第213回 | 2014.11.10

米価急落。飼料米への転換は正しいか。 ~飼料米主体の稲作経営の展望~

平成26年度産米の作況指数が発表された。台風や豪雨など気象条件の悪さに伴い生育状況が心配されたが、西日本の不作を東日本が補うという構図で、国内全体の結果は「平年並み」の101という指数だった。日本人の米離れに伴い米の需要は、今後確実に減少していくことから、さらに米はだぶつき、在庫米を積み上げることになる。

一方、米の供給過剰を背景に、全農は今年の主食米の仮払い金額を大幅に減らし、これに比例するかたちで、全国の単位農協が農家に提示した金額は、恐ろしく低いレベルとなった。「もう米では食べていけない」と、さじを投げる農家が続出しているようだ。多くの農家が稲作をやめてしまえば、米の生産量・供給量が減り、在庫も圧縮されて、価格は再び上向くのだろうか。それとも、低コスト経営を実現できる大規模農家が、手放された農地を集積し、さらなる規模拡大を実現することから、価格は一層低下するのであろうか。

4年後には減反が廃止になる。これまで40年間、米の数量統制による米価の維持を基本としてきた農政は大転換し、農家の判断によって自由にいくらでも米をつくることが出来る。今後も価格が低迷することが予想される中、4年後にどれだけの稲作農家が生き残っているか疑問であるが、水田の約4割で米の生産を抑えてきた減反という制度が廃止になることで、米の供給量が飛躍的に増大し、米価は途方もなく下落することも想定できる。

こうした状況の中で、現在農林水産省が最も力を入れている政策が、飼料米への生産誘導である。今年度は収量に応じて10aあたり最大10万5千円もの補助金が出ており、農林水産省は、少なくとも減反廃止までの期間、この制度を維持・継続していく方針である。飼料米への転換を進めることで、主食米の生産量を抑制し、米価を維持していくという目論見がある。

一方、家畜のえさである配合飼料のほとんどは輸入に頼っており、これが国内の食料自給率を低下させる大きな要因となっている。また、円安や海外での飼料生産の状況などにより、畜産農家が購入する配合飼料は高騰が続き、経営を圧迫している。そこで、配合飼料の主原料であるとうもうろこしなどと遜色ない栄養価を誇る飼料米を国内で生産・供給することで、食料自給率を高め、畜産農家の経営の安定を図ろうというものだ。

一見理にかなった政策であるように思えるが、この政策の最大の課題は、飼料米の生産・供給自体が経済原理から大きく逸脱していることだ。この制度は、稲作農家には、主食米を作っても飼料米を作っても同様の所得を確保できるようにする。一方、畜産農家には、輸入の配合飼料をえさに使うより、飼料米を使う方がコストが若干低くなるようにするというものだ。そして、その価格差は、補助金で賄うという構造である。その価格差は約10倍であることから、稲作農家が飼料米を作って得られる所得の約9割は、補助金収入となる。主食米の補助金収入の割合は1割弱であることから、飼料米にいかに法外な補助金をつけているか理解できよう。

先日の日経新聞では、こうした補助行政にあり方に対し、財政制度諮問会議から問題提起があり、今後政府内での見直し議論が沸騰する見込みであるとの記事が掲載されていた。農家収入の9割を補助金で補填すること、将来的にも市場原理では流通しえない飼料米を増産させること自体に、批判の声が上がるのは当然のことだ。中長期的にも財政環境が厳しさを増していくことが予想される中で、こうしたべらぼうな制度がいつまでも続くとは考えられない。

私の知人である稲作の大規模農家は、飼料米は作らないことを信条としている。
「農家は、よいものを作り、それを売って正当な対価を得ることが商売である。しかし、飼料米は、補助金収入を得るためにだけに作るものであって、それをやったら農家でなくなる。国民の血税をもらうことを目的として、情熱とプライドを持って仕事を続けることは出来ないし、それはもはや農業ではない」と私に語った。

転作作物として「そば」を作付けして、収穫もしないで補助金のみをもらうという「捨て作」を行う農家は未だに多い。しかし、農業のプロとして、このような経営をやってプライドが保てるのだろうか。また、こうした農家のために、血税をつぎ込むことは、国民への背信行為に他ならない。こうした農家は離農すべきだし、その結果、例え耕作放棄地が拡大し、集落が崩壊しても、それは仕方がないことだろう。

同じ米でも、主食米と飼料米とでは、生産・管理の手間が違う。人に食べさせる米と、家畜に食べさせる米では、米作りに対する情熱も当然違ってくる。また、主食米は、食味を重視するが、飼料米は収量を最優先する。一概には言えないが、総じて飼料米の生産の方が、作業も楽で情熱も低いことは想像がつく。したがって、飼料米にひとたび手を出すと、後戻りが出来なくなると言われている。

それゆえ、飼料米の生産拡大は、ある一定規模に抑えると共に、あくまで臨時的な対応策と捉えて実施することが望ましいと考える。現在のような飼料米への補助制度がいつまでも続く訳がない。飼料米へ転作するにあたっては、将来的に大幅な減額や制度自体が廃止となった場合でも、対応できる営農経営を考えておく必要がある。そのためには、主食米及び業務用米を主力としつつ、うまい米づくり、ニーズに合った米づくりに一層の努力を重ねるとともに、生産コストを縮減することを、稲作経営の基本に据える必要がある。

また、その上で、米+αの複合経営への転換を進めることも重要である。麦・大豆などの補助対象品目でも良いが、補助金などもらわなくても経営が成り立つ野菜や果樹にもチャレンジするべきである。野菜や果樹となれば、当然技術的なハードルも高いし、気象条件などで生産が難しい面もある。しかし、米だけではもう食べて行けない。農家として生き残りたいのであれば、どんなにハードルが高く、リスクがあっても、新たな品目にチャレンジし続けなければならない。

もう泣き言は許されないし、これまでのように、護送船団方式で国が農家を守ることは出来そうもない。また、国民も、これまでのように、多大な税金を投じて農業を支えようとは思わなくなるだろう。稲作農家にとって、とても厳しい時代が到来しそうだ。補助金という甘いえさに釣られることなく、真の稲作経営・新たな複合経営をめざし、努力した者だけが次の時代の扉を開く鍵を手に入れることになろう。