第212回 | 2014.11.04

直売所における食育活動を考える ~平成26年度フードチェーン食育活動推進事業より~

流通研究所では、今年度、平成26年度フードチェーン食育活動推進事業の採択を受け、これまで消費者を対象に、農作業体験、農産物の食事体験、加工体験などを通し、食育に対する理解醸成を深めるためのバスツアーを実施してきた。この度は本事業の一環として、KABSの基幹店舗である「あざみ野マルシェ」において「旬野菜の食べ方講習会」を開催した。

日頃「あざみ野マルシェ」では、販促活動を兼ねて、提携する野菜ソムリエさん達が来店者向けに旬の野菜の試食活動を行っている。この度は、KABSが誇る自慢のソムリエ3人娘が、店頭において2日間にかけ、合計30品目の料理をつくり、試食品として提供することで、野菜のおいしい食べ方、簡単な料理の方法を伝えていくという取組である。

初日の11月1日(土)は、あいにくの雨の一日だったが、それでもたくさんの消費者に参加して頂いた。2日目は天気も上々で、さらに多くの消費者に、この講習会に参加して頂いた。次々と調理し並べられる試食品を試食しながら、野菜ソムリエさん達から説明に熱心に耳を傾ける光景がみられた。事前に用意した試食品レシピを持ち帰る方が非常に多く、野菜やその調理方法に対する関心が高いことを実感した。

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さいとも、きゅうり、はくさい、ねぎ、にんじん、キャベツ、ブロッコリー、しいたけ、とうがん、トマトなど旬の野菜の中から、野菜ソムリエさん3名が担当する素材を選び、素材ごとにいくつかの料理を提供するという方法をとった。料理内容は、流通研究所のホームページでも記載するので参考にして欲しい。どれも家庭で簡単にでき、驚きのおいしさを発見できるようなメニューばかりだ。

厚生労働省によれば、1人あたりの1日の野菜摂取量の目安は350g。Lサイズのきゅうりが1本約100gだから、3本と1/2という数量だ。しかも栄養バランスに配慮しながら摂取しなけばならないという。第209号のコラムでは、たくさん野菜を食べてもらうためには、野菜のおいしさを知ってもらうこと、野菜を簡単に調理できる方法を知ってもらうことが、食育の普及において重要であることを述べた。この度の講習会の狙いは、旬の野菜を活用し、各家庭で習った料理方法を家庭で実践してもらい、おいしく沢山の野菜を食べてもらうことにある。

金次郎野菜コーナーでは、入荷日に合わせ3名の野菜ソムリエさん達が、消費者向けに試食や商品説明を行っている。これはもちろん、販売促進活動として行っている訳であるが、反面、食育という社会的意義の高い活動を実践していると言える。この2日間実施した「旬の野菜の食べ方講習会」は、普段行っている活動を応用したに過ぎない。3名の野菜ソムリエさん達は、野菜の知識や調理の技術の高さに加え、非常に高いモチベーションを持っている。こうしたノウハウや情熱が、この度の講習会にも活かされたと思う。

この度の食育活動で、2つのことを考えた。1つ目は、改めて、農業振興に向けて食育は非常に重要な活動となることだ。KABSでは、若き専業農家が情熱を傾けて生産している商品の価値を、消費者に伝えて行くことが使命であると考えてきた。価値を消費者に伝える方法はいくつかあるが、最も効果的な方法は食べさせることだ。食を通して、その野菜のおいしさを知り、価値を体感させることが、最大の販売促進につながる。また、商品そのものだけではなく、野菜の旬や栽培方法、さらには生産者のこだわりなど、より深い知識をつけてもらうことで、価格だけが基準ではない購買行動へと転換することになる。特に若い消費者は、ファーストフードやコンビニ惣菜が日常的な主食になってしまっており、野菜の購入率は著しく低い。地道な食育活動を、農業にかかわる全ての関係者が全国で展開して行けば、野菜の購入量はさらに増え、販売価格の下支えに貢献するものと考える。

また、スーパーなどは、特売などに販促費をかけるより、店頭での食育活動にコストを投下するといった考え方を持って頂きたい。価格競争より価値競争を目指してもらうと共に、価値の伝達競争に力を入れて欲しいと思う。今後は、安いものを大量に購入する時代は終わり、消費者ニーズのさらなる細分化に伴い、自ら価値を認める商品のみを購入する時代に突入すると考えられる。したがって、食育活動を積極的に行うことが店舗のブランド力を高め、適正利益を確保でき、さらには農業振興につながることになると考える。

2つ目は、おいしい農産物を作り続けるという生産者意識の大切さだ。つくった農産物がおいしいかまずいか、生産者が一番よく知っているはずだ。まずい農産物をつくっても、売れないし、仮に一時的に売れたとしてもやがて顧客は離れてしまい、持続的な商売にはならない。特に直売を主な販路とする生産者は、規格外の定義について熟慮して欲しい。品目によるが、規格外とは不健康な農産物のことであり、総じておいしくない。もったいないから、安ければ売れるからといって、まずい規格外品を販売することは、農家の義務とプライドを捨てること、さらには消費者を裏切ることを意味する。プロならば、まずい規格外品を売る工夫をするのではなく、秀品率を高める努力を日夜重ねるべきだ。

食育活動とは、消費者と生産者との信頼の絆をつくるための取組である。そのためには、生産者もまた、おいしい価値ある農産物をつくり、提供し続ける努力が必要不可欠である。そしてその懸け橋になるのが、直売所であり、スーパーであり、卸売市場といった流通事業者である。生産~流通~消費の、それぞれの立場の人々が役割を果たしながら、食育活動を持続することで、日本人全員が食の豊かさ、農業の大切さを共有できる時代がくるだろうと考える。