第53回 | 2011.06.28

買い物弱者対策の拠点になるか!  ~農産物等直売所の新たな機能に期待~

全国的に高齢化が進み購買力が低下する中で、地元スーパーの撤退や商店街の崩壊が進み、買い物難民が拡大する地域が増えている。特に、過疎化が急速に進む山間部や、高度成長期に建設され高齢者世帯のみになった団地などでは、深刻な社会問題になりつつある。買い物弱者の拡大は、山間部だけでなく都市部においても、今後確実に進行する社会現象であると言える。現在、こうした課題に対し、食料品や生活用品を安定的に供給していこうとする動きが全国で活発化している。

先日、神奈川県の商工業者などが集まる勉強会に参加した。その中で、厚木市から、買い物弱者対策の実証実験に関する報告を受けた。厚木市では、今年2月から、精肉店、魚屋、八百屋、パン屋、豆腐店、惣菜店等で構成する商工業者グループが、高齢化が進む団地と空き商店街の2箇所で、毎週木曜日、移動販売を実施している。当初は約300人の利用者があったが、現在は100名程度まで減少している。その原因として、移動販売の品揃えに飽きてしまったこと、そもそも移動販売を求める利用者層が少ないことなどが考えられる。

今年1月には、実証実験の対象となった団地の住民を対象にアンケート調査を実施している。その結果を見ると、身近な購買店舗がなくなり不便を感じている一方で、多くの住民が自動車を使って買い物をしている実態が見られ、「高齢で移動手段はない」と回答した割合は17%に過ぎなかった。60歳代~70歳代前半の世帯は、概ね自動車の運転はできる。一方、80歳代となると、階段を上り下りして移動販売の場所まで行き買い物した荷物を運ぶのも大変で、宅配に対するニーズが高くなる。つまり、移動販売店の利用者層はかなり限定されることになる。

勉強会には、買い物弱者への宅配サービスを行う「便利ネット39丹沢」というNPOの代表者も参加していた。「便利ネット39丹沢」では、地元商店街と提携したネット販売による宅配サービスと買い物代行サービスを実施している。1回の配達料はいずれも315円で、直接経費を賄うだけのビジネスとして成立していると言う。また、オプションとして、高齢者・妊婦・身障者などを対象に、多様なニーズに応える「御用聞きサービス」も実施している。

勉強会においては、買い物弱者対策は、そもそもビジネスなのか福祉なのかという議論が持ち上がった。しかし、今後さらなる財政状況の悪化が予想される中で、行政が生活福祉の一環として、買い物弱者を支え続けるのは困難であると考えられる。では、本当にビジネスとして成立するのかが問題である。移動販売方式では、一元的に企画・販売する組織をつくり販売コストを削減すること、1日に数箇所を回って利用者・売上確保を図ることなどが解決策であると考えられる。宅配方式では、サービスの幅を広げてより多くのニーズを取り込むこと、宅配エリアを絞るなど効率的な配達システムをつくることなどが解決策であると考えられる。また、現在スーパーや生協などが取組始めた宅配サービスも参考になる(イトーヨーカ堂の配達料は1回315円、5,000円以上は無料)。

買い物弱者対策で、今後ひとつの拠点として期待されるのが、農産物などの直売所である。直売所では、地場の新鮮な野菜や米、手作りの惣菜などが品揃えされており、店舗によっては多様な日用品も取り揃えている。小売店が撤退した後に、地域の生活拠点となっている直売所も見られる。

栃木県末広町にある「那須こだわり野菜直売所」を営む那須こだわり野菜産直クラブは、同直売所の野菜を顧客に代わり購入、配達する「お買い物代行者」を募集している。外出が難しい高齢者や、家事に時間を割きにくい勤労世帯など、来店が難しい顧客に向けたサービス向上策として、顧客の要望を取りまとめ同店で買い物し、商品を届けるまでを代行してもらう仕組みである。代金に加え徴収する手数料全額が代行者の収入となるが、手数料は代行者が自由に設定でき、個人、法人や居住地、年齢などは問わず、ノルマもない。社会貢献をしながら副収入が得られる仕組みで、知人や友人に代わって買い物をする感覚で、気軽に参加してほしいという考え方である。

佐賀県唐津市は山間部の買い物弱者対策として、東京や大阪などの都市圏から「地域おこし協力隊員」を募集している。地域おこし協力隊とは、都市圏の住民が1~3年、地方で生活しながら農林漁業を応援する総務省の事業で、現在、東京・大阪・愛知・福岡の4都府県で20~40歳の隊員を募集している。市が昨年まとめた調査によると、旧郡部206地区のうち、食料品を扱う商店がない地域は118地区で、このうち、以前あった商店が閉店した地域は48地区にのぼったという。当面の支援先は市内の山間部で、買い物弱者対策の実証実験を行う予定である。また、農産物直売所に出荷する高齢農家も多く、早朝の出荷と夕方の売れ残り品の回収が負担になっていることから、協力隊員は、宅配の際に集出荷を行うとともに、山間部の多様なニーズにも対応して行く予定である。

買い物弱者は今後確実に増加し、マーケットは拡大するだろう。その一方で、ビジネスとしての成立要件は、まだまだ不透明である。今後流研においても、調査・研究を進め、農産物等直売所を核としたビジネスモデルの確立を支援していきたい。