第254回 | 2015.10.02

農産物直売所の実践的な改善策の提案  ~ 担保経営の再構築に向けて ~

イオンは、これまでグループ拡大の原動力となっていた本部一括の大量仕入方式を改め、各地域や支店に仕入の裁量をシフトすることで、今年度の前半期の業績を大きく伸ばした。消費者志向が多様化し、独自の商品を求める傾向が鮮明になり、これまでのように全国一律の商品が低価格で並ぶような店舗から、利用者の足は遠のく時代になりつつある。一方、最も個性あふれる品揃えを実現しているのが農産物直売所である。直売所ごとに生産者が異なり、販売される農産物が異なる訳であるから、農産物直売所は究極のオリジナル店舗であると言える。

農林水産省の調査によれば、現在の直売所の数は約5,000店舗で総売上は8,000億円を超えているという。全国の八百屋の店舗数は約2万店で総売上は1.2兆円程度であるが、店舗数も売上高も年々減少傾向にあることから、農産物直売所は近い将来八百屋という業態の市場規模を上回ることになろう。それほど農産物直売所は、全国の消費者が支持し、期待する業態に成長したといえる。

農林水産省は来年度、地域ぐるみで新商品の開発や免税品販売などを手掛ける直売所を対象に、6次産業化ネットワーク交付金を活用した支援策を強化する。行政やJA、商工業者などでつくる6次産業化・地産池消推進協議会を設立し、売上目標などを設定した直売所が対象となる。また、支援範囲は、農産加工品などの開発や、外国人観光客向けの専用カウンターの設置や免税対策などとなる。このように、国もまた農産物直売所のさらなる成長に期待しているといえよう。

さて、本日の本題は、農産物直売所の実践的な改善策についてである。自ら行っている直売事業の経験とこれまでの多数の支援実績などを踏まえ、いくつかの改善策を提案してみたい。紙面の関係上、全ては語りつくせず、いずれの提案も導入部分のみになってしまうことをお許し願いたい。

最初にやるべき改善策は、「経営理念」と「行動指針」の策定である。経営理念とは、その直売所の社会的な存立意義と永遠に変わることのない経営方針を示すものであり、例えば「おいしい農産物の直売を通して、消費者の笑顔づくりと地域農業の発展に貢献します」などというものである。加えて、経営理念に基づき、「消費者と生産者とをつなぐ架け橋としての役割を果たします」、あるいは「安全管理を徹底し、鮮度の高いおいしい農産物を提供します」など、店舗の従業員と出荷者の行動指針を定める。経営理念と行動規範は店舗内に掲げ、折に触れて従業員と出荷者、そして利用者に告知し、浸透させ共有化を図る。以下に述べる改善策は、ここから全てが始まるといっても過言ではない。

老朽化した店舗、狭い店舗の改善については、増築、新築が出来ればよいが、予算の関係上難しいケースが多いだろう。私の改善提案は、非常にオーソドックではあるが整理・整頓である。床、壁、天井、照明などは常に清潔にするべきだし、陳列棚はチリひとつ落ちていてはいけない。また、オリコンや段ボールなどを店舗内に無造作においてはならない。さらに、折をみて商品を並べ直す、前進陳列を行うなど、商品の整理・整頓も大切である。しかし、こうした当たり前のことが出来ていない直売所が非常に多いのが実状である。お客への好感度アップはもちろん、店長・従業員のえりを正すためにも、恒常的に取り組んで頂きたい。

次の改善提案は、出荷者の指導・育成と選別である。農産物直売所は、地域の高齢農家などの生きがいの場として位置づけられるケースが多い。それ自体を否定する気はないが、出荷者である以上、しっかりとした安全対策や栽培に関する知識やノウハウを持っていることが条件である。未だ多くの直売所で、農薬の正しい知識も持たない出荷者、生産履歴をつけていない出荷者が、小遣い稼ぎを目的に出荷しているケースが多い。農薬の知識がない出荷者は間違いなく生産技術も低く、おいしい農産物など出来るはずがない。仮にも人の口に入るものを販売する訳であり、そのような出荷者は農家とは呼べないし出荷資格はないと考える。

そこで、指導体制を強化し、例えば定期研修会への参加と生産履歴の提出を義務付け、守れない出荷者には勧告し、それもで言うことを聞かなかったら除名処分とする必要がある。ここは、なあなあでやっては絶対だめなところである。その結果、出荷者・出荷量は減るかもしれないが、元々安全性が低い粗悪品と偽装農家を除外したと考えればよい。それが商品全体の安全性と品質の向上を実現することにつながると、信念をもって断行して頂きたい。

行政が一枚かんでいると、レベルや意識を問わず、出荷者を平等に扱う傾向が見られる。しかし、これは大きな間違いであり、レベルが低い農家は底上げを図りつつ、力のある農家・取り組み意欲がある農家を育成することが、直売所のためにも消費者のためにも、そして地域の農業のためにも正しい選択である。逆に、力がある出荷者・意欲がある出荷者を選別して、生産・出荷面での連携を強化することを提案する。そうした出荷者と共に、必要な品目の生産の増強や出荷時期の延長、さらには買取りを前提とした契約栽培を行い、品揃えの強化・拡充に努めることが効果的である。

商品の出荷規格と販売価格については、商品ごとに下限を定めるべきである。多くの直売所は、「焼け」だらけのなすが5本入って80円、でこぼこの小さなさといもが1袋で150円などといった商品が販売されている。しかし、こうした商品は、売り物でなく、廃棄すべきものである。なぜなら、食べておししくないからで、直売所の消費者の信頼を失う結果になるからだ。直売所の商品規格は、必ずしも市場規格に合わせる必要はないが、直売所を規格外農産物の廃棄場にしてはならない。こうした商品を出す出荷者は、意識も技術レベルも低く、悪貨であり良貨を駆逐する結果をもたらす。低価格の粗悪品が並ぶことで、出荷者同士の価格競争が起こり、商品の品質は全体的に低下することに加え、力のある農家はバカらしくなり出荷しなくなる。

経営改善につながる有効な販売促進策についても触れておきたい。なお、直売所の販売促進については、9月27日(日)の日本農業新聞に、和歌山の「めっけもん広場」を事例とした特集が出ていたので参考にして欲しい。

私の改善提案は、店長・従業員の野菜ソムリエ資格の取得、もしくは野菜ソムリエの雇用である。資格をとるためには、それなりの手間と経費がかかるが、店舗側で経費を負担してでもやるべきことだと考える。また、野菜ソムリエは全国で3万人いると言われており、各県の野菜ソムリエコミュニティを通して新たな人材を募集することも有効である。「めっけもん広場」では、直売所の担当職員13名が野菜ソムリエの資格をとっているという。また、流通研究所の金次郎プロジェクトでは、現在5名の野菜ソムリエを雇用し、店頭での販売促進活動の主役になって頂いている。野菜ソムリエは、もともと農業や食に対する意識が非常に高く、また体系的に勉強をしているため直売所の販促活動の担い手として適任である。

野菜ソムリエが店舗にいることで、全てが変わるといっても過言ではないし、一般の販売員の少なくとも2~3倍は売上に貢献すると考えて間違いない。野菜ソムリエが持つ能力を最大限活用することを考えて欲しい。店頭での商品説明や試食販売はもとより、POPの作成やイベントの企画、食育教室の開催、さらには出荷者向けの研修会の講師など、野菜ソムリエの活動範囲は非常に広く深い。新聞の折り込み広告を出す予算があったら、専任の野菜ソムリエを雇用し、恒常的に店舗で活動してもらった方が、はるかに販促効果は高い。

社会的な期待がさらに高まる中で、売上を伸ばす直売所、減らす直売所へと、今後はさらに二極分化が進むだろう。それぞれの直売所で、検討を重ねて改善計画を作成し、確実に実行することで、消費者と地域農家の期待に応える店舗づくりをめざして欲しい。本日記載した私の改善提案が、少しでも参考になれば幸いである。