第220回 | 2015.01.05

農業新時代の到来。新たなマーケットを創造せよ。~2015年の日本の農業を展望する~

新年おめでとうございます。
皆様にとって、2015年が夢と希望にあふれる年でありますよう
祈願致します。

本日は、年初にあたり、2015年の日本の農業を展望してみたい。2015年は日本の農業にとって大きな転換期になりそうだ。その根拠は、昨年末の衆議院選挙における自民党の大勝である。自民党政権が不動の実権を握ったことで、これまで議論されてきた農政改革は、一気に進むことになるだろう。

一連の改革案を一言で言えば、「共同型農政から市場型農政への転換」である。日本にとって農業は、産業であると同時に地域社会そのものであり、それが日本の国体を成してきた。国民の多くが農業に従事し、農村に暮らし、豊かで美しい国を作り上げてきた。しかし、農業従事者は毎年大きく減少し、農村の過疎化・高齢化には歯止めがかからず、日本人の主食は米からパンへと変わった。これまで農業・農村が持つ多様な役割や価値に対して税金を投入し続けてきたが、農業・農村は、もはや国民が支え切れないところまで来てしまった。残る選択肢は、市場原理を重視して国際競争力を強化し、弱者切り捨てと言われようとも、農業を産業として自立・発展させるほかにない。

自民党の改革案の中核をなすのは、農業委員会、農業生産法人、そしてJAグループの見直しである。特に、全中解体(任意団体へ)、全農の株式会社化、単位JAの金融・共済事業の分離などからなるJAグループの見直しは、市場型農政の本丸と言えよう。早くも、この1月に始まる通常国会において、農業協同組合法改正案を提出することになった。小規模農家の協同組織であるJAグループの崩壊に加え、タイムスケジュールが決まっている減反廃止、もはや回復の見込みがない米価の下落、さらにはTPP参加による輸入自由化の4点セットは、日本農業にとって空前のインパクトとなる。

もはや米では食べていけない、離農するしかないことを全国の小規模農家に認識させることになろう。市場型農政を進めるためには、二度と抵抗勢力にならないよう全国の農家に精神的なダメージを与え、よりどころとなる組織を潰しておく必要がある。これまで農政改革の行く手を阻んできた大きな壁を、根こそぎ崩してしまいたい。改革推進派が長年夢見てきたことが、今実現しようとしている。ここさえ突破してしまえば、その後の改革は比較的容易である。あとは、農地、担い手、生産、流通という各分野でこれまで議論してきたことを、確実に実行すればよい。

農地改革では、農地の流動化がドラスチックに進むだろう。農地法の守り手であった農業会議所は解体され、一昨年設立された農地中間管理機構がようやく実動することになる。先祖伝来の農地にしがみつき米を作ってきた小規模農家・兼業農家は、軒並み農地を手放すことになるだろう。地域に受け手が存在しないのなら、他地域の大規模農家や企業を受け手とすればよい。

条件不利な農地は耕作を放棄し、優良農地のみが集積対象となろう。これまで熱心に進められてきた耕作放棄地対策は、大きく後退し方向転換することになる。耕作放棄地を有効活用して食料自給率を上げようなどと言う空論は、もはや誰も言わなくなる。中山間地域の農地は、米をつくるため、地域を維持するために必要であったが、米も地域も守らないのだから、もはや見捨てて山に戻すしかない。日本の人口が減少し、米離れが加速する中で、そんなに多くの農地は必要ではない。条件が不利な農地では、概ね何を作ってもよいものは出来ない。そもそも耕作放棄地対策自体が、市場原理に逆行するものであることから、政治的な配慮はあっても、今後の予算は基本的に縮小することになろう。

担い手改革の主役は企業になる。農業生産法人の見直しでは、事業要件、構成員要件などが緩和されることに加え、一定期間農業を継続した企業は各種の要件を満たさなくても農業生産法人になれる。以前から、多くの企業が相次いで農業に参入してきたが、この見直し案が実現すれば、その動きは飛躍的に加速することになろう。イオンファームにように、中間管理機構を活用し、土地利用型農業をめざす企業も拡大するだろう。また、この動きと連動して、6次産業化事業体の資格要件を持つ事業体も増加するものと考えられる。

担い手対策では、新規就農対策や大規模化・法人化対策、さらには6次産業化対策が盛んに講じられてきた。しかし農家を主役に据えたこれらの政策は、あまり効果があげられなかった。法人化は徐々に進んでいるが、和郷園や野菜くらぶ、トップリバーなどのトップランナー達を負う動きは総じて鈍い。JAと同様に、農家が自己改革をすることはハードルが高いのだう。農地は農家のものではなく、農業もまた農家だけのものではない。農地や農業を守るためにも、農家に代わり、企業を担い手の中核に据えるべきだ。こうした考えが、急速に社会に浸透するだろう。

生産面に関する改革は、米の改革に他ならない。国内の需要は毎年減少し、輸出拡大の可能性はありえない中、減反廃止を待たずに、米価はさらに下落し続けるだろう。食料自給率向上という御旗のもと講じられている飼料米などの増産対策は、補助率9割以上という実態を考えると、そう長くは続かない。現在輸入に依存している飼料、麦、大豆などを国産に変えようという試みは理解できるが、品質がよく圧倒的な価格優位性を持つ輸入品と勝負することは難しい。米を中心とした穀物類の生産現場は、改革政策を講じるまでもなく、国内需要に合った自然淘汰が進むことになる。

一方、施設園芸は、企業参入とあいまって、工業化が進むだろう。近年、植物工場化や情報化、再生エネルギーの導入などについては、多くの補助事業が創設されてきた。これまでは、施設園芸の多くが農家の職人技に支えられてきた。秀品づくりのコツは、農家の感と経験によるところが大きかったが、それが科学的に分析され、栽培環境の制御と情報管理により、誰でも一定の秀品がつくれるようになる。このことは、施設園芸における雇用の拡大、大規模化、法人化を加速させることにつながり、農業のあり方自体を変えることになる。さらに、施設園芸だけでなく、露地栽培の領域でも、環境制御と情報管理による工業化が段階的に普及すると考えられる。オランダの背中が見える時は、近づきつつあると言えよう。

最後に流通改革について述べる。流通改革では、全農の株式会社化が大きなポイントとなる。日本最大規模の農産物の商社機能を持つ全農が株式会社化すると、長い歴史を持つ市場流通の構造が変わらざるをえなくなる。さらに単位JA以外の民間企業が全農へ出資可能な法改正が進む可能性が強く、そうなればその商社機能はすさまじいパワーを発揮することになろう。

これまで農産物流通の大動脈だった卸売市場は、消費形態の変化、流通形態の多様化に伴い年々取引量が減少し、全国で多くの卸売市場が閉鎖に追い込まれて来た。現在、拠点市場以外は中央・地方の区分をなくすなどを目玉にした第10次整備計画の策定に向けた作業を進めているが、国が改革案を出すまでもなく、市場統合や廃場など業界再編が急速に進展することだろう。市場の構成員だった仲卸や小売商は、力のない企業が次々に廃業に追い込まれているし、卸売業者の経営悪化や倒産の可能性は高まりつつある。

こうした状況の中、卸売市場の最大のパートナーだった全農が株式会社化した場合、全農はさらに出荷する市場を絞り込む一方で、全農青果センターの有効活用を含め、市場外流通となる直接取引など有利販売先の開拓に力を入れることになるだろう。かつて市場を支えてきた街の八百屋は激減し、大手資本を中心に小売業の再編や業態転換が進んできた。今後の卸売市場は、株式会社した全農、大手資本の小売業などを顧客に、相対取引から市場直販などへと取引形態を変えつつ、総合的な品揃え機能や物流機能、加工機能を持つなど特化した市場に転換せざるをえないだろう。

農政改革に伴い、農業は新時代が到来することになる。したがって、農業関係者は、それぞれの立場で、これまでの規制概念や伝統的なやり方を見直し、新たな発想による新たな手法を開発していく必要がある。古き良き時代を懐かしんでいる者、立ち止まっている者、泣き言を言ってばかりいる者は、時代に取り残されて負け犬になる。私はむしろ、大きな時代の流れの中で、新たなマーケットが生まれる大きなチャンスが到来していると思う。そして、そのマーケットを創造した者が、新時代の主役になるだろう。

「マーケットを創造せよ」、これが2015年の流通研究所のメインテーマであり、年初にあたり、私はその先兵となると誓う次第である。