性が高いことが証明されており、全国で1,000件を超えてもなお、道の駅の整備を進めようとする動きは衰えない。しかし、近年は、その整備手法として、総務省が勧めるPFI事業を検討するケースが多いようだ。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、特定の民間事業者に設計・施工から管理・運営まで一括して発注することで、コストを削減し費用対効果を高めようというものだ。その効果は、BFM(バリュー・フォー・マネー)と言われ、公設方式より高い効果が測定出来れば、PFI導入の可能性があると判断される。

PFIは、医療・福祉施設など多くの公共施設で導入実績があり、成果をあげている。その中で、これまで公設民営方式が採用されてきた道の駅の整備においても、既に数件のPFI導入事例があり、財政事情が厳しい中にあって検討すべき手法と言えよう。しかし私は、道の駅の整備においては、PFIを導入することは適切ではないと考えている。以下は、道の駅整備におけるPFI導入の主な問題点を整理する。

1点目は、「性能発注方式」によって、施設の建築内容が総じて陳腐なものになる点である。「性能発注方式」とは、施設の規模・機能などの性能のみを発注仕様とし、建築資材やデザインなどは要求しないという発注方式である。PFI事業者がなるべく建築費を抑えようとするため、軽量鉄骨の平屋建てのプレハブ同様の施設が整備されたりする。市町村が整備する場合、県産材をふんだんに使った木造建築にしたり、地域のシンボルとなるようデザイン性を重視したりする。前者は坪単価50万円、後者は100万円の整備費となれば、PFIの方がはるかに安上がりになる。よく、「VFMは50%」などと驚くべき数字が発表されているが、そのからくりは、この「性能発注方式」にある。

病院など100億円規模の中高層建築の場合、構造上RCや鉄筋コンクリートづくりにせざるを得ないし、様々な建築法規をクリアしなければならない。したがって「性能発注方式」を採用してPFI事業者が建築しても、公設のものと概ね遜色がない施設が建つ。しかし道の駅の場合、1,500~2,500㎡程度の施設規模が主流で、建物自体の整備費は3億~5億円になる傾向が強く、どのように作っても、要求される性能を満たすことが可能であろう。地域の振興拠点となる道の駅がプレハブでは悲しいような気がする。PFI事業を導入するにあたっては、まずこうした点を覚悟する必要がある。

2点目は、通常の公設方式より、概ね2年、施設の開業が遅れる点である。PFI事業を導入するためには、PFI導入可能性調査で約1年、PFI事業者の選定・締結作業で約1年を要する。さらに、議会などでもめれば、さらに年月を要することになる。PFI導入可能性調査とは、PFI方式を採用した場合、VFMが出るかどうかを検証する調査であり、概ね1,000万円程度の調査費がかかる。加えて、この業務で担当する職員の経費、庁内で費やす検討の時間や手間などを含めると、2か年で5,000万円程度の追加の行政支出が発生するのではなかろうか。

民間では「時は金なり」という。このように数字で把握できる経費以上に、時代の変化によるビジネスチャンスの喪失や、地域の期待や意欲の減退など、大きな社会的損失を発生させる可能性が高い点を認識して頂きたい。また、道の駅は、整備する上で国土交通省や農林水産省と連携する必要がある。市町村の一方的なスケジュール変更により、国との協調体制が崩れるようなこともあろう。

3点目は、公益性の希薄化である。現在多くの民間企業が、PFI事業に着目しており、事業者になりたがっている。その理由は、公共事業であることからリスクが少なく、かつ儲かるからだ。民間企業は、ボランティアをやる訳ではなく、稼ぐために事業者に名乗りを上げる点を再認識するべきである。稼ぐためには、道の駅で儲かる仕組みを作らなければならない。例えば、農産物の直売においては、一般的な販売手数料が15%であるのに対し、PFI事業者は20%に設定することもあろう。また、儲からない地域産品より、利幅が厚い仕入品に品揃えの重点を置くようになる。さらに、テナント料についても、通常売上の5~7%のところを15%などに引き上げることになる。

市町村とPFI事業者との間で協定を結ぶことで、ある程度の抑制は出来る。しかし、あまりきつい縛りをかけるとPFI事業者に誰も手をあげなくなる。市町村とPFI事業者との契約期間は15年とするケースが多いが、PFI事業者は、この15年間で十分な資金を回収しようと考える。資金回収のためには、儲からない公益的な業務などは出来るだけ減らして、収益事業に重点を置いて運営する必要がある。道の駅は本来、地域活性化の拠点であり、公益性と収益性を併せ持つ施設であるが、PFI事業を導入することで、そのバランスが崩れることが危惧される。

PFI事業により民間が施設を整備すれば、財政支出は必要ないといった間違った認識を持つ方が多い。PFIのBTO方式(ビルド・トランスファー・オペレート、ほとんどはこの方式を採用する)では、民間資本で整備するものの、施設の所有権は市町村へ移行され、市町村は概ね15年の期間で、かかった経費をPFI事業者へ返済する仕組みである。公設方式では単年度で支出しなけばならない経費を分割支払いにするだけの話である。民間企業への返済となれば、起債を活用するより、当然金利は高くなる。農林水産省の農村活性化プロジェクト交付金などはPFI事業も補助対象となっているが、PFI事業導入により補助金が受けられないケースもある。こうした財源ミックスについても、慎重に検討を重ねる必要があろう。

私は、PFI事業そのものを否定している訳ではない。財政事情が厳しい中で、民間資本を活用した整備手法は今後も拡大していくことだろう。しかし、その対象施設は、病院や福祉施設のように多額な事業費がかかり、管理・運営面で民間企業のノウハウが十分に活用できるものに限定される施設であると考える。道の駅は、相応の事業費で整備でき、かつ農業振興、交流促進、地域情報の発信など、多様な公益性を発揮することを目的とした施設である。道の駅に、PFI事業はそもそもそぐわない。それが現時点での私の見解である。