第146回 | 2013.05.27

農林水産事業者主体の事業体をつくれ ~6次産業化ファンドの活用上の課題~

今年2月に鳴り物入りで創設された「6次産業化ファンド(農林漁業成長化ファンド)」であるが、その活用にあたっては大きな取組課題がありそうだ。このファンドの基本スキームについては以下のチャートを参考にして欲しいが、そのポイントは、国や民間の共同出資により基金をつくり、農林漁業者と企業が共同出資する6次産業化事業体へ、出資、貸付、及び経営支援を行うことで、産業間連携による6次産業化を促進しようというものだ。これは、安倍政権が打ち出している、6次産業の市場規模を現在の1兆円から10兆円に拡大するという途方もない政策目標達成のための、重点施策のひとつである。

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*(株)農林漁業成長産業化支援機構ホームページより

6次産業化ファンドの創設にあたっては、多くの議論が積み重ねられてきた。その中で、このファンドは、企業のものではなく農林漁業者のためのものであり、あくまで農林漁業者主体の事業体を対象にするべきであるとの結論に至り、JAグループも出資や窓口業務を担うなど、農林水産業振興を柱にしたものになった。しかし、それゆえ、大きな取組課題が浮上することになった。

6次産業化ファンドを活用するためには、活用主体となる「6次産業化事業体」は、農林漁業者の出資割合が51%以上であることが前提条件として掲げられている。例えば、農家が金をかき集め、100万円の出資金を作った場合、共同出資する企業は100万円以上の出資金は出せず、サブファンドが出資したとしても、この会社の資本金は最大398万円にしかならない。借入金を活用することも考えられるが、資本金が少ないと、自ずと事業規模は小さくならざるをえない。潤沢な資金を持つ企業が6次産業化ファンドを活用したいと思っても、パートナーとなる農家を見つけ出し、金のない農家に金(出資金)を出させ、経営ノウハウもない農家に経営を委ねなければならないことになる。

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*(株)農林漁業成長産業化支援機構ホームページより

企業の潤沢な資金を活用したいのであれば、野菜くらぶがモスバーガーと共同で設立した「(株)サングレイス」のように、企業が出す出資金は「議決権のない株」とする裏ワザもある。この場合、企業は、金は出しても口は出さないことになり、経営権を持てず、メリットが少ないことから、成立しにくいパターンであると考えられる。したがって相応の事業を展開するためには、ここで言う農林漁業者とは、JAやJFのような経済団体か、資金力・経営力がある農業法人などに限定されることになる。

6次産業化ファンドは、農業参入を目指す企業にとっては、期待が高かっただけに、既にそっぽを向かれてしまった感がある。現実的に、これまで総合化事業計画の認定を受けた事業体の多くは、企業が参加しない農林漁業者だけの単独事業体になってしまっている。資本金も融資も大した金額にならないことから、ファンドを使って大きな事業はできない。書類申請など多くの手間がかかる割に、メリットが少ないと考える企業が多いものと考えられる。

しかし、農林漁業者にとっては、やはりチャンスである。例えば、資本金300万円の既存の農業生産法人が、企業から100万円の増資を受ければ、6次産業化事業体としての要件を満たすことになる。その上で、出資企業との連携により、新たな事業展開が可能になる。総合化事業計画を作成して6次産業化法の認定事業者になれば、サブファンドから最大398万円の出資金を出してもらえることになるし、無担保・無保証のローンも受けられる。大きなビジネスは出来なくても、多様なノウハウやネットワークを持つ企業と連携して、身の丈にあったビジネスを展開できる可能性は高いと考える。一方、企業が、複数の農林漁業者へ出資して、全国に生産拠点をつくり、強固なサプライチェーンを作り上げることも有効であろう。

ファンドの具体的な活用手法は、いくつか存在すると考えられるが、ファンドが出来たばかりで先進事例が乏しいことから、当面一層の研究と実証的な取組が必要になるものと考えられる。現在流通研究所では、KABS事業の一つとして、農家達と共同出資で農業生産法人を設立する作業を進めている。この法人は、当面、農作業の受託作業やコメのブランド化・有利販売から始める予定である。しかし、将来的には様々な6次産業化事業にも着手していく方針であり、その場合、6次産業化ファンドの活用も検討したい。流通研究所は、自ら実践しながら、ファンドの有効的な利活用手法を研究していきたいと考えている。