第250回 | 2015.08.31

米の生産調整と米価のゆくえ ~ 2015年度米の見込みから考える ~

農林水産省の発表によれば、主食用米の生産調整が、今年度初めて目標を達成し、過剰作付が解消される見通しとなった。主食用米の生産量の目標は751万トン、作付面積換算では142万haに設定されていたが、この度の調査で、作付面積は141万2,000haであり、8,000ha減少することが明らかになった。都道府県別では、これまで過剰生産が続いていた東北6県で過剰作付けが解消されたことが注目に値する。今年も平年並みの収量であることを前提とすると、それに合わせて生産量が減り、米価も安定することが期待できる。

米の生産調整は、現行の制度になって以来、一度も目標を達成したことがなく、2014年も3万ha近くの過剰作付が行われていた。麦や大豆の転作を奨励したが、多くの農家が米を全面的に作付けた方が儲かると考えたからだ。しかし、米の消費が年々減り続けた結果、米価は下落し、稲作農家の経営は限界に達しつつあった。その中で、飼料用米への転作を強力に支援する水田活用交付金制度が導入され、ようやくその成果があがったと言える。

今年度生産調整が大きく進んだ理由は、水田活用交付金制度の強化というよりむしろ、2014年度米の価格の大幅な下落であろう。もう米だけでは食べていけない。不本意ながら飼料用米を作付し安定収入を確保しなければならない。これ以上作ったら、また米価は下落する。こうした考えが農家に浸透し、地域や産地を動かしたと言えよう。

農林水産省は、2016年度の概算要求で、飼料用米などに助成する水田活用の直接支払い交付金について、今年度当初より約400億円多い3,177億円を計上する方針を固めた。地域や産地の生産調整の動きをさらに加速させ、米価を安定させる狙いがある。飼料用米への助成制度はJAが積極的に後押ししていることもあり、家畜の餌になる米をつくることに農家の間でも徐々に違和感が解消しつつあるようだ。しかし、農家にとって、最大で10a当たり10万5,000円の助成がいつまで続くのかという懸念がある。

農林水産省は、以前から、米の生産調整を2018年度産を目途に見直す方針を打ち出している。国による生産数量目標の配分をやめて、生産者や生産者団体を中心に計画生産する体制へ移行することになる。また、これに先立ち、生産調整に参加するメリットであった米の直接支払交付金は2017年度で廃止する方針である。来年度以降、米価が上がれば、生産調整機能が弱体化する中で、主食用米の作付が再び拡大し、米価は再び下落する恐れがある。

また、農林水産省は、農地中間管理機構に貸し出した農地は課税を軽減するのに対し、貸し出さないまま遊休化する農地に対しては課税を強化するという趣旨の税制改革の要求案を示した。農地中間管理機構を通した担い手への農地集積・集約化が低調なことから、アメとムチの税制によりテコ入れすることが狙いである。また、この度の要望には、農家に機構への農地貸付けを促すため、贈与税の農業猶予制度の見直しも盛り込まれている。現在は、農地を相続後10年以内に貸し出すと、納税猶予は打ち切られてしまうが、機構に貸し付けた場合は打ち切られないような制度に変更するという。

こうした納税制度が見直されることになると、農家の貸し出しが加速して遊休農地が減少し、再び主食用米の作付面積が拡大するといった現象が起こる可能性もあろう。特に、2018年度以降、生産調整が行われなくなるとなると、何をつくるかは農地の受け手の裁量に任されることになる。

また、現在進行中のTPP交渉は、米の完全自由化は見送られるものの、米の輸入枠の拡大で決着する公算が強い。20万トン・30万トンレベルの折衝ではあるが、輸入枠が拡大すれば、米の国内供給量は増加することから、少なからず米価を下落をさせることになる。

米価が下がっても、米の消費が拡大することもなく、国内の消費は高齢化・人口減少と米離れという2つの要因から今後も減少していくことは間違いない。こうした社会動向に対応して米価を維持するためには、需要に合わせて主食用米の作付面積を減らし続けていくしかない。米穀卸や商社などの海外進出により、米の輸出も今後段階的に拡大していくだろうが、全体の需給を調整できるほどの規模になることは考えにくい。

作付面積を減らし続けるためには、飼料用米をはじめとした転作と、遊休農地の意図的な拡大の2つの手法がある。後者については、農業関係者の誰もが否定的であるが、私は真剣に検討すべき時期に来ているのではないかと考える。日本の食料自給率は40%以下であり、遊休農地を活用して農産物の生産を行うべきだという考えが一般的であるし、遊休農地対策は今後も全国で進めていくことになるだろう。しかし、遊休農地の多くは耕作条件が不利な農地であり、食料自給率向上のために必要な穀物類などの耕作には適さない。

日本人は田をつくり過ぎたと言わざるをえない。太古の時代から約四半世紀までは、日本の人口は一貫して増加し、国民は主食である米をひたすら食べてきた。そのためには田が必要で、耕作条件が不利な立地においても積極的に開墾を進めてきた。しかし今後は、人口減少社会が続く中で、豊かな食生活を享受する日本人は米をさらに食べなくなる。ピーク時に必要だった田の面積は、今は必要なく、今後はさらに必要な面積は縮小する。したがって、基盤整備済みの優良農地のみを保全し、その他の農地は山林や原野に戻す、あるいは太陽光発電や工業的用途に活用するなどの政策を進める必要があろう。

さて、米価のゆくえである。2015年度米の米価は、JAが買い支える運動を強力に進めていることもあり、どうやら持ち直しそうだ。問題は2016年度以降の動きである。需要が縮小する中で、水田活用交付金制度の強化、農地中間管理機構の機能強化、国による生産調整の廃止、さらにはTPPへの参加など、様々な政策が打たれる中で、最終的には生産者・産地の思惑が米価を決定することになろう。これは個人的な予測であるが、米価は多少の乱高下を繰り返しながらも、中長期的にはじりじりと下落していくと考える。

農機具メーカーの大手であるクボタが、IT技術を駆使して稲作への本格的な参入を果たすという。また、主要産地における稲作経営の大規模化はさらに進むだろう。稲作において、技術革新や機械化、経営の大規模化などが進めば、米の生産コストは下がり、損益分岐点となる米価も下がることになる。将来的に、1俵7,000円でも稲作経営が成り立つ時代、さらには国際的な価格競争力がついて米を本格的に輸出する時代が到来するのかもしれない。