第130回 | 2013.02.04

経営計画を立案しよう ~農家は数字に強くなれ!~

個人経営でも、家族経営でも、法人経営でも、農家は経営者である。自ら全てを判断し、農業経営を持続させ、未来を切り拓いていかなければならない。経営者である限り、経営計画を持っていて当たり前であるが、多くの農家が勘に頼り、場当たり的な経営をやっているのが実状である。これが、農業という産業が未成熟であると言われる理由の一つであるとも考えられる。

経営者は、数字に強くなくてはならない。私も経営者のはしくれであるが、日常的に様々な数字が頭を駆け巡り、これを組み立て、次の一手を打とうとしている。もちろんパソコンと格闘することもあるが、細かな数字を全て把握している訳ではなく、私の会社レベルだと概ね100万円単位で捉え、手帳に書き留めて整理することが多い。一例をあげれば、現在どこまで売上や利益が積み上がっているのか、今後の見通しと対策はどうか。そのために誰がどの仕事をやるべきか。いつ現金が入って来て出て行くのか、不足する資金をいかに確保するのか。人や設備に投資した場合の中長期的な売上・資金繰りはどのように変化するのかなどである。

農業経営においても同じようなことが言える。だいこんを1反つくって、いくらの売上・利益があがるのか。複数の作物・作型に取り組むことで、年間の売上・利益の見込みはどうなるのか。そのための労働力は足りているのか、いつどの作業にパート雇用が必要か。年間を通して売上代金がいつ入り、いつどれだけの経費を払わねばならないのか。機械・設備を購入した借入金は確実に返せるか。これらのことを数字で捉え、頭の中で体系化することが、農業経営発展に向けた第一歩である。

では、どのような数字をおさえるべきか。大別すると、①売上・利益、②労働力、③資金繰りの3つであると言える。いわゆる、ひと、もの、かねという経営資源のインプットとアウトプットを数値で体系化して行く作業が必要である。まずは数値で現状分析を行い、これをもとに計画を立案し、計画を実行して見直しを進めることが、農業経営の基本である。

まず、①売上・利益に関しては、いくつかの簡単な公式を頭に入れることが重要である。
•売上高=販売数量×販売単価
•売上高=単収(出荷ベース)×生産規模×販売単価
•所得=売上高-経費
•経費=生産費+原価償却費+販売費

以上のような簡単な公式であるが、このことを多くの農家が理解しておらず、数値として把握できていないのが実状である。

例えば、10aのハウスで3,000箱のりゅうりを生産・出荷し、ひと箱1,500円で売れたら売上は450万円である。そのための経費を計算したら、生産費(種苗代、肥料代、農薬代、燃料費等)が100万円、減価償却費(ハウス・機械等の購入費÷耐用年数)が150万円、販売費(箱代、配送費等)が50万円だったとしたら、所得は150万円になる。

売上450万円(3,000箱/10a×10a×1,500円)
-経費300万円(生産費100万円+減価償却費150万円+販売費50万円)
所得150万円

しかし単価が1,200円でしか売れなかったら所得は60万円にしかならない。
売上360万円(3,000箱/10a×10a×1,200円)
-経費300万円(生産費100万円+減価償却費150万円+販売費50万円)
所得60万円

単価が1,500円でも2,500箱しか出荷できないと、所得は75万円になってしまう。
売上375万円(2,500箱/10a×10a×1,500円)
-経費300万円(生産費100万円+減価償却費150万円+販売費50万円)
所得75万円

実際には出荷量が少なくなれば箱代が減るなど、一つの数値が変化すると減価償却費以外のものも大抵の場合は変化するのだが、こうした収支構造をざっくりつかんで仕事をするかどうかで、今後の経営は大きく異なってくる。平均的な収支モデルは各県でも持っているし、普及員も教えてくれる。それをもとに、自ら手計算して、自分なりの指標を持っておくことが大切である。特に稲作+施設野菜+果実等の複合経営を営む場合は、作物ごとの指標を作り、これを足し込み、年間の売上・経費・所得の目安となる数値を明らかにしておきたい。

次に重要なのは、②労働力であり、まずは自分の所得である。例えば10aのきゅうり栽培で、1日平均10時間で250日働いたとする。この場合の所得は250万円であり、日給換算では10,000円、時給換算で1,000円である。これではアルバイトの賃金と変わらない。少なくとも日給20,000円、時給2,000円程度の所得を確保できないと、自分と家族の夢と生活を守ることは出来ない。そこで、準備・畝づくりで10日、収穫で25日、選別・荷づくりで30日、配達に20日など、どの作業で何日働いているのか、250日の内容を分析することから始める必要がある。

その上で、改めて父・母・妻がいる場合はそれぞれの役割分担を決め、作業を割り振る。簡単な作業についてはパートタイマーを雇用する。配達は委託したりセンターへの一括納品へ切り替えると言ったことを検討する必要がある。当然経費は上がるが、それ以上に、現在の日給・時給を上回る付加価値が高い仕事を自分が行い、売上を高めることができれば、所得はあがる。人を雇ったら経費がかかると頭から否定するのではなく、数値を分析し、その可能性や要件を検証されたい。

最後は③資金繰りである。毎月いくらの売上が入金され、どれだけの経費が出て行くのか、来月払う資材費や借入の返済のための現金はあるのかと言う、金の流れを把握することを資金繰りと言い、1年間の各月の資金計画を整理したものを資金繰り表と言う。教科書を見ると、大変難しいフォーマットが書かれているが、以下のようになるべく単純化したものを自分なりに整理すればよい。

【資金繰り表の例】

項目 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
売上高 0 0 0 0 500 2,000 2,000 2,000 1,000 500 0 0 8,000
生産費 0 0 0 50 100 250 250 250 250 100 50 0 1,300
販売費 0 0 0 0 100 400 400 400 400 100 0 0 1,800
借入返済 200 200 200 200 200 200 200 200 200 200 200 200 2,400
所得 -200 -200 -200 -250 100 1,150 1,150 1,150 150 100 -250 -200 2,500

その上で、新たなハウスの整備、最新設備の導入、正規雇用者の雇用など、投資計画を検討する。投資の結果、どれだけ売上の拡大、経費の削減、所得の向上が期待できるのか。また、投資により返済金が拡大するするので、年間の資金繰りがクリアできるかについても検証する。投資により、逆に所得が下がってしまったり、資金ショートが発生してしまうケースも多々ある。

所得=売上-経費であることから、基本的には売上を上げるか、経費を削減するかのどちらかしかない。売上を拡大するためには、収量のアップ、有利販売先の確保、付加価値が高い品種の導入など、既存の経営資源での改善策に加え、規模の拡大、労働力の投入など投資と言う手法がある。一方、経費削減には、資材の使用量の抑制、温度管理の徹底による動力費の低減、段ボール納品からパレット納品への切り替えなどの手法が考えられる。農業経営の発展のためには、いずれも検討すべきことであるが、数値をつかんでいて検討するのと、勘や思いだけで検討するのとでは、将来の経営に大きな差が出てくる。