第115回 | 2012.10.09

生産者のプレゼンテーション能力をアップせよ! ~かながわ県産品マッチング勉強会より~

神奈川県かながわ農林水産ブランド戦略課では、11月28日(水)に神奈川県産業振興センタービルにおいて、県内の生産者と実需者をつなぐマッチング商談会を開催する予定である。これに先立ち、去る10月3日(水)に、商談会にエントリーした県内生産者を対象に、勉強会が開催された。私に加え、野菜ビジネスの川島社長、箱根プロモーションフォーラムの中嶋事務局長、トマト生産者である「おいしい農園」の石井氏が講師となり、第1部では講師陣によるパネルディスカッション、第2部では参加者によるグループワークを行った。

この度の勉強会のテーマは、いかに自分とその商品を売り込むかと言うプロモーションの仕方である。生産者は農産物作りのプロであるが、販売については総じて苦手である。しかし、「食べてみれば分かる」では、その価値を流通事業者や消費者に伝えることは出来ない。有利販売を実現したいのであれば、自分が作った農産物の価値を、売り手に伝える努力を怠ってはならない。

参加者には、予め、売り込みたい品目と、その特徴やこだわり、生産量や希望価格などを書き込んだエントリーシートを作成してもらった。このエントリーシートに修正を加え、完成させることが、本勉強会の目的であると言える。

第1部のパネルディスカッションでは、私の司会進行のもと、3名の方から実践的な話を頂いた。

もともと小売業からスタートし、マルシェ事業に高い実績と経験を持つ川島氏からは、個人の生産者がスーパーなどと継続的な取引をするのは難しく、グループ化もしくは大規模化して、交渉力と物流効率などを高めるべきだと言うアドバイスを頂いた。また、神奈川県は、まだまだ地産地消比率が低く、販路開拓の余地は十分あると励ましの言葉を頂いた。

中嶋氏からは、ホテル・飲食店の取引上の特徴について話を頂いた。大手のホテル・旅館などは、経営陣からの圧力が強く、いかに安定的に安く仕入れるかがポイントで、量は期待できても価格は期待できない。一方、オーナーシェフなどの店は、こだわりの食材を仕入れたいと言う思いが強く、価格は期待できても量は期待できないのが実状だと語られた。その上で、「箱根」と言うブランド力を活かし、例えば「箱根野菜」などのネーミングで農産物をラインナップ化し、参加する生産者のブランド力を高めるような手法も考えられると提案された。

石井氏からは、直売や直接取引を実践して来た経験を活かし、PRの手法について話して頂いた。「石井農園」と言うのでは、全国どこにでもあるので、自らにプレッシャーをかける意味でも「おいしい農園」と言う名前をつけた。「産物の品種を表示しても消費者には分からないことから、例えば「皮は硬めだけど、香りが強く、甘みがぎっちり詰まってます」など、分かりやすい商品説明が必要だと話された、また、POPを自ら作ったり、パッケージの形態やデザインなども重要で、先ずは消費者に手にとってもらうことを考える必要があると話された。

第2部のグループワークでは、受講生が4~5名のグループをつくり、理想的なエントリーシートを、みんなで話し合いながら作ると言う作業が行われた。1人のエントリーシートをたたき台とし、各エリアの普及員や我々講師陣もアドバイザーとして加わり、完成を目指した。その後各グループからの発表があり、講師陣が総評を行った。どの発表内容も素晴らしいものであり、受講生はこの度の研修会を通して、いくつかのヒントを得たものと確信した。

生産者が商談会や販路開拓にあたりプロモーション活動をする上で、私が特に大切だと思っている視点を、改めて記載しておく。

第一に、生産者自身をいかに売り込むかと言う視点である。バイヤーなどは、生産者の技術、生産能力に加え、農業への取組姿勢などに着眼する。そこで、生産者側の労働者数、生産規模、法人化の予定、将来の経営展望、農業への思いなどを別途書面にまとめておき、自信を持って自分自身のプレゼンテーションが出来るよう、準備しておきたい。

第二に、商品をいかに売り込むかと言う視点である。小田原の「奇跡のたまねぎ」、JAトピア浜松の「キャンディキャベツ」のように、商品の特徴をイメージさせるようなオリジナルの商品名をつけてみるのも一つの手であろう。商品説明は重要であるが、例えば「先祖伝来の有機堆肥だから、極上のうまみとあまみ!」など、なるべく手短に、一行でまとめたい。消費者は長い文章は読まないし、小売店でもPRしにくい。

第三に、希望価格の根拠を持つと言う視点である。市況が低迷する中で、高い価格を付けたいのは山々であるが、どうしてそのような価格になるのか、説明できる根拠を持たないと、相手に納得してもらえない。また、農業経営の観点からも、原価計算は重要であり、「売上高(単価×販売数量)-経費(資材費+動力費+原価償却費+人件費等)=利益」については折に触れ計算しておき、1反(あるいはハウス)、1作あたり、どれくらいの収量が期待でき、いくらで売らないと採算が合わないのかと言う目安の数字を持って頂きたい。

生産者は本来、生産現場に集中するべきで、販売・営業に多大な労力を裂くべきではないと言うのが私の持論である。本気で販売に力を入れたいのなら、グループ化あるいは法人化を進め、しかるべき要員を確保するべきであろう。しかしこれまで、生産者は土にかじりついて、何も語ってこなかった。その結果、流通事業者や消費者は、生産者の思いや苦労が伝わらず、買い手のいい値で取引せざるを得ない構図を作ってきてしまったと言える。これより先日本は、生産者が大幅に減少し、生産量も右肩下がりとなり、供給過剰から供給不足の需給構造へ転換する可能性が強い。これからは、生産者が自信を持ってものを言い、買手に納得してもらえるようなプレゼンテーション能力をつけて行く必要があろう。