第43回 | 2011.04.11

深刻化する風評被害と今後の対策 ~一刻も早い解消をめざせ!~

東京電力福島第1原子力発電所の放射性物質漏洩事故で、国の暫定基準値を下回る放射能濃度であっても、産地が原発に近いという理由で農産物が売れないという風評被害が拡大している。多くの農家が苦しんでおり、この状況が続くと、東北・北関東の多くの産地が崩壊の危機に瀕する可能性もある。一刻も早い解消を目指したいが、原子力発電所の復旧までは時間がかかることが予想され、風評被害も長引く可能性もある。

先ずはこれまで出荷停止、解除された農産物を整理しておきたい。暫定基準値を超える放射性物質が検出されたほうれんそうなどが4県で出荷停止となっている。政府はその後の検査で、3回連続で基準値を下回れば出荷停止を解除する方針としており、4月8日には福島県の原乳(一部地域)及び群馬県のほうれんそうとかきなが解除された。

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原発事故発生以来、出荷停止を受けている品目や産地は限定されるものの、東北・北関東全体が放射能に汚染されている。あるいは、その産地の農産物は全て危険であるといった先入観から、消費者の買い控えや小売店・飲食店などでの取扱がストップする事態が相次いだ。これに対し、産地や流通業者の間に、様々な活動が広がっている。

4月1日には、福島県やJA福島中央会、JA全農福島などの農業団体、流通販売業者、消費者団体による、「がんばろうふくしま!」と題した県産農産物の消費拡大を目指す運動を、県内スーパー7社、11店舗で始めた。福島第1原発の事故の影響で同県産の葉物野菜などが出荷・摂取制限を余儀なくされたことに加え大きな風評被害も受けているため、検査で安全性が確認されていることをアピールし、野菜や鶏卵などを販売している。

JAグループは4月7日、東京・大手町で東北や関東地方から届けられた野菜の直売会を開いた。福島や茨城、群馬、栃木など6県のキュウリ、レタス、ピーマン、トマト、カブ、ホウレンソウや、これらの野菜を使った弁当の販売イベントを開催した。4月14日にも、大手町のJAビル4階「農業・農村ギャラリー」で午前11時~午後1時半まで開催予定しており、両日の売り上げは、被災地への義援金に活用する予定である。

風評被害に苦しむ農家の支援に日本経団連も乗り出した。福島、茨城両県産で出荷制限がかかっていない野菜の買い取りを会員企業に要請したのである。両県や農業団体と調整してキャベツやキュウリなどの大量仕入れルートを確保し、社食の食材にしたり、社員向け直売会を開いたりするよう促した。安全性のアピールに会員企業をあげて取り組んで行こうという趣旨である。

そしてイトーヨーカ堂、イオン、東急ストアなどの大手スーパーも立ちあがった。それぞれやり方は異なるが、概ね東北地方の農産物を100品目以上集めて物産展を開き、安全性とおいしさをPRしようとする取組である。割安であるとともに、復興支援につながるという消費者意識に支えられて好評であるという。単発のイベントではなく、東日本の全店舗で取り組んでいること、継続的に取り組む方針であることから、小売業界全体への波及効果が期待できる。

このように、多様な団体・企業が支援に取り組み出したことを、私は非常に嬉しく、頼もしく思う。特に大手スーパーの取組については高く評価する。風評被害は、最終的には消費者心理によるところが大きい。消費者との直接的なコンタクトポイントを持つスーパーが、消費者への啓発、消費喚起に乗り出すことによって、単なる不安の払拭に留まらず、産地支援へと消費者心理を大きく変えることができる。大きな声では言えないが、震災特需により、この度の計画停電の中でも首都圏の多くのスーパーが売上を伸ばしている。この大手スーパーの動向が、単なる安売りや在庫処分に留まることなく、企業理念を掛けた運動に広がるよう期待したい。このような取組がフードチェーン全体で拡大するなら、風評被害の早期解消も夢ではないと考える。

一方で、消費者を安心させ、風評被害を防ぐためには、監視を強化して、安全なものしか流通させない体制を確立することも必要である。農林水産省は、水田土壌中の放射性セシウム濃度が1kg当り5,000ベクレルを超える場合、稲の作付制限をかけると発表した。今後は、汚染の実態をさらに解明するとともに、畑地などを含め納得できる基準の策定を急いで欲しい。水産分野では、回遊する魚を漁獲水域ごとに区分するのは困難が予想されるが、今後は放射性物質の観測地点を増やし、幅広い魚種で検査を徹底すべきであろう。ひと度、流通した農水産物から放射能汚染が出れば、現在全国に広がっている善意の活動が無駄になってしまう。

放射性物質を完全に封じ込めるには、長い時間がかかることを覚悟しなければならないだろう。しかし、農地と食卓はつながっており、食の世界では農家も消費者も運命共同体であることを、我々国民は改めて認識したい。大震災の一刻も早い復興と、風評被害の解消に向けて、フードチェーンを形成する団体・企業・消費者、そして行政が、誠心誠意できることに取組むことで、大きな国民運動へと発展させていきたい。