第178回 | 2014.02.25

消費動向をマーケティングに活かせ ~総務省家計調査より~

先日、毎年恒例の2013年の家計調査結果が総務省から発表された。発表によれば、一世帯あたり(3.05人)の年間食料支出金額は895,860円で、2012年対比2%増と2年連続で増加した。2013年は農産物が総じて高値傾向で、一部加工品の値上げがあったことから、必ずしも食料品の購買数量が増加しているとは言えないが、2011年までほぼ一貫して消費支出金額が減少していたことを考え合わせると、農業界・食品業界にとっては喜ばしい結果である。

【主な食料品の一世帯あたりの年間支出金額・購買数量】
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*出典:総務省「家計調査」

品目別の動向で、先ず気になるのが米だ。米の一世帯あたりの年間支出金額は28,093円で、2012年対比2.2%減、購入数量は75.2㎏の4.6%減という結果であった。1人あたりに換算すると、約25㎏まで落ち込み、もはやその消費減退傾向に歯止めが掛からない状況にある。一方、米の競合品目であるパンの支出額は27,974円で前年比1.1%減であるが、購入数量は前年比を上回っており、2014年の支出金額は米を逆転することは確実である。瑞穂の国の主食は、欧米同様パンになる。米は日本人の主食ではなくなるという現実は非常にショッキングなものだ。現在進行中のTPP交渉などにおいても、影響を与えるのではないかと懸念する。

肉類の支出金額は、牛肉、豚肉、鶏肉ともに大幅に増加している。支出金額の前年比では、牛肉が7.4%増、豚肉は5.1%増、鶏肉は3.8%増で、日本人の肉食はさらに進んでいると言えよう。業界では牛肉離れが進んでいると言われて来たが、購入数量の増加率を支出金額の増加率が大きく上回っていることでも分かるように、再び高価格帯の商品が売れるようになったものと考えられる。牛肉、豚肉ともに米と肩を並べるほど、大きなマーケットを形成しており、かつ成長品目である。また、米の輸出の伸びは期待できないが、牛肉・豚肉は輸出の戦略品目に位置づけられる。TPP交渉でも、米はあきらめて牛肉・豚肉の関税率維持に力を入れようなどと風聞が立つ根拠とも言える。

生鮮野菜の支出金額は、66,297円で前年比3.1%増、購入数量は1.8%増で、健康志向を背景に拡大基調にあると判断できる。品目別では、堅調なサラダ需要を背景に、レタスの支出金額は前年比11.4%増、購入量で4.5%増となった。また、メディアで機能性が紹介されたれんこんは、それぞれ17.4%増、22.2%増と驚異的な伸びを示したことが注目される。天候不順により高値が続いたにも関わらず消費量が増えていることを踏まえると、日本人にとって生鮮野菜は必要不可欠な食材としての認識が強まっていると言えよう。ちなみに、スーパーやコンビニエンスストアなどで販売されているサラダ商材の支出金額は、3,675円で前年比7.3%増だった。この支出金額は、野菜トップのレタスの約1.3倍であり、中食マーケットがいかに拡大しているかを物語っている。

一方、生鮮果実の支出金額は34,322円で前年比1.5%減、購入数量は2.6%減であった。総じて天候不順で国産果実の高値傾向が続き、円安が進み輸入果実も高値であった。嗜好性が高い果実は、消費者が価格に対して敏感であり、高ければ買わないという購買行動を浮き彫りにした結果だと言えよう。その証拠に、価格・品質が安定していたりんご、みかんは支出金額、購入数量ともに前年を上回る結果を出している。

参考までに、外食産業の動向もコメントしておきたい。外食産業は久しく頭打ちであると言われて来たが、家計調査における外食の支出金額は、野菜の全体の約3倍の165,256円で前年比4.8%増となっている。景気の回復基調にあること、和食が世界遺産として登録されたことなどを背景に、グルメブームが再燃していると考えられる。

農業のマーケティングを考える場合、家計調査は極めて重要な指標である。米離れは決定的、食肉はまだまだ伸長、野菜は健康志向を背景に堅調、果実は価格次第といった方向性を把握することができる。また、サラダ惣菜を中心とした中食、グルメ志向の再燃を背景とした外食ともに拡大傾向にある。こうした消費動向を踏まえ、どの品目に軸足を移し、加工・業務用の契約取引など、どのような販路を開拓していくのか、それぞれの立場で経営のかじ取りに活かして頂きたい。