第296回 | 2016.09.20

直売農家を育成しよう!
~南足柄市直売農家研修会より~

道の駅や直売所の開設に向けては、農産物の出荷者の確保・育成が大きな取組課題になる。道の駅や直売所の魅力は、何と言っても新鮮で特色のある地域農産物の品揃えであろう。逆説的に言えば、出荷者の確保・育成が、道の駅などの成否を決めることになる。

しかし、地域農家の減少・高齢化が進む中にあって、出荷者の確保・育成は容易なことではない。反面、地域農業の実態を見ると、稲作しか行っていない兼業農家が過半を超え、自給的農家の割合が2~3割を占めているような地域が多い。農家である限り、自家消費用の野菜の栽培経験はあるし、野菜づくりの基礎知識はそこそこ持っている。そこで、こうした兼業農家や自給的農家を、野菜の販売農家に転換し、出荷者として育成できないものかと考える地域も多いであろう。

道の駅の整備を進めている南足柄市では、「直売農家育成プロジェクト」を立ち上げ、その一貫として、野菜作りのプロである中核農家が講師になって、兼業農家・自給的農家を対象に研修を行い、出荷者として育成するという取組を行っている。先般、7月に開催した座学研修会に続き、(株)なんかいファームの清水洋代表を講師にして、(株)なんかいファームのほ場において約25名の参加者のもと、現地研修会を開催した。予想以上に有意義な研修になったことから、本日はこの研修会の様子を伝えてみたい。なお、清水洋氏については、「二の釼が斬る!第292号」で詳しく取り上げているので、参考にして頂きたい。

現地研修会は、雨よけハウスの苗場において、苗作りの実践手法の講義からはじまった。自給的農家から販売農家へ成長するためには、大量かつ安価な苗づくりのノウハウは必要不可欠だ。ホームセンターでブロッコリーの苗を買ったら1苗58円程度するが、自分で苗を作れば3円程度の原価で済む。また直播よりも、育苗・定植をした方が、はるかに品質が安定する。清水氏は、丸型のセルトレーと稲作用の苗箱を使いながら、苗床の作り方、保管場所、発芽と育苗方法、水分の管理方法、病害虫対策などにつき、丁寧に講義された。教科書で独学するのと実物を見ながら教えてもらうのとは大違いである。

続いて、なすのほ場に移動し、秋なすの上手なつくり方について教えて頂いた。清水氏のなすは3本ではなく、きゅうり用のパイプを使って2本仕立てとし、なすの実を枝ごと切って収穫する方法を採用している。県の研究レポートなどを参考に、自ら研究を重ね考案したようだ。7月~8月のなすの最盛期に出荷しても、売場にはなすがあふれるほど出荷されていて、売りきるためには値段を下げざるを得ない。人が出さない時期に出すことで、消費者も喜ぶし、高い値段でよく売れる。清水氏は、種苗会社から一番遅い時期に出てくる苗を購入し、なすの枝をなるべくいじめず延命させる栽培方法をとることで、秋なすに的を絞った出荷を実現している。

清水氏は、他の作物についても、時期をずらした栽培にこだわっている。私は家が近いこともあり、清水氏とはちょくちょく会うのだが、その都度その栽培の秘訣を聞いては、自家農園でまねをしている。いずれも企業秘密であるが、よく聞けば、私のような素人でも出来るような簡単な作業である場合が多い。儲かる直売農家になるためには、同じ品目をなるべく長期間出荷できるようにすることがポイントであるが、その秘訣はあまり教科書には載っていない。

続いて、たまねぎの苗づくりのほ場を見せて頂いた。清水氏は、たまねぎには特にこだわりがあり、非常に研究熱心である。その中でも、たまねぎの出来は苗づくりで決まるという信念を持っている。ほ場には、幅1間で長さ40mほどの苗床が、5畝ほど作られていた。生育に合わせ、籾ガラや寒冷紗を使い、きれいに芽出しを実現させる技は、なかなか素人には出来ない。受講生もさすがにこれはまねできないと思ったようだ。清水氏は、畝づくりのために、緑肥や有機堆肥を使いながら、1箇所について4~5回耕運するそうだ。たまねぎの苗床もそうして作った。丁寧な土づくりが、病虫害が少なく、高品質な苗づくり・野菜づくりにつながることを教えて頂いた。

 

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最後に、農業用の倉庫兼事務所に戻り、使用しているこだわりの肥料や最新の農業用機械に加え、農薬の保管庫も見学させて頂いた。どれもこれも、きっちり整理整頓されており、JGAPを取得していることがよく分かる。ちなみに農業に限らず、仕事ができる人間は、何に付けても整理整頓を徹底して行っている。整理整頓することで、作業時間の短縮につながるだけでなく、頭の中も整理でき、段取り・手順を組み充てる能力があがり、仕事のスピードは格段に高まることになる。直売をめざす農家は、多品目を生産することになるが、それに合わせ使用する農業資材も多様化することになるので、先ずは整理整頓からはじめたい。

最後に、野菜の病虫害とその対策について写真入りで記載した資料に基づき、農薬の選び方や使い方などについて講義して頂いた。ポジティブリスト制度により、品目別に使ってよい農薬は限定されている。品目別の病虫害と利用できる農薬の体系について、本気で覚えるのは膨大な時間がかかる。そこで、先ずは、品目ごとに発生しやすい病虫害を覚え、自分が作ろうと思う品目別に使える農薬を、本やネットから整理することがポイントであることを教えて頂いた。ちなみに清水氏の事務所には、大きなホワイトボードが2つほどおいてあり、清水氏は、その一つのボード一面に手書きで品目・病虫害・農薬を整理してあった。

僅か1時間強ほどの研修会であったが、栽培ノウハウが凝縮された非常に有意義な内容であったし、「さて、明日からやってみるか」という気持ちになった参加者が多かったと感じた。研修終了後、「もう追加の研修会はやらないのか」、「わからないことがあったら教えてくれるのか」などの質問が殺到した。それほど参加者にとってはインパクトのある研修会であったのであろう。

直売農家の育成に向けた研修会の開催においては、県の普及員などを講師に招くことも有効であろう。しかし私が、わざわざ清水氏に講師をお願いした理由は、清水氏が地域の中核的農家であり、道の駅が開業した折には、出荷者のリーダーとなるからだ。県の普及員の場合、教えて欲しいことがあっても、容易に教えてもらいにいくことは出来ない。しかし、地域の農家が先生であれば、折に触れて教えてもらう機会があるだろうし、教えてもらった栽培技術などが口コミで地域に広がっていくことも期待できる。さらには、先生の手伝いをしながら学ぶようなシーンも生まれるかもしれない。

兼業農家や自給的農家を、野菜の出荷者として育成することは容易ではない。そのためには先ず、「きっかけづくり」が大切なのだと思う。この度の研修会もその一つの方法であるし、視察研修やイベント販売なども有効であろう。一人が育てば、二人目、三人目と続き、そしてグループができ、やがて組織になる。道の駅や直売所の開業時期に合わせ、地域の状況を踏まえつつ、重層的に仕掛けていくことで、時間はかかっても、結果は必ずついてくると信じている。