第180回 | 2014.03.11

農産物のブランド化への道 ~KABS実践報告より~

流通研究所は現在、年度末という一年で最も多忙な時期を迎えているが、私は相変わらず毎週日曜日に、ファームドゥあざみ野ガーデンズ店で販売促進活動を行っている。社長だから暇があるのだろうと思われるかもしれないが、他のスタッフ同様、不眠不休でちゃんと本来業務も行っている。その中でも、KABS(かながわアグリビジネスステーション)の「金次郎プロジェクト」への思いは熱く、私を店舗に駆り立てる。店舗に立ちながら、KABSメンバーが出荷する商品の価値を消費者に伝え、少しでも多く売る努力をしながら、次の仕掛けを考え続けている。KABSについては、何度かこのコラムでも取り上げているが、改めてその概要を記載しておく。

神奈川型のアグリビジネスの創造を目的に、3年前から神奈川県西部地域の若手農家と共に勉強会を重ね、事業化に至ったのが「金次郎プロジェクト」である。現在県内の若手専業農家を中心に26名を組織化し、流通研究所が週3回物流車を走らせ、14か所のデポでの庭先集荷を行い、ファームドゥ(株)が運営するあざみ野ガーデンズ店、港北マルシェサウスウッド店の2店舗の直売所へ配送している。農産物は生産者と話し合いの上、流通研究所が適正価格で買い取り、2店舗に専用コーナーを設け、「神奈川県の若きエース達が、自信と責任を持ってお届けする逸品」をコンセプトに「金次郎野菜」ブランドで販売している。週3回の納品日には、連携している地元の野菜ソムリエが店頭に立ち、試食や商品説明などの販促活動を実施している。また、野菜ソムリエが各生産者を取材し、食育などのコラムを併せて掲載した「金次郎新聞」を毎月作成し、店舗利用者へ配布するといった取組も行っている。

開店から5カ月が経ち、この「金次郎プロジェクト」もようやくこれまでの活動の成果が現れてきた。店舗での固定客(「金次郎ファン」)は確実に拡大しており、売上・収支も大幅に改善し、今後の展開に向けて確かな手ごたえを得ている。本事業は、生産者との共同事業という性格であり、生産者が納得できる価格で買い取り、また物流経費も嵩むことから、店頭での販売価格は一般のスーパーのものより概ね2割ぐらい高くなっている。また、この店舗ではファームドゥ(株)の本拠地である群馬産や市場仕入の安価な農産物も並んでいる。しかしそれでも、金次郎野菜はどれもおいしいと、声を掛けてもらい、安定的に買ってもらえるようになってきた。

ちなみに私は今、「カリスマ販売員」と言われるようになりつつある。目が合ったお客さんには、必ず買ってもらえるようになってきた。もしかすると、コンサルタント会社の社長ではなく、こうした仕事の方が、才能があるのかもしれない。私は、実践的な販売促進活動を通して、お客さんへ価値を伝えるポイントをつかんだ。そもそも「金次郎プロジェクト」は、価値ある農産物を、その価値を伝え適正価格で購入してもらうと言う、生産者と消費者の相互理解とフェアートレードを実現することを理念とした取組である。

お客さんへ伝える価値は2つある。1つ目は言わずと知れた商品自体の価値であり、おいしさ、鮮度、安全性、機能、そして食べ方などである。2つ目は、生産者が持つ価値であり、生産者の姿勢・情熱、工夫・苦労、そして栽培環境などである。この2つの価値を伝えきれば、お客さんは必ずその商品を買ってくれると確信している。

一例として、KABSの看板商品として、松田町の佐藤兄弟が生産する原木しいたけの私の販促方法を紹介したい。このしいたけのおいしさには、私自身大変はまっており、ヘビーユーザーだ。油を薄くひいたフライパンで、適度にカットしたしいたけを炒め、塩を軽くまぶし、最後に醤油を少々たらす。これを自ら手に持って、熱いうちにお客さんに試食してもらう。家族連れの子ども、夫婦連れのだんなさんは、絶対逃してはならないターゲットだ。お客さんが試食して驚愕した顔を逃さず、商品説明を始める。

『しいたけのうま味は、胞子で決まります。大きくても笠が開いて胞子が飛んでしまったしいたけは、うま味はありません。このしいたけは、笠が開かず肉厚で、胞子といううま味がぎゅーっと詰まっています。次に「いしづき」を見て下さい。一般のものと比べて、太く美しく健康で、全くかたちが違います。この違いが、しいたけの価値を決めます。ついでに「いしづき」もご試食下さい。一般のものは捨てる方も多いようですが、このしいたけの「いしづき」は、うま味が最高に凝縮さています。煮物や茶わん蒸しなどでも良いですが、このおいしさを堪能するには、このように手軽に焼いて食べるのがお薦めです。私にとっては、ビールのつまみに欠かせない逸品です。』

『生産者の佐藤兄弟は、蛍の里で有名な松田町の「寄(やどりき)」で、原木しいたけづくりに魂を傾けている若い専業農家です。よりおいしいものを提供しようと、現在5%ぐらいしか流通していない原木栽培にこだわっています。商品を見ても分かるように、最高のものしか作らない、出荷しないという信念を持って取り組んでいます。原木は以前大産地の福島県産のものを使っていたのですが、大震災により原木の入手が困難になり、一時はしいたけづくりをやめようかと悩みましたが、他産地から高価な原木を仕入れてでも続けようと決心した経緯があります。詳しくは、「金次郎新聞」で特集していますので、お持ち帰り下さい。』

これは、佐藤兄弟と長年付き合い、生産現場をよく知る私だから言えるセールストークかもしれない。こうして佐藤兄弟の原木しいたけは、あざみ野ガーデンズ店において、少しずつブランド農産物になりつつある。ちなみに、弟の佐藤夫妻は、27万部発行の、あの「レタスクラブ」の4月号に掲載されるので、是非楽しみにして頂きたい。

農産物のブランド化の道筋は長く厳しい。しかし、この取組を放棄していては、いつまで経っても生産者と消費者の距離は縮まらず、価値ある良いものを作っても消費者は価格でしか判断しないだろう。また、生産者はいくら努力しても安値でしか売れなければ、その情熱は薄れてしまうことになる。そして、その課題解決に向けて取り組むことが、私の経営理念であり、流通研究所の使命であると考えている。