第229回 | 2015.03.16

農協を核に農業改革を進めよう ~ 日経記事を読んで ~

3月13日(金)の日経新聞では、農業に関する記事が3つも記載されていた。農業にかかわる社会の関心は、一層高まりつつあるようだ。本日は、その3つの記事を読んで、私が感じたことをコメントしてみたい。

一つ目の記事は、「農協改革の虚実」と題した、第一面の特集記事である。全国約700農協のうち、営農事業に携わる職員は全職員の14%しか存在せず、しかも年々減少傾向にあり、農協にとって農業は「副業」に過ぎない事業である。農産物販売などの経済事業は、一農協あたり約2億3,000万円の赤字である反面、金融事業は5億6,300万円の黒字で、経済事業の赤字を金融事業などの黒字で穴埋めしているのが実状である。2010年には、准組合員数が正組合員数を上回り、准組合員が利用する金融・共済事業というドル箱が経営の基盤となっており、農家ではなく近隣住民が農協を支えているのが実態である。このような状況の中で、農協改革は果たして進むのかという内容である。

農協はこれまで、農家である正組合員を支援するため、非常に低い農産物の販売手数料を設定してきたことに加え、農家の身近な場所に集出荷施設を多数設置するなど、低収益・高コストの営農事業を行ってきた。その結果、営農事業はやればやるほど赤字が拡大するという収支構造にある。手数料を上げれば農家所得を減らすことになるし、集出荷施設を統廃合すると農家の利便性は低下する。その結果、農協離れをさらに加速させることにもなる。営農事業の採算性確保は、JAグループ全体の長年の取組課題であるが、組合員からの反発が厳しく、収益向上のための手数料率アップも、運営の効率化に向けた集出荷施設の統廃合も、思うように進んでこなかったのが実状である。営農事業で採算性のみを追求すれば、農家の負担は高まり、地域農業はさらに衰退する可能性が高い。

また、記事では、農協の営農指導員数が大幅に減っていることを批判している。農協にとって営農指導事業は、それ自体収益を生むものではなく、事業単体では単なるコストに過ぎない。昔は、農協の指導員が、県の改良普及員や地域の農業委員と連携して、地域農家の手厚い指導にあたっていた。しかし、国も県も市町村も財政難などを理由に、改良普及員や農業委員の数を大幅に減らしている。地域での営農指導体制を弱体化させた責任は、農協だけにあるのはなく、国・県・市町村にもある。

国は、農協に改革を迫る前に、改良普及員や農業委員など、地域における農業振興の推進体制の強化に向けた予算を確保し、県や市町村をしっかり支援すべきではないのか。こうした政策を打たずして、農協だけを悪者として祭り上げることは卑怯であるし、こうした実態を調べもせず面白おかしく書き下ろすマスコミは、真実・真理を伝えるという社会的使命を放棄している。農協も、しっかりその実態を社会に伝える努力をするべきだろう。

准組合員を増やしていることへの批判に対しても、私は逆に批判したい。准組合員とは、農協の経営に共感して出資している地域農業の応援団である。その応援団を増やして何が悪いのか。応援団の役に立つ金融・共済事業に力を入れて、その利益を営農事業に投下することの何が悪いのか。准組合員が増えることは、地域農業の応援団が増えることを意味し、その応援団は農協の事業を利用することで、間接的に地域の農業振興に寄与することができる。国も地方自治体も、農業への理解促進に向けた啓発事業や、都市農村交流事業などに多く予算を投じている。准組合員制度は、継続的に地域住民と農業を結ぶための最適な仕組みであり、むしろ国が積極的に推奨すべき制度だと考える。

問題は、農協の事業のバランスであり、基本姿勢であろう。全国の半分以上の農協は一貫した黒字経営を実現しているが、その黒字と内部留保を営農事業に投資しない農協も多い。営農事業の優先度を高め、地域農業の振興に力を入れていかないと、農家のための組合ではなく、役職員のための組合だという批判は免れない。

二つ目の記事は、カゴメ、味の素冷凍食品、王将フードサービスなどの食品関連企業が、相次いで使用原料を輸入品から国産品にスイッチしているというものだ。国産品は鮮度が高い状態で加工・調理できることに加え、食の安全・安心を求める消費者ニーズにも応えられる。とりわけ看板商品については、重点的に原料の国産化を進めることで、商品のブランド力や企業イメージの向上につなげることができる。今後は、近年増加している食品関連企業の農業参入がさらに加速することが予想される半面、産地としては、加工・業務用取引の拡大のチャンスといえよう。

一方、三つ目の記事は、農林水産省が食料自給率の目標を、現行の50%から45%に引き下げることを決めたというものだ。食料自給率は現在39%前後で推移しており、様々な政策を打ってきたにも関わらず、上昇の兆しは見られなことから、50%という数値は実現性が乏しいと判断したようだ。食料自給率向上のための「切り札」とされてきた米粉や大豆の生産は増えず、米粉に至っては当初目標の年間50万トンに対し3万トンしか生産されていないのが実態である。また、新たな切り札として、多額な水田フル活用交付金の対象となっている飼料米も、今後どこまで生産現場で定着するのか不透明な状態にある。

私は、フード・アクション・ニッポンのアワード審査員を4年間務めてきた経歴があることから、食料自給率向上のための取組を心から応援しているし、少しでも向上させるべきだと考えている。しかし、食料自給率向上のためには、長い歳月の中で培われ、そして変化してきた消費者の意識や食生活、並びに購買行動を変えていく必要がある。さらに、消費動向と連動してつくりあげられてきた現在のフードシステム自体も変える必要がある。こうした時代の流れを変えていくことは容易ではなく、国の政策だけでは短期間に成果を出せるものではないと考える。

しかし、国産農産物の国民の期待は確実に高まっているものと考えられ、それに合わせて食品関連企業の動きも活発になることが予想される。地域の農業振興を担う農協は、こうした環境変化の中でいち早くチャンスを見出して欲しい。例えば、新たな加工・業務用の販路の開拓や、一次加工への進出など6次産業化によるフードチェーンの再構築、さらには企業との共同出資による農業生産法人の設立などにチャレンジし、自ら農協改革を一歩前進させるとともに、地域創生のための中核的組織として名乗りをあげて頂きたい。