第231回 | 2015.03.30

農産物のブランド化とJAの役割 ~ JAはブランド産地を創造せよ ~

私は、平成25年度と平成26年度の2か年に渡り、「うんといい山梨さんプロジェクト」の推進委員を務めさせて頂いた。この推進委員会は、県内JAの全組合長並びに流通事業者の部長クラスの方々が委員となり、「富士の国やまなしの逸品農産物認証制度」を中心とした県産農産物のブランド力と販売競争力強化に向けて検討を行うことを目的としたものであり、先般26年度最後の委員会が開催された。

周知のとおり、山梨県はもも・ぶどうを中心とした果樹の大産地である。「富士の国やまなしの逸品農産物認証制度」とは、様々な基準をクリアした高品質な農産物とそれを生産する生産団体を認定し、品質と生産者の技術力向上を進めると共に、ブランド力・販売競争力の強化を図ろうとする制度である。平成27年1月現在で、対象品目は19品目、認証団体は114団体に上り、認証品目の平成26年度の出荷量は、ぶどう・もも共に平成25年度の2倍以上となり、制度は軌道に乗ったと言える。トピックスとして、絶好調のシャインマスカットの生産量が急増し、実績の底上げに大きく貢献したことがあげられる。

さて、全国で農産物のブランド化が叫ばれているが、ブランド化はスケール別に分類されることを定義しておく必要がある。流通研究所が販売している「金次郎野菜」は、神奈川県内の若手グループを対象としたもので、そのメインの販売先である「あざみ野ガーデンズ」ではブランド化に成功しつつある。また、市町で進める地産地消ブランドも、ブランド化の一つの手法であろう。本日論じたいのは、年間販売額10億円規模の全国ブランドについてである。

全国ブランドとなると、JAが出荷団体となり、市場流通を通して小売店などに販売される経路がメインとなろう。近年は、大規模生産法人や参入企業等がブランド化に取り組むケースも見られるが、全国ブランドをつくる主役は、何と言っても産地を束ねるJAである。さらに言えば、全国ブランドはJAにしかつくれないし、全国ブランドをつくることはJAの使命であると言える。

では、全国ブランドをつくるためにはどうしたらよいか。ブランドと言うと、超高品質で希少性を持った産品であるというイメージを持つ方が多いのではなかろうか。それもブランド化手法の一つであろうが、それでは多くの生産者の所得向上にはつながらない。生産者の所得向上につながらないならブランド化などめざす意味はない。私は、全国ブランドをつくるためには、「高位平準化」と「ロット」及び「より長い出荷期間」という3つを同時に実現することだと考える。

「高位平準化」とは、常に実需者・消費者の一定の期待を裏切らない品質を維持することを意味する。最低糖度を13度と定めたら、それ以下はブランド名を語らない。Lと言う選別基準を定めたら、いつ箱を開けても同じ基準のものがきれいに詰まっている。色合いが均一であるなどを意味する。「高位平準化」を実現するためには、生産者全員の生産技術を高めると共に、選別・箱詰め工程においても厳格なルールを守り続ける必要がある。

「ロット」と「より長い出荷期間」は、流通面でのブランド化の要件となる。産地でブランド産品だと言っても、数量がなければ流通事業者に取り扱ううまみはないし、売場での露出度が少なければ消費者の認知度も上がらない。「より長い出荷期間」もほぼ同様の理由である。品種を変えながら途切れることなく一定量を長期間出荷できる産地は、売場のフェースを長期間占有でき、消費者の認知を高めることができる。

果実の産地では、有名果実専門店で、驚くような価格設定で定番商品化することを夢見る人も多いだろう。山梨県においても、かつてはこうした戦略に力を入れた時期があった。有名果実専門店で幻の逸品といったトップブランドを販売することで、産地・産品全体のイメージアップを図るという考え方である。しかし、この戦略は間違っていたように思う。有名果実専門店で販売できる数量は極わずかであり、顧客は特定の富裕層に限定されることから、PR効果は思いのほか低い。結果として、有名果実専門店の差別化に寄与するだけで、生産者の所得向上にはつながらず、消費者のブランド認知も広がらない。

したがって、勝負すべき主たるチャネルは量販店となる。量販店で大量に売ることができれば、生産者の所得向上につながり、消費者のブランド認知も拡大する。量販店は価格が安く、ブランド化のための販路ではないと考える人も多いだろうが、量販店で勝負出来なければ農産物の全国ブランドはつくれないと考えるべきである。

しかし、量販店でのブランド化を進めるためにはいくつかの工夫がいる。その一つは、階層別のブランド戦略であろう。階層別のブランド戦略とは、同じ品目を2つ以上の品質階級に分け、異なる価格帯で、別なブランド名を付けて抱き合わせで販売するという手法である。こうした考え方を明確にしてブランド展開している事例は、JA熊本果実連の「デコポン」(一般の品種名は「不知火」)、JA島原雲仙大雲仙の「出羽の華」(一般の品種名は「させぼ温州)ぐらいしかなく、実際にやるとなると難しい。

ここでキーとなるのは有力な卸売業者との連携である。多様な販売先を持つ有力企業であれば、高級品と一般品を抱き合わせで取り扱うことで、それぞれの数量や出荷時期に応じて販売先を柔軟に調整する機能を発揮してもらえる。もちろん、卸としても多様な販売戦術が打てることから、取り扱いのうまみがある。前回の推進委員会では、有力卸の委員から「取り扱ううまみを提供できてはじめてブランド産地である」という発言があった。産地でブランド化を考える場合、総じて産地本位の考え方が先行するが、市場・量販店を含めたWIN・WINの関係をつくり、信頼に基づくパートナーシップが出来てこそ、ブランドづくりが進むと言えるだろう。

全国の産地では、生産者のJA離れが進行しており、農産物の共販率も低下傾向にある。JAを離れた生産者は、独自の販路を開拓し、それぞれの生産者ブランドで販売している。流通構造が多様化する中で、この流れを否定することはできないが、JAの取扱量が減少すれば、ロットが確保できず、産地のブランドの価値はその分下がることになる。一方、販売で組合員を引っ張る力があるJAは、地域での求心力は高いし、JAを離れていった生産者も呼び戻すことができる。

一連の農協改革の政策を受け、JAグループでは、「食と農を基軸として地域に根差した協同組合」として、農家所得の増大と地域の活性化をめざし、自己改革に取り組む姿勢を明らかにした。農産物のブランド化は、こうした理念を実現するための大きな柱となろう。JAにしか産地ブランドはつくれない。そう簡単なことではないことは百も承知であるが、それがJAの社会的な役割である以上、出来ない理由をあげる前に、新たな一歩を踏み出す勇気を持って頂きたい。