第143回 | 2013.05.07

道の駅を核とした過疎地域の活性化モデルを考える ~日経ビジネス・道の駅特集より~

日経ビジネスは、これまでも、農林水産業の振興や地域経済の活性化をテーマとした特集記事を数多く組んできた。この度は、「道の駅が地方を救う」と題した特集であった。記載されている道の駅の事例は、いずれも私がよく知っているものばかりだったが、道の駅が果たす役割が年々高度化し、過疎地域の再生モデルとなりつつあるという視点に対して、非常に共感を受けた。流通研究所でもこれまで、多くの道の駅の立ち上げを支援してきたが、この特集記事を読んで、これまでもんもんと考えてきたことが、すっきり整理できた。

道の駅は、現在、全国で1,004か所まで拡大しており、全国の市町村数が1,742であることを考え合わせると、概ね3市町村に2か所は道の駅が存在する計算になる。中には非常に交通量が多い都市部に立地する道の駅も見られるが、いわゆる過疎地域で、商圏上必ずしも恵まれていない地域に立地するケースがほとんどだ。道の駅は、ご存知のように、年中24時間利用可能な駐車場とトイレを併設しており、道路利用者の利便性向上を第一の目的として、国土交通省が所管してきた施設である。物販や飲食などの商売をする施設を一体的に整備しており、公益性と収益性を併せ持った施設であることから、その多くは公設民営の整備方式をとっている。

道の駅という絶対的なナショナルブランドを活かし、高い経済効果を発揮している道の駅が見られる反面、交通量が少なく赤字運営を余儀なくされている道の駅も多い。こうした中、現在はほとんどの道の駅で指定管理者制度が導入されており、過疎地などでも民間活力を生かした経営改善に取り組む市町村が多く見られる。こうした中、日経ビジネスでは、道の駅全体で、3,500億円の地方経済を生み出しているとした上で、「人が来ない」、「ブランドがない」「情報がない」「リーダーがいない」という地方の課題に対し、道の駅はこの4つの「ない」を克服し、新たな地方再生モデルに取り組む事例を紹介している。

ちなみに、地場産の商品力で高い集客力を誇る「豊前おこしかけ」(福岡県)、都市部へ出張販売を行っている「舞ロードIC千代田」(広島県)、地魚のブランド化に成功した「萩しーまーと」(山口県)、プライベートブランドを育ている「内子フレッシュパークからり」(愛媛県)、全国の飲食店と取引を拡大する「たまかわ」(福島県)、サービスの徹底と商品開発により集客を伸ばしている「田園プラザ川場」(群馬県)、百貨店流の経営手法により人材育成を進める「どまんなかたぬま」(栃木県)などが紹介されている。

2040年までに日本の7割の市町村で人口が2割減少すると言われるように、人口減少社会化は今後、地方を中心に急速に進むことになる。加えてグローバル化の進展が、地方経済に追い打ちをかける。グローバル化とは、地方にあった工場を海外に移転するなど、国内産業の空洞化を助長することから、地方では過疎化と雇用の場の喪失というダブルパンチを食らうことになる。

日経ビジネスでは、こうした背景の中で、道の駅が人口減少と地盤沈下に歯止めがかからない地方を再生するための切り札になると解説している。また、道の駅は、財政難にあえぐ地方自治体が、限られた投資の中でもリターンを期待できる数少ない活路であるとしている。売上高10億円を超える道の駅はいくつかあるが、過疎地域にあっては2~3億円程度の道の駅が一般的だ。それでも、主要品目である農林水産物の販売は生産者所得に直結するし、生産・加工・販売の6次産業化の拠点施設にもなる。さらには、身近で安定的な雇用を生み出し、高齢者のいきがいの場を提供するなど、地域での波及効果は極めて大きい。

私が特に注目したのは、道の駅の新たな機能だ。以下は、私自身直接話を聞いた事例であるが、コンビニエンスストアを併設する「安達」(福島県)では、震災に見舞われたおり、高度な流通網を持つコンビニチェーンが機能し、地域でいち早くライフラインを復旧させ、道の駅が地域住民にとっての「セーフティステーション」になったと言う。また、「さんわ182ステーション」は、「ローソン」と提携し、山間部の集落・高齢者世帯を対象に、移動販売と注文宅配事業を開始したことに加え、町内の7世帯を対象に安否確認も行っている。

過疎地域では、商店街はもとより小売店も飲食店もどんどんなくなっている中で、地元住民の買い物処や食事処としても道の駅は有用である。また、福祉施設を併設する「清水の里・鳥海郷」(秋田県)や、地域住民が共同出資して生活拠点として整備した「美山ふれあい広場」(京都府)なども存在する。道の駅は、地域住民に対する生活支援機能を発揮しており、まさにコミニュティの核そのものと言える。

道路利用者の利便性向上が、道の駅の第一の目的であることは間違いない。一方、道の駅は集客力を活かして、様々な地場密着型の産業づくりが進められてきた。これがこれまでの一般的な道の駅モデルであった。そして現在、特に過疎地域においては、道の駅を核とした新たな活性化モデルが生まれようとしている。道の駅が地域の生活拠点、コミュニティ拠点となることで、地域の経済だけでなく、地域住民の生活を守り、邑社会を育む役割を担うモデルである。たとえ赤字経営が続いても、地域にとって必要不可欠な役割を果たしていけば、限られた財政からここに資金をつぎ込む意義は大きいと考える。

道の駅を核とした過疎地域の活性化モデルについては、未だ研究が不足している。採算性重視、赤字か黒字かだけが公共施設に求められる風潮にある中で、道の駅が新たな機能を発揮することで、地域に豊かさをもたらす仕組みを研究していきたいと考えた。