第163回 | 2013.10.07

消費者に農産物の価値を伝える難しさ ~あざみ野ガーデンズオープン~

去る10月3日、横浜市の「あざみ野ガーデンズ」がオープンし、県内の若手篤農家が自信を持って生産する特選農産物を庭先集荷して、県内消費者に価値に見合った価格で販売するというKABS(かながわアグリビジネスステーション)の新規事業がスタートした。高級住宅街に立つ「あざみ野ガーデンズ」は、農産物や鮮魚、精肉、惣菜などを販売する複合型小売店を核に、複数の飲食店や雑貨店に加え、スポーツ施設などを一体的に整備した商業集積である。

農産物直売エリアのテナントとして入ったのが、日頃懇意にしている直売所チェーンのファームドゥ(株)であり、KABSはその中のいちコーナーを頂いている。計25軒の農家から、米、野菜、果実、しいたけ、卵などを集荷し、ブランドマークである「金次郎野菜」のシールを貼って、販売を開始した。また、素敵な野菜ソムリエさん達と連携し、店頭での試食や商品説明などの販売促進活動にも力を入れている。どの産品も、非常に品質が高く、出荷者の高い技術と農業にかける情熱を詰め込んだ逸品ばかりだ。
93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E61648D8681i8ECA905E82P81j

しかし、適正の原価に加え、庭先集荷の物流費、販売促進費、販売委託手数料が上乗せされることから、小売価格は高級スーパー並みの価格帯になる。セレブ層が消費者の中心であることは間違いないが、価格に見合った価値を理解してもらい、購買に結び付けることは容易ではない。

例えば、「原木しいたけ」である。一般に流通されるしいたけの90%は菌床栽培であるが、原木栽培と菌床栽培の違いを知る消費者は少ない。また、スーパーで売られているしいたけの多くは笠が開いて、うまみである胞子が飛んでしまっており、プリプリ感もない。この原木しいたけをつくる生産者に言わせれば、こうした商品は、しいたけ本来の味覚を持たない規格外品である。私は、この生産者の原木しいたけを最初に食べた時に、非常に感動した。笠がギュッと締まっていて、肉厚で、何とも言えない豊かな味わいがある、驚愕の逸品だった。

こうしたことを、どのように消費者に伝えれば理解してもらえるのかが、この度の事業の重点課題と言える。そこで先ずは、野菜ソムリエさんに、以下のようなPOPを作ってもらい、店頭でPRしている。また、試食を繰り返しながら、消費者に根気よく商品説明をしていくことから始めている。
93F182CCE7DD82AA8Ea82E991E61648D8681i8ECA905E281j

もう一つの特徴的な事例は、「生らっかせい」である。神奈川県の県西地区の農家の多くは自家消費用として、畑の片隅にらっかせいを栽培する習慣がある(秦野などの産地は販売用として栽培)。畑でとってきたらっかっせいをよく洗い、皮をむかずに10~20分程度塩ゆでして、その後に皮をむいて食べる。その味は正に絶品で、子どもの頃から食べていた私などは、農家の究極のおやつ、労働後のビールの最高のつまみとして、収穫の季節を待ち遠しく思ってきた。しかし、都会の消費者は、こんな食べ方は知らない。

メンバーの農家が、「生らっかせい」を出すと聞いたとき小踊りしたし、その品質の高さを見て、売れると確信した。しかし、その味も食べ方も知らない消費者に、この商品の価値を知ってもらうことは非常に難しいことであるを知った。

年度末の3月まで、週3回、野菜ソムリエさんが店頭に立って販売促進活動を行うことを決めている。また、出荷者の篤農家達にも、時間が許す限り店舗に来てもらい販促活動に参加してもらう計画である。さらには、野菜ソムリエさんに、農家を取材してもらい、広報誌を作成して店舗で配布することも予定している。

農産物がスーパーの客寄せパンダ的な存在となり、安くてあたりまえという消費者イメージが定着する中で、消費者に真の価値を伝え、購買行動に結び付けることは至難の業なのかもしれない。しかし、農業専門のコンサルティング会社として、あくまで正義を主張して行きたいと思うし、価値を消費者に伝えることが、この度の事業に着手した最大の目的と言える。

「あざみ野ガーデンズ」は、まだオープンしたばかりだが、売行きは絶好調とは言えない状況にある。焦らず、急がず、地道に取り組み、少しづつ思いをかたちにして行きたいと思う。この取組については、定期的にこのコラムでも報告するので、今後の展開に期待して頂きたい。