第158回 | 2013.09.02

漁協による加工事業のビジネスモデルを考える ~水産業の6次産業化の展望~

流通研究所は本年度、某漁業協同組合連合会から、水産加工事業の基本計画策定業務を請け負っている。浜値の買い支えや未利用魚・低利用魚の有効活用、あるいは地魚のブランド化などを目的に、漁協による水産加工事業を検討する地域は非常に多いが、ビジネスとして軌道に乗っている事例は極めて少ない。本日は、漁協による水産加工事業のビジネスモデルと推進する上での取組課題などについて述べてみたい。

先ずは、漁協の水産加工事業のビジネスモデルについて、先進的取組を行っている釧路市漁協を例に整理したい。水産加工事業は、用途の側面から業務用、加工用、市販用に大別できる。釧路市漁協では、回転寿司チェーンや飲食店を顧客とした刺身商材として、サンマの切り身・骨抜きなどの加工事業に取り組んでいる。加工用では、びん詰メーカーやレトルトメーカーなどを対象にさけをフィレ、トバ、フレークなど、ドレス、フィーレ段階までの加工を行っている。市販用では、ししゃも、ほっけ、かれい、さんまなどを干物に加工し、漁協ブランドの最終商品まで作り、スーパーや生協、ギフト用途の直販などを行っている。

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業務用は、契約的な取引となることから安定した売上高が期待できる一方で、外食店などのメニュー価格が低下傾向にあることから、刺身用商材などの供給単価が低く薄利の構造になる傾向にある。また、加工は手作業によるところが多く、供給量には限界があり、より多く売ることによるスケールメリットを発揮しにくい。一方、加工用については、加工機械による効率化が可能であるが、最終商品の売れ行き次第で受注量が左右されることになる。市販用は、最も付加価値が高い加工形態であるが、商品開発と販路開拓というマーケティングが重視され、その業務負担は大きい。

これ以外にも、様々な水産加工のビジネスモデルが考えられる。釧路市漁協では、平成24年にスケソなどを原料としたザンギ(釧路発祥の特産品のからあげ)の加工販売事業をスタートさせた。販売先はパルシステム生活協同組合などであり、ころもまで付けた製品で、家庭で揚げてもらうタイプの商品となっている。兵庫県漁連では、規格外のたこを茹でて付加価値をつけ、生協やスーパーなどに販売する事業を行っている。長崎県の野母崎三和漁協では、トビウオやタイなどのひらきを作り、生協や全農、学校給食などに供給している。

いずれの事業においても、1つ目の取組課題として、原料の安定調達があげられる。規格外の小ぶりな魚介類や大漁時に市場ではけきれない魚介類を原料に使うことが事業の大きな目的であるが、実際の加工事業では他産地からの調達や規格品を原料に回すなどして原料の安定調達を行っているのが実状である。特に業務・加工用取引では、原料が確保できないからと言って、加工品の納入量を減らす訳にはいかない。不漁で市況が高騰した時などは、たとえ逆ザヤになっても他産地から原料を買い付け、契約通りの数量を納入しなければならない。こうした課題に対応するためには、原料のストック体制の整備と有利な調達ルートの確保、及び商社など中間事業者の活用による販売リスクの低減などの取組が必要になる。

2つ目の取組課題は、製造ラインの整備である。省力化を図るため、出来る限り効率的な機器を導入したいところであるが、どれだけの事業を見込むかによって導入する機械や施設の規模・機能は異なる。また、機器によっては補助対象とならないものもある中で、性能のよい加工機械は目が飛び出るほど高価である。さらに、刺身商材のように、加工内容によっては手作業に頼らざるをえないものもある。余談になるが、安さを売りにしている回転寿司チェーンなどの寿司ねたの多くは、人件費が安い東南アジアの諸国で加工され、輸入されている。機械・設備の投資に対する資金回収の見込みや人件費に見合う販売単価の確保など、綿密な事業計画が求められる。

3つ目の取組課題は、販売先の確保である。先に述べたような、業務用、加工用、市販用のチャネル分類はもとより、具体的にどこに何をどのように売るかが重要である。ここで大切なのは、身の丈と強みを知るということだ。ニチレイやマルハニチロのような大手企業から漁港単位で集積している中小企業まで、全国に水産加工業者は星の数ほど存在する中で、中小企業の倒産が相次ぐほど、業界の経済環境は厳しい。加工事業にチャレンジすることは、この厳しい業界に新規参入することにほかならない。後発で、技術力・マーケティング力が希薄な漁協などが、まともに競争しても勝てるものではない。

では、漁協の強みは何だろうか。それは地魚という地場原料を持っていること、地場密着の公益的な組織であること、市場を核に地場の流通ネットワークを持っていることの3つである。このように考えると、最も実現性が高い販売戦略として「地産地消戦略」が浮上する。例えば、学校給食や飲食店などへの1次加工品の供給、地場のスーパーや生協での製品販売(もくしくは惣菜用加工品の供給)、直売所や観光施設などでの製品販売などである。また、その際、加工品を売るというだではなく、地域特産品である魚介類のブランドを売るという発想も必要である。魚津漁協の寒ハギ「如月王」のように、ブランド化が進めば、地元での取組を足掛かりに、ネット販売や大都市圏への進出も可能であろう。

一方、釧路市漁協のサンマ、サケのように特定魚種の大産地である場合は、大規模な加工と大手実需者への販売など、異なる戦略も考えられる。しかし、この戦略を考えられる漁協は非常に少ないだろうし、事業のリスクも大きい。

このように、漁協による加工事業では、多様なビジネスモデルが考えられる反面、取組課題も多い。脅威と機会という外部環境、強みと弱みという内部環境を冷静にSWOT分析し、チャレンジすべき事業領域と基本方針を見定めていく必要があろう。