第33回 | 2011.01.17

激動する日本農業!平成23年のキーワード② ~「流通構造の地殻変動」~

前回に続き、平成23年度の日本農業のキーワードを特集として解説してみたい。今農業は、生産から消費まで、あらゆる流通段階で地殻変動が起きており、21世紀型産業への躍進に向けた大きな構造改革が進みつつある。つまり「流通構造の地殻変動」、この言葉が平成23年度の共通の大きなキーワードとなる。今回は、この地殻変動の概要を整理していきたい。

以下は、主として青果物の簡単な流通経路を表したものである。これまでの地域の農産物は、主として地域のJAが集荷し、産地市場から消費地市場(消費地市場は卸売業者・仲卸売業者によって構成)を経由し、小売店などに流れ消費者のもとに届けられていた。これがいわゆる「市場流通」または「系統流通」と言われるものであり、20年前までは農産物の9割以上がこの経路によって流通されてきた。しかし近年では、農産物の価格形成機能、需給調整機能、情報受発信機能、物流機能を担う、日本が生んだ芸術的な流通システムと言われてきた、この流通形態も7割程度にまで低下し、生産者と消費者との距離を縮めること、市況に捉われない安定取引を実現すること等、市場流通の課題解決に向けた方策として、直売や直接取引に代表される「市場外流通」が急速に拡大傾向にある。
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「流通構造の地殻変動」は消費者の変化と連動している。核家族化が進む中での「個食化」、本格志向の中での「甘党化」、「ブランド化」現象が見られる。また、長引く景気低迷により、食の「外食化」は伸び悩み、有機志向は定着したとは言い難いものの、若い世代を中心に食の「ファッション化」現象が見られる。なお、低価格志向は依然として続いているものの、農産物の価値を認めようとする消費者が増えてきた。こうした消費者変化を踏まえ、小売店の売場も、飲食店のメニューも様変わりしつつあるし、直売・宅配等消費者自ら価値を判断できる流通形態が進展して来た。しかし、もしTPPに参加するとなると、超低価格志向に消費者は傾くことになる。かつてガット・ウルグアイラウンドで自由貿易品目となった落花生は、国産価格の5分の1の輸入品が流通したことから、あっという間に国産物の流通比率は20%を割り込み、かつて10万トンあった生産量は2万トンまで縮小し、主要産地の千葉県では産地崩壊の危機に瀕している。国産志向は高まりつつあるが、TPPへの参加により国産価格の半値以下の米が販売されれば、消費者の多くは安いものを選択することになるだろう。

大手スーパーは近年バイイングパワーにものを言わせ、売値を決めて産地側に安い仕入値を要求してきた。企業が肥大化する中で、昔ながらの目利きができるバイヤーは減少し、商品価値が分からず価格でしか判断できないバイヤーが増えている。一方、欧米仕込みのマーケティングについては達者なバイヤーが多く、様々な販促活動や売り場作りに精を出すが、そのしわ寄せは産地側が被って来たのが実状である。こうした傾向の中で、今後は「昔の八百屋が復活する」というのが私の持論である。すでに地方スーパーの中には、地域の篤農や卸売業者と連携し、ほんとにおいしいもの・価値あるものを適正価格で仕入れ、対面販売方式を取り入れながら消費者にその価値をしっかりと伝え、適正価格の販売に努めることで、「生産者にも消費者にも支持される店舗づくり」を実現している企業も見られる。大手スーパーのように価格至上主義で農産物を販売する企業は、やがて社会に否定される。なぜならほぼ誰も幸せにしていないからだ。すでに意識ある農業生産法人等は大手スーパーを見限っている。だめなものにはだめと言い切る勇気を持たなければならない。「産地と卸の復権」、期待を込めて、この言葉も農産物流通のキーワードに掲げたい。

外食・中食ではさらに「直接取引」が進むだろう。この取引動向は大手企業ではすでに一巡したと考えられるが、今後は中小チェーンや個店レベルでも活発になると考えられる。消費者の食へのこだわりが強まる中で、「食材を含めた差別化」を実現していかないと、中小・個店も生き残れなくなってきた。地方では「地産地消」がさらに進み、大都市部では有機等こだわり野菜の取引が活発になりつつある。中小・個店レベルでは、一回の取引量が少ないことから生産者との直接取引は困難であるが、この課題に対応するため地方の卸売業者や外食店専門の卸売業者等が仲介の役割を果たす例が増加しており、新たな市場外流通のビジネスモデルが出来つつある。ちなみに卸売市場は今後、さらに大規模な「市場統合」が進むと考えられる。力のない企業は廃業し、大手を中心に系列化が進むだろう。こうした状況の中で、集荷と分荷の両方の役割を担っている地方の卸売業者の共通の経営改善テーマは「地産地消」への積極的な取組である。地方の卸売業者が核になって、地産地消をテーマに「地域の生産者・実需者・消費者をネットワーク化」していく動きが全国で拡大するものと考えられる。

最後に産地動向であるが、「大規模農業生産法人の躍進」と「JAの生き残り戦略」をキーワードに掲げたい。「農家の法人化」はさらに進むし、「企業の農業参入による法人設立」も急増するだろう。これらの大規模生産法人は、単なる農業経営の高度化を目的にしたものではなく、地域の篤農家の組織化と一元的な有利販売を目的としている。また着目すべきなのは、地域の生産者だけではなく、自ら雇用し育成した若手農家を全国の産地に送りこみ、気象条件等を踏まえた「リレー出荷」の実現や、直接取引のリスク回避のための「ポートフォリオ戦略」にもチャレンジしていることだ。生産者を組織化し一元的に販売する、それは本来JAの役割であったが、JAとの決定的な違いは、①組合組織ではなく株式会社であることから、やる気のある生産者のみを組織化している、②系統出荷ではなく、独自の販路開拓による直接取引を実現している、③地域限定の事業展開ではなく、全国に生産・集荷・販売拠点を設けている等である。大規模生産法人が台頭する中、組合員離れが進み地域での求心力が低下しつつあるJAは、今後どのような生き残り戦略をとるべきか。基本方針として、①金融・共済・生活・開発の事業を有機的に連携させ「地域NO.1の存在」を目指すこと、②指導事業を強化し高い技術レベルと高位平準化により「ブランド産地」の形成を目指すこと、③やる気のある農家への支援を厚くする等これまでの「平等主義から脱却」すること、④系統流通への依存体質を改善しリスクを負ってでも「自ら販路開拓に取り組む」こと、⑤農産物直売所を販売事業の一貫と位置づけ「地産地消の主役」となることなどが考えられる。

市場構造が変化する中で、生産者も、JAも、市場も、小売店も、飲食店も、そして消費者も大きく変わりつつあるし、また変わらざるを得ない時代になっている。この流れを的確につかみ対応したものは勝ち組となるし、対応できないものは負け組みになる。生産者始め農業関係者に皆さんは、時代の大きな動きの中で、目の前に見えるものだけを判断材料とするのではなく、川上から川下全体の動きを立体的に分析し、機を逸することなくそれぞれの経営方針を英断していただきたい。