第80回 | 2012.01.16

進む農家の階層化・類型化  ~地域はどんな担い手像を描くべきか~

担い手育成はどの地域でも喫緊の課題であり、農林水産省も来年度は大型の予算を用意しているようだし、近年は県単位でも様々な担い手育成事業に取り組んでいる。流通研究所でも、千葉県の「アグリトップランナー育成事業」をはじめ、多くの研修事業を行ってきたし、私の講演会の依頼も、担い手育成に関する内容が多くなってきた。

担い手を育成する上で、先ず考えなければならないのは、それぞれの地域でどのような担い手像を描くのかを明らかにすることだ。担い手は、新規就農型と後継者型に分類できる。新規就農型については、若者就農なのか、定年帰農なのかによって、目指す経営形態や所得が異なる。後継者型については、個別販売型なのか、JAを核とした共同販売型なのかによって作物も持つべき技能も異なる。さらには、個人経営なのか、法人経営なのかによって、経営規模や持つべき経営資源が異なってくる。どのような担い手像を描くのかは、地域性によって異なり、唯一正解と言えるものはない。

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東京・神奈川県の農家などはその典型であるが、総じて都市近郊型の産地では、個人販売型であって、家族経営による比較的小規模な経営を目指す傾向にある。消費地に近いことから直売・直接取引など自ら有利販売先の販路開拓が比較的容易なこと、農地面積が限られており集積が困難な状況にあることから規模拡大志向を持ちにくいことなどが要因であろう。その代わり、顧客ニーズを踏まえ、栽培技術を日々研究していることから独自の高い技術力を持ち、新たな品種・品目へのチャレンジ精神も旺盛である。体力・気力が充実している若いうちは良いが、10年後・20年後のビジョンを描きにくい点が課題である。経営者として、何を武器に収益を持続的に確保していくのか、個々の経営戦略を持たせることが、育成支援につながる。

一方、都市近郊型の産地では、第二の人生として農業をやりたいと思うサラリーマンが多く、近年定年帰農者が非常に増えている。そこで、各市町でも農業市民塾のような研修制度を充実させているし、販売先は身近に直売所があることから、その気になれば誰でも農家になれる。こうした定年帰農者は、遊休農地の解消や地域活力の向上には寄与しているものの、技術力が伴わない人が多い。また、生活にはあまり困っていないので収入には執着せず、趣味の領域を脱しない傾向が見られる。その結果、直売所へ品質が劣った農産物を超低価格で販売したりするため、売場を台無しにし、本気で農業をやってきた農家が直売所離れを起こすなどという課題も見られる。先ずは生産技術を磨かせ、サラリーマン時代に培った多様な知識・経験・ネットワークを地域農業の発展のために活かしてもらえるような人材に育成していくことが必要であろう。

総じて地方型の産地では、JAが依然として重要な役割を担っている。都市型のように、農家個人が遠方の消費地まで行って販売事業を行うことは困難であり、市場流通に頼らざるをえないため、JAの生産部会に所属し、特定の作物を大量につくる経営形態を志向する。こうした産地は、産地ブランドの形成を目的にしており、地域が一丸となって同一作物の生産に取り組もうとしている。いくつかの産地では、高い所得をあげる農家も多く、担い手も育っている。

しかし、多くの産地で、農家の高齢化が進んでいる。高齢化が進むと、体力・気力の衰えから総じて技術力が低下する。一方、高齢農家も若手農家も平等に扱われるべき組合員であることから、良い物も悪い物も一緒に共選される傾向にある。また、JAが有利販売先を確保できず、市場出荷だけの旧態依然とした販売方法から抜け出せないと、やる気のある農家の不満はさらに高まり、JA離れを発生させることになる。高位平準化と大量ロット生産というブランド化の要件を満たせず、産地は衰退の一途をたどることになる。

そこで、新たな取組として近年増加しているのが、JA出資型の農業法人の設立であり、全国で300件を超え依然増加傾向にある。減少する担い手を、JA自らカバーしようとするものであり、遊休農地の解消にも大きく貢献している。JA全中のアンケート調査によれば、JA出資型農業法人の主な事業は、「稲作栽培」が64%と最も多く(複数回答)、続いて「稲作受託作業」59%、「露地野菜栽培」49%、「普通畑作栽培」20%、「担い手の育成・新規就農者の研修」19%となっている。一方課題は、「ほ場の分散・条件不利地」が68%と最も高く、「農閑期の所得確保」37%、「受託作業の受入体制が不十分」34%となっている。今後は、農地の守り手という役割に加え、産地ブランドの創造・再生、有利販売先確保に向けた地域生産体制の強化といった目的性を持つ法人への育成が必要となろう。

また地方では、トップリバーや野菜くらぶ、和郷園などのように、農家が自ら法人化し大規模化するケースが増加している。共通して言えることは、高い意識を持った農家集団であること、有利販売先を持っていること、担い手育成を理念に掲げていることである。

各県ともに、新規就農者向けの研修事業は盛んに行われているが、研修終了後の就農者の受入先が少ないことが課題である。本来、篤農家のもとで修行を積み、一人前になったらのれんわけしてもらうことが最適な育成プロセスであろうが、家族経営の農家では、研修生を受け入れ、育てるだけの金も時間もない。その点、農業法人は、今後の担い手育成機関として大いに期待できる。近年は、企業の農業参入とあいまって、企業出資型・企業支援型の農業法人も増加している。そこで、行政機関は地域を問わず、農業法人の設立・育成に力を入れて欲しい。法人化への支援は、そのまま地域の担い手育成につながることになる。ちなみに、農家発展型の農業法人は、JAとの連携が希薄になる傾向が見られるが、今後は相互の連携を深め、地域の両輪として担い手育成機能を発揮して頂きたい。

このように考えると、地域によって、目指す担い手像やその育成・支援方策も異なるものとなる。全国の行政機関は、地域特性を踏まえたビジョンを明らかにし、最適な育成・支援計画を立案して、効果的な担い手育成に取り組んで頂きたい。