第160回 | 2013.09.18

漁協による加工事業のビジネスモデルを考える② ~富山県の視察研究より~

先日、富山県の魚津漁協とくろべ漁協に水産加工事業の視察研修に伺った。未利用魚の活用と浜値の買い支えなどを目的に、漁協が加工事業等の6次産業化に取り組もうという動きが全国で活発になっているが、その実践の現場を知る機会を得て、大いに勉強になったので紹介したい。

隣接するこの2つの漁協は、全く異なる発想で加工事業に着手した。魚津漁協はスーパーなどへの販売を見据えた本格的な加工事業を目指したが、くろべ漁協は最初から製造直売方式の加工事業を目指した。唯一の共通点は、漁協合併に伴い経営基盤を安定させるため、新たな収益の柱をつくろうとした点にある。

魚津漁協では、当初、漁協が調達した原料を地域の加工メーカーに製造委託し、漁協のブランドで販売する事業に取り組んだ。漁協の信頼感や期待を背景に、CVSなどこれまで地場のメーカーが入り込めなかった販路を対象に営業を強化し、漁協の社会的信用力を背景に売上を順調に拡大させた。

しかし、事業拡大に伴い、製造能力の点で限界が生じた。そこで、自社製造・自社販売を目指し、地域の加工メーカー4社などからの出資により、LLP方式の会社「JF富山フーズネットワーク」を設立し、平成18年から本格稼動した。当漁協の「ほたるいか」という特産品を活用し、沖漬けなどの商品を販売している。当初の販売先は、イオン、ヨーカ堂、及び第2グループと言われる大手スーパーだった。しかし、スーパーは価格競争が厳しく、量は捌けるが利益が薄い。そこで販売先をスーパーから生協へとシフトし、現在は販売先のほとんどが生協になっている。

一方、くろべ漁協は、女性部が長年行っていた手作りの加工事業に着目した。魚の駅「生地」という直売施設を整備し、地魚を一夜干しなどに加工して、この施設で直売するビジネスモデルを選択した。刺し網漁業が主力であり、漁獲量が少なく魚種が多いくろべ漁協は、スーパー向けの加工事業では勝負できないと考えた。

なお、魚の駅「生地」は、大型の直売施設と本格的なレストランを持つ道の駅的な施設であり、漁協が主体的に取り組んだ交流施設として、「萩シーマート」と並ぶ優良事例である。県内だけでなく、長野県など遠方からの固定客も拡大しており、この施設のブランド力を生かし、店舗販売だけでなく、ネットなどによるギフト販売でも成果をあげている。

2つの加工モデルで、着眼すべき点は原料調達である。どちらの加工事業も、地魚の有効活用、浜値の買い支えという目的は変わらない。しかし、魚津方式はスーパー・生協への販売であるため、相応のロットを製造する必要があり、欠品は許されない。したがって、原料は魚津漁協のものだけでは不足し、県内全域はもとより必要に応じて他県からも調達することになる。また、商品特性から、すそものは使わずA級品のみを使用している。平成18年に、生協とほたるいかの加工品の製造契約を結んだが、その年は大変な不漁で地場の原料が不足した。生協では既に、会員向けに「富山産ほたるいか」とうたって広告を打ってしまっており、他産地から原料を調達する訳にはいかず、非常な高値で県内原料を確保するしかなかったという。

一方、くろべ方式では、たくさん獲れた魚種やB級品を主な原料としており、他産地から原料を調達することはない。一夜干しという商品特性もあるが、B級品でも立派な加工品が出来るし、消費者によっては小さなサイズのものを求める人もいる。また、ギフト販売では、「天候に左右されるため、昨年と全く同じものはつくれません」というキャッチフレーズが売りになっている。当然、製造量には限界があるが、原料調達は自己完結でき、容易である。

また、2つのモデルでは、販売のリスクも全く異なる。スーパーへ日配品を販売する場合、スーパーの営業日に併せて工場を稼動させなければならないが、オーダーは前日の夜や当日の朝というケースが多く、これに合わせ製造・出荷体制を組まなければならない。土日、平日の数量変動が激しく、製造体制の整備は大変苦労することになる。また、品質管理への要請も強く、薄利多売の中で、これがさらなるコスト増を招くことになる。

共同購買方式をとる生協との取引は、ある程度利幅はとれる。また、スーパーは今年取引があっても来年も取引してもらえるという担保はないが、生協は大きなトラブルが発生しない限り、毎年取引をしてもらえる保証がある。しかし、会員からの注文をとる関係で、数ヶ月先の販売を見越して製造を計画する必要があることから、先に述べたような原料調達リスクが発生する。

店舗での直売では、上記のようなリスクがないかわりに、大きな売上は期待できない。このように、水産加工事業のポイントは、どこに販売先を求めていくのかにあると言える。漁協の信用力は強く、ライバルとの競争にも勝てるだけの企業力があり、全国チェーンのCVSや有名百貨店とも対等に渡り合える。そこで、大量取引が可能なスーパーに目が向きがちだが、大手スーパーでは競争も激しく、価格等の要請に応えていけるだけのメーカーしか生き残れない。安定的に取引ができ、価格競争に巻き込まれないような販売先を確保することが重要であると言えよう。