第68回 | 2011.10.17

県によるブランド認証制度のあり方と今後の課題  ~「明日のとやまブランド」農林水産部会より~

去る10月13日、「富山県推奨とやまブランド」育成・認定委員会の農林水産部会に、委員として出席させて頂いた。この事業は優れた富山県産品を県がブランド認定し、全国に向けて情報発信することで、地域産業の育成と富山県のイメージアップ向上を図ろうとするものである。平成22年度は、「ます寿し」、「チューリップ」、「富山干柿」、「ブリ」、「シロエビ」など11品目を「とやまブランド」として認証し、ブランドマークの作成と認証事業者の利用促進、高品質なパンフレットの作成、「サライ」、「一個人」など全国雑誌への広告の出稿を行った。

20111017
(富山県ホームページより)

平成23年度は、ホームページの新設や映像作成、全国雑誌への広告、県主催のイベント活用したブース出店に加え、認定事業者が新たに取り組む県のイメージアップにつながる事業費への助成などを盛り込んだ「とやまブランド情報発信事業」を実施している。また、認定品目のPRを目的とした首都圏での推進フォーラムの開催(「とやまブランドPRイベント開催事業」)や、認定事業者がブランド強化に向けて取り組む事業に対し、専門家派遣などの経費を助成する「明日のとやまブランド育成事業」なども行っている。

今年の農林水産部会では「とやまブランド」の新規認定の審査はなく、「明日のとやまブランド」のみの認定審査を行った。「明日のとやまブランド」とは、市場競争力を持ち県のPRに貢献するとともに、「とやまブランド」になるための射程距離にある商品であることを定義としたものある。昨年度「明日のとやまブランド」認定された入善の「深層水あわび」については、私自身が専門家として現地指導を行った経緯がある。①高品質と信頼性・安全性、②オリジナリティ、③富山らしさ、④市場性、⑤将来性の観点から15の審査項目があり、各委員の事前審査結果を集計し、当日は上位5品目を検討対象とした。

農林水産部会は、私の盟友の赤池学先生が部会長を務め、野菜ソムリエの倉田委員、食品メーカー経営者である小西委員など、一線級のメンバーによって構成されており、その議論の内容は誠に興味深いものがある。このコラムで検討結果を紹介できないのが残念であるが、検討内容から、ブランド認定の考え方やポイントを整理してみたい。

1点目は、食の安全性にかかわる事項である。ブランド認定を行うからには、当然商品の安全性が担保されている必要があり、ISOやHACCPなどを事業者が取得していることが一つの根拠となる。一方、富山は「黒部の名水」など、水が豊かで清らかでうまいというイメージが定着しており、名水を活用した特産品づくりが盛んだ。本来湧き水を使いたいところであるが、湧き水の安全性を証明するのは難しく、多くの事業者が水道水を使っているのが実状だ。水道水では、地域本来の味が出せない商品もあり、安全性とオリジナリティの両立が課題になっている現状が明らかになった。

2点目は、ルーツはどこなのかという点である。富山県にルーツがあり、現在でも富山県産の原料を使っているにも関わらず、他県の特産品として製造・販売されている産品があった。今後JAS法などでも原産地表示が厳しくなることが予想されていることから、ブランド認証することで、富山県が本家であることを全国に向けて積極的にPRし、原料生産から商品の製造・販売までの食品クラスターのような取組を促進させたいという意見が多く上がった。認定にあたっては、地域に農林水産業全般に渡る波及効果や社会性なども、重視されることになる。

3点目は、売れる商品なのかという点である。部会ではいくつかの商品を試食したが、単に地域食材を有効活用したというのでは弱く、飛び抜けてうまいなど強烈なインパクトがなければ、ヒットは期待できない。また、オリジナリティはあっても、商品内容とコンセプトがミスマッチで、消費者に受け入れられないと判断された産品もあった。売れる商品づくりに向けては、贈答用か市販用か、あるいは業務用かなどの用途や、具体的な売り場や買い手、食シーンの想定が求められる。

4点目は、情報発信先・販売先についてである。地方のブランド商品の多くは、首都圏など大都市部で勝負することを考えている。確かに無限大の消費人口を持つ大都市部は魅力がある。しかし商品によっては、地産地消の視点から、地域の食文化として定着させ、観光客に買ってもらう、食べてもらうような展開が重視されるのではないかという意見が多くあがった。首都圏でのPRに加え、その商品が富山県のどの店で売っているのか、あるいは食べられるのかという情報発信も求められると考える。特に鮮度が重視される海産物などは、富山に来ないと本物の味は食べられない。

私個人としては、認証品ごとのマーケティング方策の確立が、今後の「とやまブランド」の重点課題であると考えている。認証商品をラインナップ化して、情報発信することも効果はあるが、商品ごとに流通特性も販売先も購買シーンも異なる。全国には、単にパンフレットをつくりイベントを行うだけで、行政側の自己満足に終わってしまっている例も少なくない。もちろんマーケティングは、認定事業者の自助努力が大事であるが、ブランド力の強化・育成のためには、商品ごとに適切な販路を開拓し、継続的・安定的に取引できるパートナーを拡大して行くことが求められる。このような取組を、さらに力強く支援していくような、今後の富山県の施策に期待したい。