第225回 | 2015.02.16

農協改革で地域農協は再生するのか? ~ピンチをチャンスに。頑張れJA!~

農政改革の議論がどうやら決着しそうだ。「全中は監査・指導権制度を廃止」、「全農は株式会社への転換」、「地域農協は理事にプロ農家を登用」がその骨子だ。過去60年間にわたり、日本の農政に大きな影響力を持っていた全中を実質的に崩壊させ、これまで護送船団方式をとってきたJAグループに競争原理を吹き込むことで、地域の特性に合った経済事業を誘発し、地域農業の振興に結び付けようという狙いがある。

政府の規制改革会議では、こうした改革に加え、准組合員の利用制限についても協議されていた。多くの地域農協では、農家である正組合員数と、非農家などの准組合員数は逆転しており、准組合員を対象とした金融・共済事業を強化することで、経営を維持しているのが現状である。「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の1/2を超えてはならない」ことになれば、地域農協は瓦解するしかない。正組合員は、高齢化・離農により今後減少することは明らかで、それに応じて事業量は縮小することになる。経済事業はどこの地域農協でも赤字だ。その赤字を賄うための金融・共済事業を制限されては、地域農協はもとより地域農業自体も崩壊する。政府は当然こうした構造は熟知しているだろうから、准組合員の利用制限などと言う愚かで常軌を逸した制度改革はやる訳がないと信じる。

さて、この度の農協改革で、地域農協はどう変わるのか。注目すべきことは、やはりプロ農家の理事への登用である。その成否は、理事になるプロ農家の能力によるところが大きい。認定農業者などのプロ農家は地域に数多く存在するが、そのほとんどは、農業はプロでも経営は素人で、財務諸表さえ読めない農家が多い。こうした農家を経営者として登用したら、地域農協の経営はすぐに傾くことになろう。登用すべきプロ農家は、少なくても法人化して会社経営を実践している人材で、経営感覚が優れた人材でなくてはならないが、私が知る限り、そのような逸材はほんのひとにぎりしかいない。

しかし、そのひとにぎりの逸材が地域農協の経営陣に入れば、大きな変化が生まれるかもしれない。地域農協が再生するためのキーワードは、「企業との連携」であり、民間発想を持った優秀な人材が経営を担えば、企業との連携による様々な事業にチャレンジすることになろう。

企業との連携による新事業の1つ目が、共同出資による生産法人の設立である。すでに、JA富里市のように、企業の出資を仰いで農業生産法人を設立する事例が見られるし、四穀作では、JAが地域農家あるいは行政と共同出資して法人を立ち上げる事例も見られる。農協改革と並行して、現在農業生産法人の見直しが検討されており、近い将来、これまで農家主体だった役員要件や出資要件などは緩和されるものと考えられる。そうなれば、JAと企業との共同出資型法人が急増してもおかしくない。

参加する企業は、既存の地域の生産法人に加え、食品メーカーやスーパーはもとより、商社・卸売会社、IT企業や物流会社など、多様な業種が考えられる。なぜなら企業にとって農業は、それほど魅力があり、伸び白が期待できる成長産業だと捉えているからだ。また、企業にとって地域農協は、農業分野に留まらず、地域に密着した組織体として、非常に魅力的な組織と捉えているからだ。

この共同出資法人は、従来の米や露地野菜だけでなく、施設園芸や植物工場の分野への進出も予想される。JAが持つ潜在能力と、企業が持つ生産技術やIT技術、ネットワーク力が合体すれば、様々な農産物の生産が可能となろう。これまでJAは、組合員を対象に、指導・販売・購買事業を行うことが領域だった。しかし肝心の組合員は減少し続ける一方で、大規模農家の農協離れが進行し、事業量は縮小しつつある。この流れを止めるためには、地域農協自らが農業生産法人という担い手組織をつくり、ここで新規就農者などを雇用して人材を育成する一方で、農協を離れて行った大規模農家や生産法人をここに引き込むような戦略が必要であろう。これをやろうとすると、組合員からの反発が予想されるが、地域の農業にとって何が正義なのかという信念さえ持ち続ければ、やがて組合員の理解も進むと思う。

企業との連携による新事業の2つ目は、販売子会社をつくって、販売事業で組合員を引っ張る地域農協に変質するというシナリオだ。この子会社は、JAが出資母体となりつつ、多様な企業が共同出資するような設立形態が考えられる。これからは、農業生産法人でだけでなく、企業との連携による販社をつくるという動きが出てくるものと考えられる。

地域農協の多くは、全農経由で市場出荷するという販売形態がほとんどだった。販売事業と言いながら、全農との調整業務に過ぎないと批判されても仕方がない状況であった。しかし、この販社に、有力仲卸や商社などが出資したらどのように販売事業が展開されることになるだろうか。全農を飛び越えた市場取引や、相対取引を超える「市場直販」などの取引形態も増えるだろうし、加工・業務用の実需者やスーパーなどとの直接取引も増えるだろう。また、現在増えている農産物直売所の運営事業や、さらには、飲食・加工・都市農村交流等の機能を持った道の駅的な施設の運営にも積極的にチャレンジしてく販社も増えるであろう。

さらには、産業間連携・地域連携という視点から、驚くような販売子会社が生まれる可能性もある。例えば、水産会社がパートナーとなり、農産物と水産物を一元的に販売するような子会社や、ネット通販会社が出資して、ネット販売に本格的に取り組むような子会社なども考えられる。全中という重石がなくなり、地域農協の自由度が増し、才覚がある理事が登用された場合、その可能性は無限大であり、こうしたシナリオも夢物語ではなくなるだろう。実はそれほど、地域農協は潜在的な可能性を持っている。今までは、その可能性を既成概念で鼻から否定してきたと言える。

改革という言葉は、地域農協の職員にとっては一種のアレルギーだろう。なぜなら、農業協同組合法が制定されたのは昭和22年で、すでに70年が経過しているが、農協の基本的な体質は変わっていいない。それゆえ、地域農協が持つ組織風土や職員意識も変わりにくい環境にある。本日掲げた農協再生の2つのシナリオは、農協の役職員によっては鼻で笑うような話なのかもしれない。しかし、民間企業の経営者であれば、夢物語などではなく、極めて現実性が高いシナリオである。真の農協改革を行うための最大のネックは、農協の役職員の意識にあり、意識の改革がそれを実行するための必要最低条件である。この度の農協改革の流れをピンチと考えるのではなく、むしろ最大にして最後のチャンスとして捉え、これまでとは全く異なるぶっ飛びの発想転換をして、新たな時代にチャレンジしてほしい。