第60回 | 2011.08.15

農商工連携にチャレンジしよう! ~成功に向けたポイント~

今年になって農商工連携に関する講演依頼が増えている。これから本格的に取り組もうとする地域が増えているのであろうか。

NPO法人農商工連携サポートセンターの代表をつとめる大塚氏によれば、平成20年7月に施行された農商工連携促進法は、昭和元年に農商務省が農林省と商務省分離して以来の連携であり、犬猿の仲とされている農林水産省と経済産業省が省庁の垣根を超えて手を結んだ画期的な法令だったそうだ。また、平成21年には農地法が改正され、「農地は耕作者みずからが所有し耕作すべきだ」という原則が、「農地は地域資源であり有効に活用されなければならない」と大きな方向転換があり、原則的に企業の農業参入が可能になった。さらに、平成22年には「地域資源を活用した農林漁業者による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」、通称・6次産業化法が成立したことが、農商工連携の取組を加速させる要因になっているものと考えられる。

農商工連携事業とは農林水産業と商工業者が、通常の商取引よりもう一歩踏み込んだ連携を行うことによって、魅力ある新しい製品やサービスを創造し、地域に雇用を生むことを目的としたものである。農商工連携事業の認定状況は平成22年度末まで435件であるが、商品開発がほとんどで、サ-ビス分野は3%に過ぎない。経済産業省では、新事業活動促進支援事業という補助事業を創設しており、試作品開発、農作物の買い取り、市場調査、展示会出展、専門家派遣、セミナー開催などの支援などソフトな取組に対し、2,500万円を上限に(但し技術開発を伴う場合は3,000万円)2/3の補助が出る。この他に、無担保・無利子の農業改良資金が活用できるなど、支援内容は充実している。

農商工連携については、千葉大学の斉藤先生が日本の第一人者であり、43号でも紹介した「農商工連携の戦略~連携の深化によるフードシステムの革新~」という著書で深堀りしているので、余裕のある方は一読されたい。ちなみに、農商工連携、6次産業化、地域内発型アグリビジネス、あるいは食料産業クラスターなど、同じような言葉を耳にするが、私としては以下のように整理している。6次産業化の主役はあくまで農業者で、農業者が生産に加え、加工・販売・交流等、川下分野へ事業を拡大するものである。これに対し農商工連携は、実質的には商工業者が主役で、農業者からの原料供給を受け新商品を開発するなど、商工業者の事業の多角化という性格が強い。地域内発型アグリビジネスは、集落営農組織などの集落が中心となった取組で、6次産業化の発展型と言える。また、食品産業クラスターは、地域が主役であり、農業団体や複数の企業が集積し、生産から加工・販売までのフード・システムを完成させようとするもので、地域によっては県ぐるみの取組も見られる。

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現在フードアクション・ニッポン・アワードを募集中であるが、昨年、一昨年の受賞内容をみると、その取組の多くは農商工連携であることがわかる。以下では、昨年受賞した取組の中からいくつかを紹介し、農商工連携の具体的な内容について考えてみたい。

先ずは、製造・流通・システム部門の最優秀賞に輝いた(株)ヤマキについて紹介する。ヤマキは、農家から素材を預かり、味噌、醤油などの加工品として返す「消費者御用蔵」として明治35年に創業以来、生産者から消費者までを結ぶ循環型農業を実践してきた。同グループの農業生産法人が直営、及び地方の生産者と契約する田畑で育てられた有機栽培の大豆、麦、米、野菜などを、醤油、味噌、豆腐、漬物などに製品化し、国産100%の食品を消費者に届けている。現在、直営及び契約する有機農場は全国で約250haに及び、地域農業の活性化のため、休耕田の再生にも注力している。また圃場の一部は、消費者が環境保全型の有機農業への理解を深めてもらえるよう土づくりから収穫までを体験できる「畑の樂校」として活用しており、参加者は年々増えている。 プロダクト部門の優秀賞を受賞した道央農業協同組合では、新品種小麦「ゆめちから」のデビューをきっかけに、生産者をはじめ、地元製粉会社、レストラン、パン屋、小売店など生産から流通、加工、販売に至る地域関係者とともに、平成21年5月にJA道央「小麦プロジェクト」を立ち上げた。地場産小麦を使ったパスタや強力粉などの商品開発と、消費拡大に向けた取組を展開している。地産地消を通じ、食料自給率の向上を目指して、現在オリジナルパスタと強力粉を開発・商品化し、販売している。コミュニケーション・啓発部門を受賞した(株)アコーディア・ゴルフは、グループ会社(株)ハーツリーレストランシステムと協力し、全国123のゴルフ場レストランで地産地消ランチメニューを提供している。「鴨川港直送舟盛り御膳」(千葉県)、「伊勢赤鶏のじゅ~じゅ~チキン南蛮」(三重県)、「三原産ちこ鯛の釜飯御膳」(広島県)など、各地の特色を活かしたメニューに仕上げている。また、平成22年4月からお土産として国産うるち米を100%使用した「ふぁふぁ米粉シフォンケーキ」を販売。そのほか、国産食材の利用を条件とした、全国店舗の従業員対象の「全国料理コンテスト」なども開催している。

こうした事例を踏まえ、私が考える農商工連携の成功に向けたポイントを以下に整理する。

ポイント1理念とビジョンが地域を動かす
農商工連携は、当たり前であるが、自分だけでは完結できずパートナーが必要な事業である。パートナーシップの構築のためには、目先の利益だけではなく、理念とビジョンについて共有することが大切である。理念とビジョン、社会的意義と使命が人を動かし、連携に結びつける。次世代に誇れる取組か、地域への波及効果が期待できる取組かについて自問して頂きたい。農商工連携は、ヤマキのように、多数の農業者の理解と共通の理念のもとに成立するケースが多い。商工業者が一人勝ちするような内容では、多くの人々との持続的な取組は見込めない。

ポイント2行政マンは仮説とステージを用意せよ
文かや商売のやり方が全く異なる農業者と商工業者は容易にくっつかないし、なかなか理解し合えない。そこでマッチングには、双方の状況が分かり地域を俯瞰できる行政マンの役割が重要になる。軸足を双方に置いて地域を見据え、農商工連携を仕掛ける仕事は行政マン冥利につきると言えよう。全国の成功事例の影には行政マンがいる。近年農商工連携のコーディネーターを育成しようという動きが見られ、これは重要なことではあるが、コーディネーターを育てる前に、自らがコーディネーターになるという発想を持ちたい。

ポイント3組織づくりより人づくり
農商工連携の推進に向けては先ず、農業者同志の組織や、農業者と商工業者の協同組織が必要であると考える人が多い。間違いではないが、組織づくりには時間と手間がかかる。それよりはリーダー達を育成することの方が大事で、リーダーが固まれば組織は後からできる。1人のきちがいと3人のばかがいたら何でもできる。組織づくりは長期計画で、人づくりは短期計画で考えよう。なお、その際、女性の能力を活かすことも重要だ。なぜなら商品・サービスを買うのは8割が女性であり、男性より女性の方が潜在的なマーケティング力を持っているからだ。

ポイント4取引から取組へ
これは、私の友人であるヤマケンさんの言葉である。「取引」とは取っては引く駆け引きを意味するが、「取組」とは取った手をいつまでも組んで共に進むことを意味する。農業者と商工業者が一緒に商売を始める場合、短期的な取引感覚では発展は見込めない。お互いを理解する努力とコミュニケーションが生命線であり、苦しい時こそ歩み寄り助け合う姿勢が求められている。

ポイント5物語をつくって地域をブランド化する
農商工連携の事例の多くは加工品開発であり、農産物の規格外品を有効利用し、特産品を売っていこうというケースが多い。ここで重要なのは、なぜその商品に取り組むのか、その必然性が明確になっていることである。ヤマキのように、国産大豆を活用して100年前の製法と味を100年後も国民に届けたいといった、理念に基づく物語を作るとともに、価値を持ち、価値を伝え、価値を管理するブランド戦略を展開することが重要である。その際、商品を売り込むのではなく、地域を売り込むといった支店で販売促進活動を展開することが有効である。

ポイント6第一ターゲットは地域住民
出来た商品は、何といっても東京で売ろうという人が多い。しかし、地域に愛されない商品、地域で評価されない商品は、東京では売れない。百貨店のバイヤーのところに新商品を持っていくと、「これは地元でどれくらい売れていますか」と必ず聞かれる。ターゲットはまず地域住民、次に観光客、実績を作って最後は都市部住民というものが基本的な道筋となる。地域に応援団ができ、観光客から注目してもらってはじめて東京で売れる商品へと成長する。

さあ、農商工連携に取組もう。追い風は吹いている。地域には、たくさんの農林水産資源と人材資源が存在する。農業者や商工業者はもちろん、行政も関係団体も一体となって、思いをかたちにしよう。