第253回 | 2015.09.28

農産物直売所における出荷者確保の提案  ~ 非農家の定年退職者を新たな出荷者へ ~

これまで私は、数多くの農産物直売所の立ち上げや改善に向けた指導に携わってきており、また流通研究所でも自主事業として直売活動を展開してきた。農産物直売所は、鮮度や旬、手頃な価格に加え、地域ならではの特色ある品揃えが消費者の支持を得ており、相変わらず人気である。また、多様な農家が出荷者として参加でき、地域住民が利用者として参加できることから、多くの受益者を担保出来る行政事業として政策効果をあげてきた。

しかし、出荷者の高齢化・減少に伴い、全国のほとんどの直売所で生産・出荷力の減少が懸念されており、農産物直売所への出荷者をいかに確保・育成するかが、共通の取組み課題となっている。そこで本日は、新たな出荷者の確保対策について提案してみたい。提案の骨子は、農園貸付方式などにより、非農家の定年退職者などを新たな出荷者として育成するというものだ。

定年は65歳まで延長されたが、60歳から任される仕事は閑職に過ぎないことから、60歳を契機に新たな人生にチャレンジしてみようという人は多い。60歳代は体力・気力・知力もまだまだ充実しており、昔のような隠居のような人生を送ろうという人は少ない。また、ウォーキングをしているご夫婦をよく見かけるが、こうした方々は健康の維持・増進のための新たなフィールドを求めているといえよう。

全国では、市民農園利用者などを対象に、栽培講習会などを行う事例が多く見られる。農業を単なる趣味で終わらせるのではなく、一歩踏み込んで、人に農産物のおいしさを提供する喜びを得られるような市民農家を育成したいものである。こうした背景から、60歳代の方々、さらには多様な市民を、農産物直売所の出荷者として育成できないものかと考える関係者は多いだろう。

地域にもよるが、60歳代の方々の多くは非農家である。したがってこうした方々が、自ら農地を保有し農産物をつくって販売することは法律上出来ない。そこで、彼らを直売所の出荷者にするためには、いくつかの工夫が必要になる。私が着眼したのは、市民農園の開設手法の一つである農園貸付方式の活用である。以下はそのモデルとなる基本的なスキームである。

先ず、「人・農地プラン」で担い手と位置づけられているような、出荷者の核となる中核農家もしくは農業法人などを選出する。こうした中核農家などに相応の農地を集積し、直売所への出荷品目の生産ほ場を確保する。農園貸付方式により300~1,000㎡クラスの大規模区画の市民農園を開設し、60歳代をターゲットに利用者を募集する。利用者はそこで、中核農家などが提示する栽培計画に従い、中核農家の指導を受けながら特定品目を栽培する。栽培した農産物は、中核農家の名義で直売所に出荷・販売する。中核農家は、利用者の出荷・販売額に応じて、利用者へ「賃金」ではなく「奨励金」などの名目や、もしくは現物(農産物)支給というかたちで対価を支払う。

農地法上、多少グレーの部分もあり、地域の農業委員会によっては異論が出るかもしれない。しかしこうした仕組みにより、地域の遊休農地の解消につながり、直売所の再生に結びつき、さらには市民の農業への理解や参加を促進するのであれば、是非とも検討すべきスキームであると思う。

この場合、中核農家など事業の推進主体のあり方が課題となる。中核農家などは、農薬の知識はもちろん、農業のイロハは参加した非農家へしっかり教え込む必要があるし、出荷する品目の品質・安全性などの責任を持つ必要がある。したがって、1人の農家が多数の利用者の生産指導を行い、多くのほ場の管理をするとなると、相当の手間暇がかかる。したがって、同じ目的のもと複数の農家がグループを作るか、法人組織へ発展させることを考える必要があろう。グループや法人組織であれば、国や自治体の支援を受けやすいし、事業の発展性も期待できる。

相応の売上規模と収益が期待できるのであれば、農園貸付方式を選択するまでもなく、単純に非農家を雇用する方法も検討出来よう。また、複数の農家と非農家が、農業生産法人を設立し、農業生産法人の要件を満たす範囲で、非農家は役員として農作業に従事する方法も考えられる。雇用となると、地域の最低賃金を保証しなければならないが、役員であれば賃金ではなく役員報酬を支払うことになり、最低賃金に縛られることはない。さらには、多様な非農家を組織化、食育や加工まで行うようなサロン的な活動グループに発展させてもよいし、特定の企業と連携し、企業の退職者などを組織的に受け入れる仕組みなども検討できる。

このように、60歳代の非農家を直売所への出荷者として育成する方法は、様々なスキームが考えられる。いずれにしても、中核農家が生産計画を立て、栽培指導をしながら、非農家が土作りから収穫・袋詰めまで行いうという点が、一連のスキームのポイントである。このスキームのもと、10名、20名の非農家が参加すれば、計画的な増産が可能になり、直売所の品揃えも充実することになろう。またその波及効果として、本格的な就農を希望する非農家も登場することも期待できよう。

こうした仕組みづくりのためには、農家だけでは力不足であり、県や市町村の支援体制も必要である。出荷者の減少・高齢化は今後も間違いなく進む。それを嘆いてばかりいても何の解決策も導き出せない。直売所の出荷者の減少という課題に対し、60歳代の非農家に、農業に携わっていきたいというニーズがあるのだから、両者をマッチングさせる仕組みづくりを研究することは重要である。

本日の提案は、まだまだ研究すべき事項がたくさんあると考えている。先ずは、流通研究所の出資会社であり、農業生産法人である(株)おだわら清流の郷で、モデル的に取り組んでみたいと考えている。その結果はいずれ、このブログで公開していきたいと思う。