第6回 | 2010.07.05

産地は挑戦する! ~ブランド戦略の基本的な考え方~

先週、FOOD ACTION NIPPONでもご一緒させて頂いている(株)ユニバーサルデザイン総合研究所の赤池先生が部会長を務める、富山県ブランド選定委員会に出席した。富山県が全国に誇る産品を選定し、県をあげて情報発信しようという取組である。県ブランドの取組は三重県が全国に先駆け開始したが、富山県はもともと農林水産資源が豊かで食文化も成熟しており、著名な産品が多い地域である。7名の委員による白熱した議論のもと、60件を超える応募の中から誰もが納得できる結論を得ることができた。結果は現段階で申し上げることはできないが、早々に正式発表があると思うので注目して頂きたい。審査基準は生産技術やオリジナリティ、富山らしさ、市場性などの大項目を踏まえ、約30の詳細な項目が設定されており、委員全員が点数評価するという緻密なものだった。その中で私個人は、地域経済効果(地域売上向上効果、地域雇用創出効果など)と、将来性・普及性に着目して意見を述べさせて頂いた。高い技術力を持っておりオリジナリティに富んでいても、いち企業のみが栄冠を手に入れる仕組みは、県ブランドにそぐわないと考えた。

さて、全国の産地はどこでもブランド化を目指している。ブランド産品とは市況に左右されない価格形成力と安定需要を持ち、価値を備え、情報発信によりその価値を実需者・消費者へ適切に伝え、実需者・消費者の信頼を裏切らないための管理が徹底されている商品を言う。以下は「価値を持つ」、「価値を伝える」、「価値を管理する」の3つの視点からブランド戦略の基本的な考え方を述べてみたい。

まず価値とは何であろうか。価値とは、安全・安心を前提条件とした味覚や栽培方法、圧倒的なロットと高位平準化などであるが、伝統野菜・地域特産品そういった価値を持つ。その中で有名なのが、「京野菜」であり「加賀野菜」である。加賀野菜は金沢でしか作れないことが特徴で、種子メーカーから毎年種を買う一代交配種のような規格品ではなく、ほとんどが自家採取で翌年の種を取り、種を受け継いで長年培った栽培技術によって育てて来たものである。また、平均気温の差により栽培期間が長い点も特徴で、より多くの養分を取りこんで、ゆっくりと生育するために旨みが増すという。しかし、栽培期間が長いことは、病虫害に侵されやすく、品質の低下をまねく恐れがある。こうした特異性や努力が、他の産地には真似できない差別化要因となって産地ブランドを確立している。しかし、実需者側からは「築地市場では加賀野菜ののぼりがたくさん見られるが、市場に品物がない」、「品物がなければ結局、客が離れていく」、「供給力とブランド力のバランスが大事だ」などの声があがっている。これに対し、産地側は「量を取れば甘味が薄くなり、評価が落ちるので生産管理を厳しくしている」「どれも量が少なく、高齢化や後継者問題などで増産が難しい」と産地の現状を報告したという。ブランド野菜の代表格と言われる加賀野菜についてもこのような課題がある。限られた農地で、限られた種、手間をかけた栽培技術によりブランド化を実現した訳であるが、必ずしも農家所得や後継者の育成に結びついていない面もあるものと考えられる。

次に価値を伝えることを考えてみたい。山形県のJA鶴岡と生産者組織連絡協議会が取り組む「だだちゃ豆」を例にあげて考えてみよう。「くびれも深く見た目は良くありませんが、とうもろこしのような独特の香りがします」これがいわゆるコンセプトで、その品質と特徴を明らかにし、食シーンを消費者に沸き立たせるようなキャッチコピーを打っている。その背景には、同じ種子を使っても他の産地で育てると食味が変わってしまうことから、産地を限定した上で土壌に着目した研究を進め、より安定した栽培管理方法と独自の土壌作りを確立したという産地の自信がある。また、市民によるまちづくり創造支援事業の一環として、「だだちゃ豆を愛する会」を創設し、販売促進活動やイベントを実施してメディアによる広報を積極的に行って知名度を向上させたという、市民参加の情報戦略を展開したことも特筆すべきことである。産地は価値を伝えることが下手である。「絶対うまいから食べてみてくれ」と言うだけでは消費者に価値は伝わらない。何が価値なのか、一言で伝えるキャッチをつくり、消費者に確実に届く情報発信手法を検討して欲しい。

最後に価値を管理する方法であるが、これは「夕張メロン」があまりにも有名である。「夕張メロン」は地域団体登録商標制度の導入以前から、「地名+一般名称」で例外的に商標登録が認められた事例として知られている。赤肉系のキング系メロンが各地から出てくるようになって様々な名称をつけているが、夕張メロンほどの知名度はない。「作りづらい、日持ちしない、売りづらい」品種ではあるが種自体はどこでも作れるという。しかし、JA夕張市では、均等な品質の生産を目指し優良な品種を限定したうえで一代限りの種を管理し、それを組合員に販売している。共選の規格は「特秀」「秀」「優」「良」と4段階で、生産者による生産者のための選果が行われており、約40人の検査員はみな生産者である。JAの職員が行うと、生産者からランク分けの不満が出るという理由から、メロンの特質を熟知している生産者にあえて検査業務を担当させている。光センサーによるランク分けよりも、こうした検査員が厳格に検査して「特秀」から「秀」へ等格下げする場合が多いという。1日2万ケースも扱っていても、「特秀」はごくわずかで、これらは超高級品を求める料亭等に直送される。一方「良」までに入らなかったものはすべて加工原料に回るものの、原料仕向の売上は生産者には払われない。むしろそうした品質を持ち込んだ生産者には罰金が課せられるという。

今回は、全国産地の夢であるブランド戦略の基本的な考え方を述べた。次回から折に触れ、具体的な研究事例を述べて行きたい。