第1回 | 2010.01.31

農産物のトレンドをつかめ! ~日本農業新聞例年調査結果より~

私は日本農業新聞が毎年1月に特集している「農畜産物トレンド」に注目している。日本農業新聞が、全国のスーパーや生協、卸売業者などを対象に売れ筋商品の傾向を調査するもので、今年で4回目となる。昨年の天候不順により品薄だった品種に対する期待度が上がり、上位にランキングされるといった傾向も見られるが、概ね小売店での販売実態を反映しているものと言えよう。この調査から、消費者志向・消費者動向がかなり高い精度で分かることから、生産者・産地にとってはマーケティングを考える上での有効な情報となる。以下は野菜及び果実の品種別の上位ランキングを掲載する。
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出典:日本農業新聞2011.1.11、2011.1.12
野菜部門では「高糖度トマト」が4年連続一位である。全国に産地が広がり、周年を通した出荷が可能になり、価格も安定してきたことも大きな要因であろう。2位は昨年ランキング外から躍進した「安納芋」。3位から7位は昨年と同様のランキングであった。ここではっきりしてきたのは「甘い野菜」が売れるということだ。確かに新鮮で栄養価の高い野菜は甘味を持つが、「甘さ」が全体的な購買基準となってきたことに着目すべきである。逆に言えば甘くない野菜は売れないということになる。「日本人は甘党になってきた」と以前このコラムでコメントしたが、甘さは誰にでも分かるし、おいしい野菜の基準であることは間違いない。トマト以外の野菜にも糖度センサーが導入される日も近いかもしれない。

「甘さ」に加え、もう一つの売れ筋のキーワードは「健康」であろう。昨年よりランクをアップさせた9位の「ホウレンソウ」、「ショウガ」、14位の「ナガイモ」、18位も「スプラウト」などにその傾向を見ることができる。余談であるが、近年野菜が持つ栄養価を、生産方法から分析し見直していこうという動向が流通業界で見られる。私が平素懇意にしている大手仲卸業者であるデリカグループは、野菜が持つ栄養価や効能が、どのように人に健康に結びつくのか、病気の予防に貢献するのかを分析し、広く広報している。野菜の持つ真の価値を消費者に分かってもらうためにも、生産者・流通業者と消費者団体がタッグを組んでこうした取組を進めるべきであり、デリカグループの取組を高く評価したい。

このほかに日本農業新聞では、「野菜の売れる条件」についても調査している。今年の上位の条件は「価格」59%、「鮮度」41%、「食味」38%、「調理の簡便さ」23%、「安全性」23%、「機能性の高さ」10%であった。昨年同様「安くないと売れない」といった結果が出ているが、昨年は「価格」が67%と圧倒的なトップであったのに対し、今年は「価格」のポイントが前年より8ポイント下がり、「食味」が17%上がっている点に着目すべきである。昨年の品薄状態を受けて、「価格」だけが基準ではないという潮流が広がったことは大いに歓迎すべきであり、この潮流を本物にしていきたい。

果実については1位の「シャインマスカット」、6位の「ナガノパープル」など、「皮ごと食べられる種なしぶどう」の躍進が目立つ。甘さ、おいしさに加え「食べやすさ」が消費者志向になっていることが伺える。2つの品種ともに新興産地が中心である。先般大田市場の関係者にヒアリングしたが、これらの新興産地は生産指導と選果・出荷体制が徹底しており、市場に送られてくる商品の規格・品質・糖度などが高い精度で平準化していることが特徴であるというのが共通の見解だった。単なる品種が持つ特徴だけでなく、産地側の徹底した取組がランキングを押し上げていると言えよう。

その他については、3位の「せとか」、16位の「はるみ」など中晩かんが上位に上って来たことが注目に値する。いずれも糖度が高くむきやすく食べやすいことが特徴であろう。「夏秋イチゴ」は業務用需要が高く卸売業者からの期待度がランキングに反映されたものと考えられる。現在スイーツなどに利用されている夏秋イチゴのほとんどは輸入もの、冷凍ものであり、国産品を求める実需者が多く、全国の主要産地で研究が進められているが、市販用の商品化まではもう少し時間がかかりそうである。また「ゼスプリゴールド」、「レインボーレッド」などのキウイフルーツも、糖度の高さや安定した品質が評価されているものと考えられ、健闘している。一方、これまで評価が高かったリンゴの中生種「シナノゴールド」、「秋映」はランキングを落としてる。生産量が拡大する中で、早くも供給過剰の状態にあるのではないかと推測する。果実の世界は新品種の開発合戦という傾向があり、一度一世を風靡した新種であっても5~6年で消えると言われている。生産量が安定するまでには5~6年かかるが、やっと安定したと思ったらブームが終わっているといった例が極めて多い。こうした傾向を踏まえ、リスク分散を踏まえた多品種選定や、消費を継続喚起するるためにPR手法などの産地戦略を考える必要があるが、せめて新品種に取り組んだら10年間食べていけるような市場の仕組みができないものかと考える。

この調査では「果実の売上を伸ばすための工夫」についても分析している。その結果、「量目を減らし価格据え置き」57%、「訳あり品増で値ごろ訴求」53%、「産地指定でPBで品質をPR」39%などが上位を占めた。「量目を減らし価格据え置き」は、核家族化・個食化が進む中で、産地と卸が連携して新らしい荷姿やパッケージを工夫する必要があると考える。「訳あり品増で値ごろ訴求」も納得できるが、数量が過ぎると高規格品の価格を引き下げ産地にとって逆効果につながりかねない。PB商品については手法を慎重に検討するべきである。トップの規格品はあくまで産地ブランドで勝負するべきで、その下のランクをPB化し安定した価格で信頼できる販路を確保すべきというのが私の持論である。不意にPB中止を言い渡される可能性もあり、多くをスーパーに依存してしまうのは危険である。産地ブランドとPRブランドを両建てで取り組む場合、PB化するラインは産地の技術力やもともと持つブランド力、生産力を見極め、生産者所得を最大にするブランドミックス戦略を研究して欲しい。

農産物は工業製品ではなく1年単位、数ヵ月単位で栽培品種を変えることはできないが、農産物のトレンドをつかむことは大切である。次の3ヵ年、5ヵ年を見据え、今から取組むべきことを、トレンドを分析することで見極めて欲しい。