第242回 | 2015.06.22

遊休農地課税強化で農地集積は進むのか? ~ 規制改革会議答申を考える ~

政府の規制改革会議はこの度、農地中間管理機構(農地バンク)のテコ入れ策として、遊休農地の課税強化に着手することを明らかにした。農地を耕作する意思のない農地所有者に対し税負担を重くして、農地を手放させ、担い手への集積を促そうという狙いである。2015年度中に検討し、可能な限り早期に結論を出す方針である。

農地バンクによる農地集積対策は、安倍政権が掲げる農政改革の柱であるが、2014年度は14万haの集積目標に対し、その5%の7,300haしか新規集積面積を実現出来ず、惨憺たる結果に終わった。担い手への農地集積が進まない理由として、農地の出し手の不足をあげている。農地の出し手に対して農地集積協力金など、かなり甘いアメを用意しているにもかかわらず制度に乗ってくる所有者が少ないのが実状だ。そこで、農地を出し惜しみする所有者へ、課税強化というムチを振り上げようというものだ。つまり、アメとムチの両方で、農地集積を加速させるという考えである。しかし、こうしたムチの政策で、果たして成果をあげることが出来るだろうか。

先ずは、なぜ所有者は農地を出さないのかという原点から考えてみる必要がある。一度貸したら先祖伝来の土地が帰ってこないのではないかという所有者意識が、最大の課題であろう。次に、農地バンクという制度自体に違和感を感じる所有者も多いのではないかと思う。私が自分の地域で見る限り、農地を貸したい意向を持つ所有者は多いし、ヤミ貸借を含めた農地集積はかなり進んでいると思う。ポイントは、貸し出す先の農家の顔が見えるかどうかだ。もともと地域の顔見知りで、あの人ならと思える農家であれば、地代などもらわずに貸し出す人は多い。農地バンクを利用すると、誰が借りるのか、どのように使うのかが分からず不安が先に立つというのが本音であろう。

仮に課税が強化されるとなれば、所有者にはそれなりの動機付けにはなろうが、こうした不安を払しょく出来ない限り、華々しい成果があがるとは思えない。国も県も市町村の様々なパンフレットを作って、所有者の啓発活動に努めているが、農業委員会やJAとの連携をさらに強化し、時間をかけて地道な活動を継続していくしかないだろう。また、制度上難しい問題もあるが、所有者に対し誰がどのように使うのか、受け手の顔を見せて説得するような仕組みづくりも重要である。

一方、遊休農地は、農地が矮小で変形している、排水条件が悪い、農道が整備されていないなど、耕作条件が悪い農地から発生する。農地バンクでは、こうした農地は受け付けない方針を示しているし、こうした農地の課税が強化されるとなると、所有者は手放すことも出来ず、税負担のみが重くなるという最悪の結果を招くことなる。規制改革会議でもこの点は十分理解していると思うが、優良農地の遊休農地のみを課税強化の対象にするなど、実態を踏まえた制度設計が必要になるだろう。

税法上の問題もある。土地への課税額は、土地の評価額に比例して多くなることが原則であるが、耕作されている農地より評価が下がる遊休農地への課税を強化するとなると、課税原則に反することになる。優良農地の遊休農地のみを課税強化するという私のアイデアについても、課税の公平性などを考え合わせると、かなり無理があるように思う。

話は変わるが、今年の米価はどうなるのであろう。全農はこの秋に収穫する2015年度米の卸売会社向けの販売価格を、14年度産より引き上げると宣言している。12年度産以来の3年ぶりの値上げで、関東のコシヒカリで4%アップなどの目安を示している。在庫調整がひと段落したこと、地域農協などからの強い要請があったことなどから、引き上げに踏み切った訳であるが、最終的な価格がどうなるかは不透明である。

全農が取り扱う米は全流通量の5割弱であり、必ずしも米の流通をコントロールする力はない。収穫前の事前契約数量を14年度産の1.5倍に拡大し、いわゆる予約相対取引により価格を安定させようと考えている。しかし、14年度の卸売価格は前年比16%減の1万2,045円で、店頭での小売価格も史上最低の水準であったにもかかわらず、消費量が増えたという報告はない。今回コメの価格が上がるとなると、消費者のコメ離れに一層の拍車がかかる懸念がある。例え今年度米価が多少上がったとしても、次年度はその反動で暴落する可能性もあろう。

このように考えると、もはやコメだけで食べていく農業は考えにくく、特に生産効率が悪い小規模農家はコメづくりをあきらめ、さらに遊休農地が拡大するという動向は、今後さらに加速することが予想される。農地バンクの状況を見ると、農地を借りたいと思う農家や企業は存在するにもかかわらず、農地を貸そうという所有者がいないというミスマッチが浮かび上がる。しかし、こうした状況にもかかわらず、所有者は農地を手放さない。遊休農地に対する課税強化という発想が出てくることも、分からないではない。

農地は所有者のものではなく、本来国のものであるという見解を持つ有識者は多い。基本的には、私も同じ考えである。自分で耕作出来なくなったのであれば、その農地は国へ返納すべきであろう。特にほ場、農道、水路の基盤整備、さらには治水工事・ダム建設など、多額の国税を投じて整備した優良農地は、所有者だけでの財産であるとは言えないと思う。

所有者は、農地は自分だけの財産だと考えるだろうが、一般の国民には納得がいかない話であろう。こうした考えの所有者達には、重税という名の罰を与えて当然だと公言する人も少なくない。こうした国民の潜在的な感情を考え併せると、遊休農地の課税強化についても、一般国民の多くは賛成に回るのではないか思う。遊休農地を手放さない所有者に憤慨している人も多いという事実を、もっと農家は知るべきだろう。

先に私は、遊休農地への課税強化だけでは、華々しい効果はあげにくいと述べた。それでも課税強化は行うべきだいうのが私の意見だ。現在市町村・農業委員会共に、多くの手間をかけて遊休農地の解消と担い手への農地集積に努めている。こうした努力を後押しするためにも、新たな国策が必要である。課税強化の対象農地の設定、農地バンクのマッチング機能の強化など、細かな制度設計が必要になるだろうが、この度の規制改革会議答申に対する今後の動きを、期待を持って見守っていきたい。