第210回 | 2014.10.20

物流コストの高騰に立ち向かえ~物流を征したものが流通を征する~

円安や原油高が続いていることに加え、人手不足が深刻化する中で、トラック業者の経営が悪化している。これまで業界全体で我慢を続けてきたが、燃料代及び人件費という2つのコストが上昇する中で、ここに来てトラック運賃の値上げが相次いでいる。

産地にとって、輸送運賃の値上げは物流コストの上昇につながるが、それを販売価格に転嫁することは容易ではないことから、生産者所得を減少させる結果を招いている。特に、大都市市場への直送体制をとっていた遠方の産地にとって、トラック運賃の上昇は、致命的な打撃になりかねない。こうした動向を受けて、北海道、九州などの産地では、2つの動きが加速している。

1つ目は、大都市市場から近隣の市場へ出荷先を変更する動きである。産地はこれまで、大都市の有力市場へ直送することで、取引量の拡大と価格形成力の維持を目指してきた。しかし、遠距離物流になることから、輸送運賃の値上げはその分利益の減少に直結することになる。また、有力産地は、より有利な価格形成を目指し、東京、名古屋、大阪、そして北九州の各市場に分散して取引する傾向がみられた。かつては産地→産地市場→消費地市場が一般的な流通経路であったが、今後は、こうした従来型の流通経路が拡大する可能性もあり、地方市場にとっては取引量拡大のチャンスと捉えることも出来よう。

2つ目は、トラック輸送から鉄道・フェリーなどに輸送方法を変更するというモーダルシフトの動きである。北海道では既に、じゃがいも、だいこんなどを鉄道輸送や海上輸送に切り替える取組が開始されている。輸送方法を切り替えることにより、物流コストは縮減できるが、物流時間は長くなる。したがって、比較的日持ちがする農産物、重量・ロットが大きい農産物が対象になる。受注から納品までのリードタイムの圧縮、物流上の荷の積み替え、鮮度管理など、いくつかの課題を残すものの、トラック運賃の高騰が続く中でモーダルシフトは着実に拡大していくものと考えられる。

物流費の高騰は、産地だけの問題ではない。インターネットで商品の注文を受け、各家庭に宅配する「ネットスーパー」に取り組んでいた小売店各社が、事業の継続の岐路に立たされている。配送コストが高騰する中で、事業収支が赤字になる企業が相次いでおり、流通方法の見直しによる配送コスト縮減や、取扱量の拡大によるスケールメリットの発揮をめざす動きが活発化している。

「ネットスーパー」の流通には「倉庫型」と「店舗型」の2つの方法がある。「倉庫型」とは、物流拠点となる倉庫を設け、そこで商品の仕分けと各家庭への配送を一元的に担う方法であり、首都圏ではサミットがこの方法を採用している。取扱商品の品揃えが充実でき、作業が効率的に出来る一方、各家庭までの物流距離が長くなることから、配達に時間がかかり物流費高騰のあおりを受けやすい。一方「店舗型」は、店舗を物流拠点として、ここから近隣の家庭へ配達する仕組みであり、イトーヨーカ堂が採用している。細かい物流網を張り巡らせることから、短時間で各家庭に配達でき、地場密着型の展開ができるという利点がある一方で、店舗ごとの受注件数が不安定で、作業効率が総じて低いという欠点がある。

西友は、「倉庫型」と「店舗型」の両方を採用した流通網を整備している。「倉庫型」では、生鮮食品を取り扱わず、冷蔵庫などの初期投資を抑え、常温物流を基本に全国への宅配を行っている。「店舗型」では、これを補完する商品を扱うことで、「倉庫型」のデメリットの克服に努めている。双方の利点を取り入れ、集荷と配達という2つの側面から最適な物流システムを構築していこうとするものだ。

先日の日経新聞の一面では、ユニクロが大和ハウス工業と業務提携し、インターネットで受注した商品をその日に配送できる体制を整備するため、都内に大型物流センターを建設することになったという記事が一面に載っていた。これまで、アマゾンやヤフー、楽天などのネット通販会社が実施していた手法であるが、カジュアル衣料の最大手が業界の垣根を越えて新たな物流システムに取り組むことで、大きなうねりになりそうだ。ネット宅配事業で各社がめざすのは、「大型倉庫型」である。大型倉庫が、入庫・在庫管理・受注・仕分け・パック・宅配までの全ての流通工程を賄うことで、最高のサービスを最も低いコストで提供するシステムを構築しようというものだ。

日本の流通の大動脈となっている卸売市場もまた、物流コスト高騰の影響を受けることになる。産地の育成という観点からも、産地側が負担する卸売市場までの物流費の高騰分を上乗せした取引価格を形成していくことが求められるが、小売店などからの圧力が強く容易に実現できることではない。卸売市場にとって、産地も小売店も顧客であり、双方の板挟みに会うことになる。また、産地側としても、物流効率を高めるために、有力市場を絞り込み、一度に大量に運び込みたいと考える。したがって、力のない市場は、有力市場から荷を引いてくることになるが、市場間転送にかかる物流費はさらに嵩むことになる。したがって、卸売市場が生き残るためには、集荷力の強化が必須条件になる。

過疎化・高齢化が全国的に進む中で、いわゆる買物難民は今後急増することが予想される。その対応策として、食料品を対象とした宅配事業のニーズは今後も拡大することは間違いない。コンビニ各社が先行着手していることに加え、JAグループもAコープ事業で同様の事業を開始している。加えて、過疎化・高齢化問題を抱える市町村も、買い物難民対策には積極的な姿勢を示している。この取組における共通課題は、一定エリアでの顧客数及び売上の確保である。顧客が少なく居住地が分散していたり、注文する品目・量・金額が不安定だったりすると、物流費・人件費を賄うことは出来ない。民間企業が実動を担い、行政が顧客の組織化・PRなどの支援を行うという二人三脚の取組が必要であろう。

金次郎野菜プロジェクトでは、神奈川県西部地区約30件の生産者からの集荷を行うために、朝8時に出発し、14か所のデポ(多くは主要農家の庭先)でピックアップし、12時頃横浜の店舗に配送する仕組みをとっている。物流コストを賄い利益を上げるためには、集荷力・販売力を共に強化し、1回の取引量を拡大させる必要がある。「物流を征したものが流通を征する」とはよく聞く言葉だ。いまだ小さな取組ではあるが、流通研究所もまた、実践論を通して、最適なロジスティックスの構築に向けて研究を重ねていきたいと考える。