第29回 | 2010.12.20

農業者と市民が育む農業とは ~秦野市農業振興計画より~

このたび私は、秦野市都市農業振興計画の策定委員に続き推進会議の委員に就任し、その第1回の会議が去る12月14日に開催された。この会議は、心から尊敬し日ごろから大変お世話になっている明治大学の竹本先生が委員長を務めている。ちなみに来春、竹本先生の教え子を新たなスタッフとして流研に迎えることになる。とても元気で愛らしい女の子であるが、ヤンマーの作文大賞の100万円をゲットした実績を持つ意欲と見識が高い現代っ子だ。さてこの会議は、市内の農業者及び関係団体の代表者により構成され、計画の進捗管理に加え、時代性を踏まえて今後の実践的な手法を提言することを趣旨としている。私は計画策定段階から携わっていることに加え、毎年地域の若手農家と懇親を深めていることから秦野市への思い入れは強い。秦野市の農業の特徴は、神奈川県唯一の盆地であり畑作地域であることと、都市型の産地として市民参加が進んでいることにある。

振興計画は今後3ヵ年で実施すべき99の施策と15の重点事業を掲げ、重点事業などについては目標値を設定している。第1回の会議においては先ず、その進捗状況について事務局から報告があった。重点事業などの目標については「目標以上」「上昇」「横ばい」「下降」「未把握」の5段階で、施策については「完了」「取組中」「未着手」の3段階で評価されていた。目標値を上回る指標としては、「荒廃農地年間解消面積」(目標110ha⇒現状140ha)、「農用地利用権設定面積」(目標27ha⇒現状34ha)、「落花生(特産農産物)の年間出荷量」(目標30t⇒31.4t)の3つがあった。進捗状況を総括すると、目標指標のうち、7割以上が上昇しており、各事業についても9割以上が完了または取組中であることから、全体として計画は概ね順調に進捗していると判断できる。

一方、策定時より数値が下降した指標として、唯一「小学生・親子農業体験事業参加者数」(策定時162人⇒現状148人)が報告された。しかし便宜的に「小学校体験教室」、「ちゃぐりんスクール」及び「親子地場野菜教室」への参加人数を持って目標数値としたため、実態とかけ離れていると考えられる。例えばコープかながわが主体となって実施している里山づくりボランティアには今年県下1,073名の参加実績があるという。また、新たな取組としての料理コンテストや、JAをはじめとした関係団体が実施している各種の農業体験事業への参加者は増加傾向にあるという報告を受けており、農業・農村と市民との交流事業はむしろ拡大しているというのが委員全員の共通認識であった。

秦野市の原動力は何と言っても人材である。現在認定農業者は78名であるが、計画策定後に7名の新規認定を行っており、経営形態は野菜・果樹・花卉・畜産など様々な分野に渡っている。また、以前紹介したが市とJAが共同運営する支援センターでは、人材育成や農地の有効活用などの実践的な施策を推進している。さらに、農業に積極的な参加意向を示す市民の存在が大きい。特に荒廃農地の解消には述べ139名のボランティアが参加し、目標値を大きく上回る実績を上げている。秦野の農業の将来像として「農業者と市民が育む、農のある快適なまち」を掲げているが、まさしく将来像実現に向けて農業者が農業者としての役割を果たし、市民が市民としての役割を果たしていると言える。委員からは、これまで培われた仕組みと高い実績をもっと内外にPRすべきであるとの意見が多く出された。

後半戦は、計画推進に向けた新たな視点について、各委員から意見が出された。先ずは農業者代表の草山副委員長から「観光型農業の推進」が発案された。秦野市では既に若手農家がいちごの観光農園を開設する動きがあることに加え、東京・横浜からも至近距離にあって風光明媚な地域である秦野市では観光農園の成立の可能性は極めて高い。また、JAが運営する直売所「じばさんず」の集客力・認知度は極めて高く、「じばさんず」の固定客などが観光農園のお客になる可能性も高い。

私も3点ほど提言させて頂いた。1点目は「若手農家の育成支援」である。これまでも秦野市の若手農家と交流を重ねてきたが、秦野市では2代目・3代目の若手農家が相当数育っていることが特徴だ。また、いずれもイケメン揃いで情熱溢れる若者ばかりだ。彼らが秦野の農業を背負っていくこれからの主役であるが、彼らの次の世代も育てることで「秦野はかっこいい若手農家が育つ地域」と内外に言われるようにしたい。全国の農村社会では、若者は地域で口を聞けない、新しいことがやりにくい風潮があるようだ。秦野は、若者達がやることに親もご近所も市もJAも積極的に理解し支援する地域であって欲しい。

2点目は「地域循環型農業の推進」である。秦野は人口18万の地方の中核的な都市であり、丹沢山系という自然環境豊かな農・住・自然調和の街である。今後は、既に成熟しつつある市民との協働の取組をさらに発展させ、農商工の連携の連携を強化することで、生活残渣等を活用した土づくりやエコフィードなどの仕組みづくりを進めて欲しい。

そして3点目は「食文化の創造」である。秦野市はらっかせいなどが特産品であるが、総じて著名な伝統食が少ない。隣の厚木市がB1グランプリで優勝し、数十億円の経済効果をあげている中で、秦野も人を惹き付ける様な食の目玉をつくりたい。秦野は古事記にも記載がある歴史のある街であり、その長い歴史に埋もれた食文化があるはずだ。今後近年開始された料理コンテストや地産地消協力店舗をさらに拡充し、食文化を発掘・創造し、農業振興につなげたい。

最後に、今後も応援団員として、隣町の農業専門コンサルティング会社の代表として、秦野市の農家・関係者の皆さんに大きなエールを送るとともに、出来る限りの協力・支援をして行きたいと思う。