第54回 | 2011.07.07

若手農家の時代が来る! ~若手農家が求めているもの~

流研の本拠地である神奈川県では現在、若手農家が増えている。私の故郷である小田原にも、西相地区青年クラブ「みどりの会」という若手グループが存在し、情報交換や研修など、活発な活動をしている。私は昨年、講演会の依頼がきっかけで彼らと出会い、今年は個別経営診断の仕事をさせて頂くことになった。「みどりの会」には現在、20歳代から30歳代の17名が所属している。それぞれ独自の農業を模索し大志を頂きながら農業に打ち込んでいる、意欲ある若手農家集団である。

全国的に担い手不足が深刻化する中で、どうしたら若手農家は育つのだろう。どの農村地帯でも担い手育成が共通課題となっているが、私は「みどりの会」のメンバーと懇親の場を持つ中で、いくつかの答えを発見した。

先ずは「みどりの会」のメンバーの経営状況について分析してみたい。地域性を踏まえ、水稲とみかんを生産する農家が多いものの、経営形態は17名全員が異なるといっていいほどバラバラだ。会長の佐藤さんは原木しいたけとお茶、副会長の中津川さんは稲作に加えキウイと露地野菜、その他のメンバーはいちごの観光農園、シクラメンの生産・直売、切り花、果樹、施設野菜などといった具合である。経営面積も様々で、水稲であれば5町歩、果樹は2町歩、施設野菜だとハウス2~3棟といったところだろうか。また、多くのメンバーが代々農家で、両親とともに家族経営を行っている傾向がみられる。

共通して言えることは、直売所・生協・スーパーなど、市場流通に頼らない独自の販路を持っていることだ。この地域は一年を通して多様な農産物が生産されており、みかん、キウイ、いちじく、たまねぎ、お茶などの主要品目についてはJAの部会組織があるが、その他の品目は数量がまとまらず、個人販売によるところが大きい。しかし販売先は、近隣の店舗が多く、必ずしも有利販売につながっていない点が課題であると言える。小田原を中核都市としたこの地域の商圏人口は約30万人で、そこそこのマーケットが存在するが、問題は住民の多くが農産物をつくっていることから、高値での販売が困難なことにある。例えば佐藤会長がつくる原木しいたけは、大都市では高い評価がされて然りであるが、この地域では多くの住民が裏庭などでしいたけの原木栽培を行っており(私の父も長年やっていた)、その価値を適切に評価されないケースが多い。

これより流研は、新社屋を核に、県内の若手農家の経営を支援し、神奈川県ならではアグリビジネスを創造する『KABS』(かながわアグリビジネスステーション)という自主事業を展開する予定である。事業化に向けた事前調査として、これらの若手農家にとって何が課題で、何を求めているかをヒアリングしてみた。その結果、若手農家が求めているものは『金』、『情報』そして『女』の3つであることが分かった。

『金』とは、売上・所得である。より有利な販売先を開拓して、経営の合理化を進め、身入りを多くすることを求めている。誰だって金持ちになりたい。毎日休みのなく汗水垂らして働くことは厭わないが、当然それに見合う収入が欲しいし、贅沢もしてみたいという人として当たり前の欲求である。泥まみれで頑張った後は、金のブレスレットをはめてスポーツカーを乗り回してみたいだろう。儲かる農業、やったらやっただけ報われる農業ができれば、若手農家の意欲は高まることは間違いない。

『情報』とは、新たな経営に向けての視点・発想・アイデアである。忙しい中、「みどりの会」は毎月定例会を開催し、メンバー同士の情報交換を行っている。しかし限られた地域・メンバーの情報は自ずと限られてくる。ましてや、ほ場で黙々と作業をしていても、新しい発想は中々浮かんで来ない。過去に特集した「野菜くらぶ」の澤浦氏は、地域の商工会の会合に寸暇を惜しんで参加した結果、現在の経営哲学・経営ノウハウと広いネットワークを確立したと述べていた。

『女』とは、恋人・妻である。ある農村部でこんな話を聞いた。未婚の40歳代の認定農業者達がやる気を無くしてしまっている。女房も子どもなく、自分一人のための農業なら、この程度でいいやと思い規模拡大志向が失せてしまっているというのだ。男にとって『女』はとても大切な存在だ。好きな女がいるから頑張れる、好きな女を幸せにしたいから歯をくいしばってでも上を目指せる。しかし、会社勤めと異なり、毎日ほ場で土と向き合う農家にとって、素敵な女性と出会う機会は少ない。

『KABS』は、これらの要望に出来るところから応えることで、県内の若手農家を支援して行きたい。『金』については、若手農家個々に対する有利販売先の紹介や、グループ単位での共同販売の仕組みづくりなどが考えられる。『アイデア』については、定期的な情報発信や講習会・視察研修会の開催などが考えられる。そして『女』については、いささか不謹慎なイメージを持たれやすいが、絶対必要な支援策と位置づけ、大真面目に取り組んでみたい。ただし、合コンパーティや結婚相談をやるのではなく、農業に関心を持つ女性達とイケメン揃いの若手農家達の、相互理解を深めるようなきっかけづくりにチャレンジしたいと思う。

逆説的に言えば、『金』、『情報』そして『女』の3つの課題がクリアできれば、若手農家は自然に育つ。これらは、全国的な行政課題であり、これまでも様々な施策が講じられてきた。今後『KABS』において、これらの課題に対し段階的に取り組み、効果的な手法を研究して、その成果を全国に紹介していきたい。