第241回 | 2015.06.15

激変する物流業界と青果物流通 ~ 東洋経済の特集「物流大激突」より ~

週刊東洋経済の6月6日号で、「物流大激突」という特集記事が組まれていた。激変する物流業界の現状や今後の方向性などにつき、40ページもの紙面を割いて、細かなレポートを重ね分析を加えた力作であり、非常に参考になった。ネット通販・小売店・メーカー各社が、競争力強化の鍵を握る物流への投資を加速しており、大型物流センターの建設ラッシュに加え、企業間の新たなアライアンスが進展しているという内容だ。

物流業界では今、巨大物流センターが空前の建設ラッシュであり、首都圏・関西圏を中心に10万㎡以上の巨大施設の開発が着々と進んでいる。私も昨年、大和ハウスが建設した横浜大黒の物流センターを視察させて頂いたが、そのスケールの大きさに度肝を抜かれた。6階建ての鉄筋コンクリートの建物は、両側にランプウエイと呼ばれるらせん状の進入路が設けられ、大型トラックが直接各階に乗り入れ出来る構造になっている。各階は、見渡す限りの倉庫スペースになっており、マルチテナント方式により多様な企業へ賃貸するのだと言う。いったい誰がこんな広大な場所を借りるのだろうと思った。

93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E62418D86_8ECA905E

一方、私の地元の小田原市でも、通販会社のアマゾンが、「小田原フルフィルメントセンター」という国内最大規模の物流センターを建設した。その巨大施設を見る度に、世の中が変わってしまったような感覚に陥りため息が出る。ちなみにこのセンター建設による地域雇用効果は絶大で、地域の経済を大きく押し上げた。

ではなぜ、こうした巨大物流施設が相次いで建設されているのか。最大の理由はインターネット通販市場の拡大である。ネット通販が急速に普及する中で、アマゾンやヤフー、アスクルなどの企業を中心に、その在庫管理や商品発送のための物流センターの需要が高まっている。これに、ユニクロ、ニトリ、ヨドバシカメラ、セブン&アイホールディングなど、多様な小売業態がネット通販を強化する動きがあり、物流センター需要の拡大に拍車を掛けている。消費者の満足度を高めるための「即日配送」の実現に向けた最適な物流システムの核として、巨大物流センターが必要になるという。

加えて、消費者までの「ラストワンマイル」をめぐる宅急便の争いも加速している。宅急便業界は、佐川急便とヤマト運輸が2強で、日本郵便がこれに続く。佐川急便はローソンとの提携を強化しており、ローソンの店舗で消費者が商品を受け取る仕組みをつくっている。一方ヤマト運輸は、医療機器の洗浄や家電の修理をはじめ、流通の付加価値を高める取組を開始している。また、セブン-イレブンもローソンも、店舗を拠点とした宅配サービスや御用聞きサービスを強化する方針を打ち出している。拡大する宅配市場の中で、いかに消費者ニーズを捉えるサービスを提供できるかがポイントとなる。

一方、コニカミノルタ、NEC、ソニーなど、物流を担う子会社を設立して自社物流体制をとってきたメーカーは、物流の効率化をめざしてDHLグループや日本通運などへの物流子会社の売却が相次いでいる。さらに、店頭では熾烈なシェア争いを繰り広げているアサヒビール、キリンビール、サッポロビールのビール3社は、この6月から都内で共同配送システムを組む。食品企業の売上に対する物流コスト比率は、要冷蔵品で9%弱、常温品でも6%と高く、物流コストの低減が経営上の重点課題となっていることから、今後も共同配送やモーダルシフト(トラック輸送から船舶輸送など輸送手段の多様化)の取組は加速するものと考えられる。

このように、ネット通販市場の拡大を背景にした業界横断的な物流改革が始まっており、その象徴が巨大物流センターであると言える。物流を制する者が、業界を制する。業界の垣根を超えて多くの大名達が、巨大物流センターという城を築き、消費者までの血管の様に張り巡らせた道を普請する。新物流時代という名の戦後時代が始まろうとしているようだ。

さて、そんな状況の中で、青果物の流通はどうなるのか。青果物においてもネット通販は拡大しつつある。しかしその主力は、楽天が行うように、生産者がネット上に店を出し、消費者の注文に応じて生産者が、指定された運用会社を通して消費者に発送するというショッピングモール型である。このケースは、注文から受け取りまでに数日を要することになり、「即日配送」という消費者ニーズには応えきれない。生産者個人でネット販売に取り組む事例も多いが、品揃えが限定されることから売上が伸びない、あるいは代金清算のトラブルが後を絶たないなど課題が多いようだ。
こうした課題を解決するためには、アマゾンのように自ら在庫を保有し自ら販売・配送する直販型のシステムをつくる以外にない。既にアマゾンは、米などの保存性が高い農産物については取り扱っているし、米国では野菜を直販型で販売する事業も行っている。今後、保存性が高いリンゴやみかん、あるいはいも類やトマトなどの品目については、日本でも直販型で即日配送するようなビジネスが開始されるかもしれない。その一方で、鮮度が重視される果実や野菜などは、相当の技術革新がない限り、難しいのではないかと考える。

青果物の流通は、相変わらず市場流通が主力であり、巨大物流センターにあたるものが卸売市場であると言える。しかし、卸売市場は、原則として保管機能を持たないし、拡大するネット通販市場に対応できる機能もない。50年も変わらない古典的な物流センターと言える。また、卸売業者・仲卸業者・売買参加者など多数の関係者の共同体であり、利害が絡み合っていることから、大手企業のような迅速な経営判断は困難であるし、共同作業ゆえに非効率な面が多い。

卸売市場の多くが、入荷、荷捌き、加工、出荷などの作業動線が入り乱れており、作業効率をさらに悪化させているだけでなく、作業上の危険性も高い。卸売市場は単なる物流センターでなく、価格形成機能や需給調整機能など、様々な役割を持つため、一概には言えないが、最新の物流システムを研究し、可能なものから卸売市場に導入していくという姿勢は必要であろう。

一方、農産物直売所は、ネット通販の対局をなす購買形態であるし、オイシックスや生協各社が行う宅配形態は即日配送は不可能であるが、双方とも売上が伸びている。青果物については、物流戦国時代の蚊帳の外と考えてもよいのであろうか。青果物は工業製品ではないため、アマゾンのような直販型の物流にはそぐわないと考える。しかし、畑でとれた野菜をネットで注文し、高鮮度で即日配送するような時代がやがて到来するのかもしれない。