第273回 | 2016.02.22

直売農家の発掘・育成手法を考える
~自給的農家・非農家を出荷者へ~

本年度も直売所の開設にかかわる仕事が多い。直売所の開設において、どの地域でも共通的な課題となっているのが出荷者の確保・育成である。畑作農業が盛んな地域では多くの出荷者が期待できるが、米や果樹などの専作の産地や販売農家数が少ない地域にあっては、せっかく直売所ができても出荷者がいない、農産物が確保できないといった事態に直面することになる。

一方、特に都市近郊産地においては、農地はあっても販売していない自給的農家、闇貸借で相応規模の野菜を作っている非農家、さらには農業をやってみたいと考える定年帰農者や主婦などが多く存在する。こうした人々に、本格的な野菜作りに取り組んでもらい、直売所の出荷者として育成できないものかと考える関係者は多いだろう。

しかし、素人に売れるレベルの品質の野菜をつくらせることは容易ではない。野菜づくりの基礎知識の習得はもちろん、適切な指導のもと栽培の経験を重ねなければそのレベルに達することは出来ない。そこで、市やJAなどでは、座学と実習による市民農家塾のようなセミナーを開設している。しかし、その受講生のほとんどは、文化セミナーのような感覚で参加しており、趣味の領域から脱しないようだ。

自給的農家・非農家を出荷者へと育成する方策の一つとして、このような市民農業塾の仕組みを発展させることが効果的であると考える。そのためには、出荷者にさせるための明確な道筋と動機付けが必要である。例えば、市民農業塾の中に、直売農家コースなるものを設け、100坪程度のほ場を参加者それぞれに貸し付け、栽培指導のもとに年間10~15品目程度の野菜づくりを実践させるといった手法である。出来た農産物は、指導する農家やJAなどの名義で販売して、必要経費の補てんに充てればよい。2年目以降は栽培するほ場面積を段階的に増やし、将来的には農業委員会との連携により農家資格を取得させることを検討したい。

以前このブログで紹介した、中核的な農家が非農家等を雇用し(または非農家との業務委託契約)、育成プログラムに沿って農作業を担わせることで、将来的に農家として独立させる方法も有効であろう。育成プログラムでは、野菜の栽培だけでなく、収穫・運搬・選別・袋詰めなどの出荷調整作業まで盛り込む必要がある。品目によって異なるが、例えばおくらの場合、生産から販売までの作業時間のうち、出荷調整作業に占める割合が大半である。特に選別・袋詰めの方法や丁寧さによって、商品価値が大きく変わることから、売れる野菜づくりとは何かを学んでもらうためにも必要な作業である。

私は地域の神社祭りの実行委員を長年やっているが、委員会の固定メンバーだけで約20名が存在する。また、神社祭りの開催にあたっては、地域の6か所の自治会、子ども会など様々な組織が参加する。農村地帯なので、参加者の多くが農家や農家の親戚・親族であることから、こうしたメンバーに声をかけ、野菜の生産・出荷グループをつくれないものかと思う。地域の農業生産法人である(株)おだわら清流の郷が指導し、農家資格を持たないメンバーの農産物は、清流の郷が一元的に販売する仕組みにしたい。地域には様々なイベントがあり、いくつかの活性化グループが存在すると思われるが、同様の手法で、直売向けの共同組織をつくることは可能ではなかろうか。

都市近郊型の地域では、市民農園が相変わらず盛況である。市民農園の利用者は、農業に興味を持っていると共に、そこそこの栽培知識があるものと考えられる。市民農園を覗くと、まったくダメな人が多い一方で、びっくりするような良い野菜を作っている人もいる。市などの開設者の協力を得ながら、こうした市民農園利用者に広報して、以上述べたような事業への参加者を募ることは有効であると考えられる。

話は変わるが、直売所が開設させると、これまで農業に従事していなかった定年帰農者が野菜を独学でつくりはじめ、出荷者になるケースが全国的に多い。ここで問題になるが、安全性と品質レベルの確保である。安全性の確保とは、主として農薬の適正利用と生産履歴の記帳を意味する。生産履歴をつけることは法的にも義務付けられているが、定年帰農者など直売所の出荷者の中には、未だにこの義務を果たしていない者も見られる。

品質レベルの確保とは、売れる農産物・食べておいしい農産物の品質を出荷できる基準にすることを意味する。素人が一定品質の農産物をつくることは容易ではないが、粗悪品を低価格で出荷するような風潮が出来てしまうとその直売所は終わりである。あそこの直売所はひどい農産物を安く売っているという評判はすぐに蔓延し、お客は離れていく。野菜を作っても、半分しか良いものが出来ないようなケースも多いだろうが、粗悪品の半分は自家消費するか廃棄するというルールを徹底させるべきである。

規格外品を捨てるのは「もったいない」などという話をよく聞く。確かに規格外であってもおいしい農産物はある。例えば、私は今年、50株ほどのブロッコリーを自家消費用に作っているが、ブロッコリーは収穫した後に枝芽がたくさん出てきて、これが実においしい。こうした枝芽を袋詰めにしたものは立派な商品である。一方、小ぶりで奇形のさといもは、剥くことが大変なことに加え、腐れの部分が多くおいしくない。こうしたものは売ってはならず、廃棄すべきであり、「もったいない」という言葉には該当しない。

直売所の中でも、JAが開設する直売所は総じて安全性・品質ともに高い。それは、JAが出荷者に対してしっかりした指導・管理体制をとっているからだ。私の地元のJAは2か所の直売所を開設しているが、准組合員でも出荷できるJAが多い中で、安全性・品質の確保のためには出荷者をしっかり管理する必要があるとの理由で、出荷者は正組合員に限定している。排他的であるという批判もあろうが、私は大いに賛成である。消費者が食べる農産物をつくり販売する者は、自分がつくるものに責任を持てる農家でなくてはならないし、直売所の開設者は委託販売といえども出荷者を管理する責任を持つ必要がある。

このように、自給的農家・非農家を出荷者にしていくためには、様々なハードルがある。安易な考えでは実現できないが、先に述べたような手法を参考に、地域の特色を生かし、地域内での連携を強化して、出荷者の確保という直売所の共通課題に取り組んで頂きたい。