第188回 | 2014.05.12

特化・差別化が卸売市場の生き残りに向けたキーワード ~東京聖栄大学 藤島先生からの教示~

今年も、卸売市場の経営改革にかかわる仕事が増えそうだ。前回このコラムで述べたように、消費構造の変遷(「ネオポストモダン型消費」社会の本格的到来)に伴い、卸売市場は自ら、その流通構造を変革しなければならない。少品種大量消費の時代から、多品種少量消費の時代へ移行する中で、卸売市場・市場流通の強みや特長を活かし、新たなビジネスモデルを創造できるかどうかが再生の鍵になる。

先般、ある自治体からの委託調査で、元東京農業大学教授の藤島廣二先生(現在東京聖栄大学客員教授)のところに、検討委員会の委員長の就任のご挨拶に伺った。藤島先生は、長年市場改革に関する国の委員を歴任されるなど、この分野の第一人者であり、市場流通に携わる者なら誰でも知っている著名人である。本日は、藤島先生の著書「市場流通2025年ビジョン」と先生から直接お聞きした話をもとに、私なりに卸売市場の生き残りに向けたキーワードを整理してみたい。

藤島先生の卸売市場に対する基本的な考え方には、私も強く共感している。すなわち、生鮮品から加工品への消費シフトなどにより、消費構造・流通構造が大きく変化する中で、生鮮品の取扱を主体とした卸売市場の縮小は今後も必須である。一方、流通コストを縮減し、食料の安定供給を担う卸売市場は、国民生活と農水産業の維持・発展のために、今後も必要不可欠な存在である。特に先生は、卸売市場を通さなければ、その分流通コストを削減できると言う間違った考え方が一般的になりつつあることに警鐘を鳴らす。直接取引をすると取引回数は増え、物流効率は悪くなり、逆にコスト高になることを認識するべきだと言う。

先生は、卸売市場・市場流通の今後のあり方について、著書の中で詳述されている。先ずは、生産者・小売業者等向け支援機能の強化、社会的流通コストのさらなる縮減による「社会的貢献度の向上」をあり方の最初にあげられている。その上で、生産者に対する支援機能の強化方法、小売業者・業務用実需者に対する支援機能の強化方法、及び社会的流通コストに関する縮減機能の強化方法について、12の具体的な取組手法について述べられている。

さらに、今後あるべき卸売市場を6つのタイプに分類し、それぞれの特徴や取組課題などを整理されている。これまでいずれの卸売市場も同様の運営を行って来たが、藤島先生は、画一化から脱却し、卸売市場間での役割・機能を分担しつつ、それぞれが特徴ある運営をしていく必要があると言われている。すべての卸売市場が、先に述べた12の具体的な取組手法を採用するのではなく、それぞれの強み・弱みを踏まえ、どの手法を採用し特化していくのかと言う取捨選択が重要であると解説されている。大変参考になるので、先生が言われる6つのタイプを記載しておく。

【今後目指すべき卸売市場の6つのタイプ】
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出典:藤島廣二著「市場流通2025年ビジョン」筑波書房

私も業務上、様々な卸売市場の調査・研究を行って来たが、まさしくこの通りだと思う。ⅠからⅥまでを包括した市場を目指すことも可能であろうが、毎年経営状況が悪化する中で、あまり欲張ってもうまくいくとは思えない。思い切って、捨てるべきものは捨て、選んだ道に経営資源を重点投下して、特化・差別化を目指すべきであろう。しかし、特に中央卸売市場においては、昔の栄光と「金看板」を捨てきれず、選択と集中への経営の舵をとるのは難しいようだ。

今後も確実に市場流通での取引量は縮小するし、間違いなく卸売市場の数は減少する。青果物では東京青果の一人勝ちなどと言われているが、東京青果の取引量はわずかに前年を上回っているに過ぎない。その他の市場が大幅に実績を落としているから、そう見えるだけだ。卸売市場のトップは、その現実を直視し、どの道を選ぶのか、何を捨てて何を伸ばすのか、英断すべき時を迎えている。その判断を躊躇すれば、あとは坂道を転げ落ちるしかないだろう。

そしてもう一つ、公設卸売市場を管理する行政にも同じことを申し上げる。50年も前に制定された市場法を現在まで引きずって、手かせ足かせをはめて、卸売市場をここまで駄目にしてしまった責任の半分は行政にある。時代にそぐわない条例はすぐにでも改めるべきであるし、市場関係者と共に、大胆かつ柔軟な戦略を打ち出すべきだ。英断するべきもう一人の主人公は、行政のトップであると言える。

「選択と集中、特化・差別化への英断」、これが卸売市場の生き残りに向けたキーワードと言えよう。