第173回 | 2014.01.20

消費者ニーズをつかめ! ~KABS実践報告より~

今年も日本農業新聞では、野菜・果実の売れ筋ランキングを発表している。このランキングは、流通事業者などへの調査により、2014年に売れることが期待される品目・品種を、期待度を基準に順位をつけたものだ。消費者志向や流通事業者の取扱方針を把握する上で、生産者・産地は参考にすべき指標であると考える。

野菜部門では、1位が高糖度トマト、2位がスナップエンドウ、3位がブロッコリーで、以下ズッキーニ、ミニトマト、べにはるか、アスパラガス、安納芋、パプリカ、中玉トマト、ベビーリーフと続く。「べにはるか」、「安納芋」といういも系が順位を落としたほかは、作年と大きく順位が変化したものは見られなかった。相変わらずトマト類が不動の地位を占めていることに加え、サラダ商材が軒並み上位にランキングされていることが特徴と言える。コンビニエンスストアやスーパーでも、サラダのパック商材が実によく売れており、サラダへの消費者ニーズは非常に高いようだ。

私は毎週横浜市内にある直売所の店頭に立ってKABSの販促活動を行っているが、サラダ商材を求める消費者ニーズの高さを肌で感じる。KABSのヒット商品の一つとして、若手農家が夏場は御殿場の、冬場は小田原の清流を活かして生産しているクレソンがあげられる。クレソンと言うと、料理の付け合わせで、苦いものというイメージがあるが、この農家がつくるクレソンは甘みがあることに加え、香りがよく鮮度は抜群である。そこで「サラダクレソン」と命名して、発砲スチロールに氷を入れて投げ込み販売をしたところ、非常に好評で多くのリピーターがつくようになった。また、野菜ソムリエさんの協力のもと、かぶや赤大根なども、オリーブオイルと黒コショウをまぶしてサラダにして試食を出すと、飛ぶように売れる。消費者からは、「サラダにするにはどの野菜を選んだらよいか」などの質問をよく受ける。

簡便志向はさらに高まり、調理に手間がかかる野菜は敬遠される傾向にあるように思う。反面、サラダなら調理は極めて簡単で、食材とドレッシングの組み合わせにより、バラエティに富んだサラダができるし、色合いが美しく新鮮な野菜類により、家庭の食卓に豊かな彩りを添えることができる。当然健康や美容にもよいメニューだ。野菜をあまり食べないと言われる若者層や、若いファミリー層でも、サラダが嫌いな者は少なく、日々の生活の中で不可欠なメニューになっているものと考える。KABSの売場がある横浜市など、都市部ほどその傾向が強いように思う。したがって直売を行っている生産者は、サラダ用野菜などへチャレンジすると共に、簡単なレシピを添えるなど食べ方提案を行うことをお薦めする。

果実部門では、「シャインマスカット」(ぶどう)がぶっちぎりの1位、2位は「ナガノスイート」(りんご)、3位は「ナガノパープル」(ぶどう)で、以下、「紅まどんな」(柑橘)、「あきづき」(梨)、「甘平」(中晩かん)、「ゆら早生」(みかん)、「青島温州」(みかん)、「せとか」(中晩かん)、アボカド、完熟キンカンと続く。「甘平」が昨年の22位からトップテンに躍進するなど、果実部門は、新品種の登場などにより順位が毎年目まぐるしく変わる傾向にある。その中で、種なしで皮ごと食べられる「シャインマスカット」、「ナガノパープル」が相変わらず強さを発揮していること、柑橘系が軒並み上位にランクされるようになったことなどが特徴と言えよう。

KABSでもみかんは、安定した売れ筋商品になっている。価格が手頃で、保存性が高く、甘くてビタミンたっぷりのみかんは、横浜の消費者にも喜ばれている。みかんの食べ比べの試食会などを店舗で行うと、実によく売れる。店頭価格で200円(500g)、380円(500g)、480円(700g)で販売しているが、見た目より味覚を重視する消費者が多く、多少傷があっても200円の価格の商品は目玉商品となっている。一方、甘みと酸味などの微妙な味覚の差を吟味し、商品を選択される方も多い。

神奈川県の小田原は、昔からみかんの産地であるが、海沿いなど急傾斜地のみかん園の荒廃化が進む一方で、若手を中心に担い手農家も育っている。KABSのメンバーにも、4名のみかん農家がおり、「宮川早生」や「石地」、「大津」、「青島」などの品種を中心に出荷している。その昔、小田原では山を切り開き、猫も杓子もみかんを栽培した。その後市況が低迷し、条件が不利な農地での耕作放棄と離農が進み、現在は需要と供給が釣り合ってきたようだ。生き残った農家、若手農家にはチャンスが到来している品目と言えよう。

もう一つのKABSの果実の売れ筋商品として、キウイフルーツがあげられる。ちなみに、日本農業新聞での売れ筋ランキングは「ゼスプリゴールド」が12位、「レインボーレッド」が28位、「ヘイワード」が67位だ。KABSのメンバーは「ヘイワード」が中心であるが、いずれも生産者側で追熟しており、買ってすぐにおいしい状態で食べられることが特徴だ。スーパーで販売されているキウイフルーツの多くは、家庭に持ち帰って熟させてから食べることになる。熟していないキウイフルーツを食べて、顔をしかめた経験を持つ消費者は多いだろう。試食させると、「キウイフルーツとはこんなにおいしいものなの」と感動される消費者が多い。果実は、食べさせることが最も効果的な販売促進策であると言えよう。

KABSが売場を持つ、ファームドゥあざみ野ガーデンズ店の顧客は、上流階級の方ばかりだ。その証拠に、駐車場に止まっている自動車は、ほとんどが3ナンバーか外車である。価格と商品価値のバランスを重視される方が多く、商品の価値をしっかり認めて購入される顧客が多い。この店舗で、消費者ニーズというものを毎週肌で感じ、その対応策を日々考え可能な限り実践に移している。また、肌で感じた情報を生産者に伝えていくことが、生産者の支援・育成につながると考えている。

冬は鍋もの商材が売れ、1月7日は七草セットが売れる。どの季節、どんな歳時に何が売れるのかということについては、スーパーが研究しつくしており、膨大なマニュアルが作成されている。しかし、農産物は工業製品ではないことから、こうした消費者ニーズに的確に対応した経営を行うことは、ほとんど不可能である。消費者ニーズは研究しつつ、強みを活かせる農業経営、効率的な農業経営を確立することが求められる。マーケットインとプロダクトアウトの中間を狙うことが、農業経営の醍醐味であると言えよう。