第189回 | 2014.05.19

農業改革は始動するか? ~規制改革会議・農業ワーキンググループからの提案~

先週、国の規制改革会議の農業ワーキンググループから、農政改革に関する提案が公表された。今後は、この提案を受けて検討・審議を重ね、そのいくつかは政策として導入されることになろう。しかし、安倍政権が進める成長戦略に盛り込むとなると、6月には与党でとりまとめ作業を行うことになり、改革の推進はかなり急ピッチで進む可能性もある。先ずは、この度の提案内容を整理しておく。

【規制改革会議・農業ワーキンググループからの提案の骨子】
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農業委員会の見直しについては、以前から情報が流れていたことだ。全国農業会議所を筆頭とするピラミッド構造を解体し、農地の運用は市町村の自主性に委ねることになる。これにより、例えば企業の農業参入がより容易になり、農地の流動化が柔軟に進む可能性が強い。しかし、農協組織と両輪で日本の農業を動かしてきた組織だけに、解体するとなると、かなりの混乱が起こることが予想される。また、この組織は、多くの職員を抱えていることから、職員の身の振り方も大きな課題となろう。

農業法人の見直しについては、これまで何度も改正が行われてきており、この度はその集大成と位置づけられる。これまでは、農家の法人化が農業生産法人という位置づけにあったが、今後は農家と商工業者などが連携して、農業生産法人を設立するという動きが活発になることが予想される。また、農業生産法人の事業が農業だけに留まらず、加工・直売など、6次産業化の事業領域まで拡大することに加え、例えばレストラン運営など農業関連以外での経営の柱を立てていくことも可能になる。さらに、農地法の改正により、すでに農業参入している企業は、自動的に農業生産法人になれることから、企業が農地を取得でき、事業を飛躍的に拡大することも可能になろう。

担い手不足、農家の高齢化、遊休農地の拡大がこれだけ顕著化し、農家だけでは地域農業は守れないことが明らかになっている昨今、企業のさらなる参入により、農業のあり方を根本的に変える時代に来ていると言える。また、生産者と実需者が強固に連携することでバリューチェーンを構築するなど、6次産業化ファンドなどを活用した新たな事業展開が加速することを期待したい。

これまで何度も検討の土俵に上がっていた農協の見直しについては、農政改革の本丸であろう。改革案は、農協の「見直し」ではなく、「解体」を意味するものである。中央会の廃止は、農協組織の政治への影響力を決定的に減退させるものであろう。また、全農の株式会社化は、全農の販売力が一層問われることになり、有利販売が出来ない全農及び県本部は単位JA離れを加速させることになろう。

単位JAでは、実質的に、これまで収益の柱であった信用事業・共済事業を取り上げられることになる。代理・窓口業務でどれだけの手数料を確保できるのかは今後の検討課題であろうが、JAバンクを目指し支店の整備に多大な投資を行ってきたJAや、専任制などによって人材の育成に力を注いできたJAにとっては死活問題になる。また、今後も正組合員数は減少することが明らかである一方で、准組合員の事業利用を厳格に制限されることは、単位JAに対して「今後は事業を縮小しろ」と言っていることに他ならない。

私は基本的にJAファンであり、JAは日本の農業・農村にとって必要不可欠な存在であると考えている。それゆえ、農業・農村の振興という社会的な使命を果たすJAへ自己改革すべきことを繰り返し述べてきたし、現場でも支援にあたってきた。社会的使命を果たせない組織、社会に存在意義を認めてもらえない組織は、民間企業であれJAであれ、消える運命にある。JAが、自ら変わろうと努力をして来たことは認める。しかし、その努力はあまりに緩慢で、改革の速度は遅かったと言わざるを得ない。けつに火がついた今、政策への批判を繰り返すだけでなく、存続を欠けた改革を断行することを期待したい。