第86回 | 2012.02.27

箱根との連携を考える ~KAB研究会レポート⑦~

去る2月24日に、毎月最終金曜日の夜に開催してきたKAB(神奈川アグリビジネス)研究会の最終回を、流通研究所1階会議室で開催した。7回目となる今回は、「箱根プロモーションフォーラム」の中嶋氏と田部氏を講師に招き、地産カフェプロジェクト」の取組みを中心に講義を頂いた。

箱根は年間約2,000万人の観光客が訪れる日本屈指の観光地である。しかし、観光客の3/4は日帰り客であり、宿泊客は約500万人に過ぎない。その中で、彫刻の森や成川美術館、箱根ガラスの森をはじめ、多くのミュージアムが存在し、近年はミュージアムの観光地として定着している。以前はそれぞれの施設がばらばらのPR活動を行い、顧客の囲い込みを行って来たが、集客効果は高まらなかった。「箱根プロモーションフォーラム」は、こうした課題を受け、効率的・効果的な共同のPR活動を行うことで、箱根全体の魅力を発信し、観光客を増やそうという目的で、各施設の販売企画担当者が結集し2007年に設立した。

現在は、美術館・博物館、宿泊施設、交通機関、メディアなど66社が会員となっている。会員は、箱根町内に限らず、箱根を全体で盛り上げて行こうと意欲がある各業界の現場メンバーで構成することを趣旨としており、1事業者で複数名での参加も可能としている。事業目的は、①箱根の集客力を高める事業の企画検討と実施、②箱根の集客力を高める事業への支援、③情報交換・情報発信・交流活動などである。組織は代表理事会の下に、①共同の販売促進企画を担う企画事業委員会、②箱根コンベンションビューローとの連携などインバウンドを含む外交を推進する外務委員会、③メンバー同士の交流活動を行う交流事業委員会、④メディア情報の整理・発信を担うメディア事業委員会からなる。組織の最大の特徴は、年会費3万円という少ない予算規模の中で、現場の担当者のメンバー構成により、出来ることを機動的に、楽しくやって行こうという姿勢にある。

箱根は日帰り客が多い観光地であることから、当然飲食需要は多い。しかし「じゃらん」の調査では、「箱根の食事は高くておいしくない」と言う結果が公表された。そこで「箱根プロモーションフォーラム」は、地域の食材を活用したおいしい料理を提供し、共同でPRして行こうと言う趣旨の「地産カフェプロジェクト」をスタートさせた。今年で4回目となるプロジェクトでは、18のホテル・ミュージアムが参加し、年々増加傾向にある。今回のプロジェクトは「山ガール(若い女性の登山客)」をコアターゲットに、カレーを共通メニューとした企画を行っており、18施設がそれぞれ地場食材を活用したオリジナルカレーを提供している。

地元食材の調達は「ロハス」という会社が一括して担っている。各施設からの注文に応じて、JAの直売所「朝ドレファーミ」に自ら買い付けに行き、電動自動車で各施設へ配達し、マージンを上乗せして販売する仕組みである。直売所との取引価格は、直売所の手数料を上乗せした販売価格であり、一般のお客同様、レジに並んで買っているという。施設側からの発注は、突然「なす500本が欲しい」など不定期で、直売所としても対応が難しくなっている。また、料理用であることからいわゆるB級品でもかまわないが、価格はかなりシビアだそうだ。そこで近年は、地元農家から直接調達するケースも増えているという。

中嶋氏、田部氏の講義終了後、「地産カフェプロジェクト」とKABSとの連携の可能性をテーマに、活発な意見交換が行われた。「地産カフェプロジェクト」としては、KABSの若手農家達と直接取引を進めたいという思いがあり、若手農家達には箱根の一流のホテル・レストランで、こだわりの農産物を取り扱って欲しいという考えを持っていた。しかし、ホテル側の発注は不定期で契約的取引が難しい、B級品で安いものを欲しがっている、話題性がある変わり種野菜などを求めていることなどが分かった。一方、農家側は計画生産・計画販売できる安定した販路を求めている、こだわりを持って作った農産物をより高く売りたいという希望を持っているなど、両者のギャップが明らかになった。結論として、箱根のホテル・レストランは農家のメインの販路にはなり得ないが、実験的な取組から始め、お互いの歩み寄りを模索する方向となった。

こうした直接取引に加え、箱根において観光客を対象とした直売事業を併せて実施することも検討テーマにあがった。例えばKABSが箱根でKABSメンバーの農産物を一元的に販売する直売所を開設し、ここを拠点に「地産カフェプロジェクト」にも食材を供給することで、農家の計画生産・計画販売を実現し、直接取引による農家リスクを軽減する仕組み(BtoB+BtoC)である。KABSに集まる若手農家達は、いずれも高い技術を誇るこだわりの絶品を生産している。「箱根の□□ホテルで使っている○○さんのトマトは、ここでお求め頂けます」と言ったキャッチフレーズで、その味を観光客に知ってもらい買ってもらうような直売の仕組みができないかと考えた。これに対し、観光地である箱根は、季節・曜日によって観光客数が大きくことなること、適切な立地が少なく地代・家賃が高いことから、収支面を考えると常設の直売所を開設するのは困難で、イベント販売の方が効果的であろうと中嶋氏は述べられた。しかし、イベント販売では、農家としては計画生産・計画販売ができず、所得の向上には結びつかない。

次に、KABSのメンバーと「地産カフェプロジェクト」に参加するホテルのシェフなどを、一堂に会した商談会や試食会のようなイベントを開催できないかと言う案も検討された。これについては、マスコミも飛びつき相互のPR効果を高めるだろうし、相互の理解・交流の場にもなり、取組開始に向けたきっかけにもなるということで、すぐにでも実行できる企画であるという結論であった。以前KAB研究会においては、若手農家が各自が作った農産物の味で勝負する「N1グランプリ」のようなイベントをKABSで実施してはどうかという案が出たが、一流シェフのお墨付きを農家が得られるような仕組みは魅力的であり、事業化の可能性は高いと感じた。

この度のKAB研究会は最終回にふさわしい、深い議論が出来たと思う。計7回の研究会を通し、多くの課題が明らかになったが、やはり農家と実需者、そして消費者をマッチングさせる中間事業者としての役割がKABSに求められていることを痛感した。その姿は、若手農家も実需者も消費者もWIN・WIN・WINになれるような仕組みづくりであり、商業ベースの持続的発展が可能な事業でなくてはならない。これらの成果を踏まえ、4月一杯でKABSが目指す将来像を明らかにしていきたい。そして平成24年度は、将来像の実現に向け、優先順位を決めて実証的な取組を進める予定である。今年の連休明けには、KABSのメンバーに加え、事業に賛同して頂けるより多くの方々に対し、実行計画を発表して行きたい。

この度は、常連メンバーの五月女さんからは大量のラナンキュラスを、小澤さんからは絶品トマトとさやえんどうを、そして森住さんからは手作りの木製時計を進呈して頂き、最終回のKAB研究会に花を添えて頂いた。皆さんの気持ちをとても嬉しく思った。この場を借りて、心よりお礼を申し上げたい。また、これまで計7回の研究会に、多忙な中、講師として来て頂いた皆さん、参加頂いた県内若手農家の皆さんに重ねてお礼申し上げる。皆さんの期待にたがわぬよう、KABS及び流通研究所は、明日の農業を切り拓くビジネスモデルづくりに向け、着実に前進し成果をあげていく所存である。

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