第221回 | 2015.01.13

農地を貸しだそう! ~農地バンク 足りぬ貸し手~

前回の二の釼では、今後農地の流動化がドラスチックに進むだろうと書いた。米価の下落に伴い、農地バンク(農地中間管理機構)がようやく効果的に機能するようになり、先祖伝来の農地にしがみつき米を作ってきた小規模農家・兼業農家は、軒並み農地を手放すことになるだろうという意見だ。確かに、中長期的には流動化が進むだろうが、現実的にはまだまだ時間がかかりそうだ。先般の日経新聞には、「農地バンク足りぬ貸し手~政府目標達成に黄色信号~」という社説が掲載されていた。

日経新聞によれば、点在する農地や耕作放棄地をまとめて借上げ、税金で整備した上で担い手へ貸し出すという農地バンクの活用があまり進んでいないという。借り手の需要は旺盛だが、農地の供給が増えない、つまり農地所有者が農地を貸さないために、今年度中の政府目標である14万ヘクタールの達成が難しくなってきたというものだ。

全国ベースでみると、2104年9月末時点で、約3万件の生産者が約23万ヘクタール、約500社の企業も1万ヘクタールの農地の借り受け希望を出している。しかし、2014年の8月末時点で全国で貸し出した農地は552ヘクタールで、目標面積の約4%、借受希望面積の約2%にしか過ぎない。この秋の米価の下落で、この3月末までに貸し出ししようという地権者は増えるものと考えられるが、目標達成に向けた道筋は見えないようだ。

農地バンクの貸し出し期間は10年が基本であり、要望に応じてその後地権者に農地は戻る仕組みになっている。しかし相変わらず、「貸したら返ってこないのではないか」、「親族・知人なら貸してもよいが、他人には貸せない」といった昔ながらの考えを持つ地権者が多いようだ。全国で、土地持ち非農家は約137万戸で、その所有面積は約20万ヘクタールである。農業はやらなくても、財産としての農地は手放さないようだ。

農林水産省は、貸出面積に応じて30万円~70万円を配る経営転換協力金、農地バンクが既に借りている農地の隣接地を貸す場合に10アールあたり2万円を交付する耕作者協力金、まとまった農地を貸し出した地域に10アールあたり2万円~3万6千円を出す地域集積協力金の3本柱の施策で、貸し手の拡大を促している。農地を貸せば、その時点で現金がもらえる訳であり、こんなに優遇された措置はないだろうと思うのだが、それでも貸し出しは進まない。

一方、政府は、農地を所有できる農業生産法人への非農家の出資比率を25%未満から50%未満へ、そして5年後には50%以上の出資も容認することをを趣旨とした農業生産法人の見直しを進めており、企業の農業参入を促している。企業の力も借りながら大規模経営と生産コスト削減を実現して、競争力の強い農業経営への転換をめざす政策として、私も多いに期待している。しかし、肝心の農地の集積は進まない状況にある。

年齢別に見ると、全農家数の60%以上が65歳以上の高齢者が占め、既に60歳代というより70歳代が農業を支える主力になっている。これらの層があと10年も経てば亡くなり、その多くは後継者はいないことから農地のみが残るという状況が生まれよう。こうした層は機械の更新も困難であり、機械が壊れるのが先か、体が壊れるのが先かといった状況で、離農までのカウントダウンが始まっている。そしてそのことは、当の本人が一番よく分かっていると思う。その多くは人の話に耳を貸さないような、いわゆる「頑固じじい」であるが、この「頑固じじい」達をいかに説得するかがポイントとなろう。

そのためには、地域ごとの地道な啓発活動を継続していくしかないと思う。「人・農地プラン」の協議のための集落座談会や、JAの部会、農業委員会での会合、さらには自治会の定例会など、様々な寄り合いの場で、農地を貸し出す意義、メリットなどを繰り返し説明し、話し合いを持つことが重要である。そして地域ぐるみで、「農地を貸しだそう」という雰囲気を作っていく必要がある。「周りのみんなが貸し出そうと言っている」、「隣もその隣も農地を貸し出したようだ」となれば、「頑固じじい」達の気持ちも少しずつ変わることになろう。

日経の社説では、成功事例として熊本県の取組を取り上げていた。県知事と熊本のマスコットキャラクターである「くまモン」がツーショットで、農地バンクへの農地の貸し出しを呼び掛けているというものだ。また、イオンなどの会場を活用し、県内6か所で「農地貸し出し応援キャンペーン」を開催すると共に、県庁内に専門部署を設け約50人の推進体制で臨んでいるという。こうした行政施策も非常に効果的であろう。

その際、キャンペーンの対象は、農地を保有する地権者だけでなく、広く県民も含めたものにするべきだと考える。農地の貸し出しは、農家・農業のためだけでなく、国民・社会のためでもあるという社会的風潮を作り上げていくことで、「頑固じじい」達が気持を変えざるをえない状況をつくっていくことが効果的であろう。地域での啓発活動による地上戦、国・県・市町村によるキャンペーン活動による空中線の両面作戦で、確実な成果を狙っていくことが基本戦略となる。

そして、農地を貸し出させるための最終兵器は、米価の更なる下落であろう。現在農林水産省は、米価の安定対策のための来年度予算の増強に取り組んでいるが、財務省の壁は厚いようだ。米価が安くなっても国民の米の消費は伸びない。来年度の作付面積は大きく縮小しないだろうから、さらに米価が下落することになる。稲作に対する生産意欲が減退すれば、農地を貸し出そうという気持ちになる地権者も増えるだろう。

よく農家は、「先祖伝来の土地」という言葉を使う。しかし本当は違うし、そうした考えは農家の傲慢に過ぎない。多くの土地は、戦後の農政改革によって、国から小作農へ分配されたものであり、もともと農家が所有していたものではないはずだ。農業を続けられないのなら、後継者がいないのなら、本来その農地は国へ、そして国民に返すべきだ。そして、それが赤の他人であれ、その農地で農業をやりたいと願う人々へ託すべきだ。さあ、農地を貸し出そう。その行動が、地域にとって、次世代にとって、大きな財産を残すことになる。