第39回 | 2011.03.14

海洋深層水あわびに注目!  ~入善漁業協同組合のあくなきチャレンジ~

流研は、農産物だけでなく水産物のコンサルタント業務も数多くこなしている。本日は、応援の意味を込めて、「明日のとやまブランド」に認定された、富山県入善漁業協同組合の「海洋深層水あわび」の取組を紹介したい。私はかつて、入善町の海洋深層水事業の立ち上げを支援した経緯があるが、事業開始から10年近くが経過した昨今、縁あって再び入善漁業協同組合をアドバイザーとして訪れる機会を得た。

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陸上養殖のあわびは全国でも取組事例が極めて少なく、特に深層水を活用した陸上養殖は入善漁協が実質的に全国で初めての取組であったことから、育成技術の研究・習得に10年間を要したと言える。あわびは自然環境の中にあっては、製品として成長するものは極わずかであるのに対し、陸上養殖ではより多くの幼貝を成長させることが求められる。試行錯誤の末、水槽の清掃の徹底など生育方法などの工夫により、昨今ようやく製品率を8割程度まで高める目処がついたところである。これは、誰も知らなかった国内で最初の生育技術であり、これまでの漁協職員の努力の結晶と言える。
今後は、これまでの経験・成果を踏まえ、種苗と購入先の研究、未製品(規格外品)の有効活用などにより、歩留まりと利益率の更なる向上を目指す必要があろう。

高価な食材であるあわびの需要は、高級ホテル・旅館などに限定される。以前は、県内の特定ホテルが漁協で生産されるあわびの多くを買い取り、「踊り焼き」を全ての顧客に提供するなど全面的に協力していた。しかし景気低迷の中、全食への提供が困難になり、新たな販路を開拓することが必要になった。そうした背景の中、平成21年度より新たな職員を雇用し、県内のホテル等に対する積極的な営業活動を展開した結果、20件を超える新規取引先を開拓するに至った。また、富山市内百貨店での販売に加え、生協や郵パック等でのギフト販売など、新たな販路の開拓も進みつつあるところである。これは新職員の功績に加え、これまで漁協が行ってきた地道な営業活動が実を結んだものと言える。
一方、韓国産の8mmのあわびが1個500円で流通する等市況は厳しく、当初7mmのあわび1個を700円の販売価格に設定していたものを、近年500円に単価を引き下げた経緯がある。海洋深層水で陸上養殖したあわびは、安全・安心で肉質は柔らかい。しかし、見た目の差別化は難しく、海洋深層水の利用を付加価値に結び付けるのは難しい。今後は、県内における新規取引先・販売形態の拡充、既存取引先との取引拡大、通販事業へのトライアルなどが必要であろう。

平成22年度は、入善町からの提案・支援を受けて、養殖場のとなりで露天の食のイベントを開催した。あわび・さざえ・かき・ほたての4点セットを、漁協職員がその場で焼いて食べさせるイベントで、マスコミによる宣伝効果もあり、7月から9月までの期間で約4,000食を売り上げ好評であった。また、土日限定であわびご飯を販売したところ、完売であった。一方、漁協職員がその場で焼いて食べさせる方式であったため、顧客を待たせるケースが多かったこと、職員の負担が大きかったこと等が課題であった。また、昼食時に訪れる顧客が多いにも係わらず、ごはん等の常時提供が出来ず、顧客からはランチメニューとしての提供を求める声が上がった。
今後は、平成22年度の課題を解決し、イベント事業の拡充を図ることに加え、将来的な新規事業への発展に向けた道筋を明らかにする必要があろう。

平成23年度から入善漁業協同組合の海洋深層水あわび事業は、比較的発展に向けた新たなステージを迎えることになる。過去10年間、職員たちが歯を食いしばって頑張ってきた努力が、ようやくかたちになる。今回のアドバイスの内容は、企業秘密なのでこのコラムでは割愛させて頂く。しかし総括すると、これまで職員たちがやってきたこと、これからやろうとしていることを整理しただけだ。それは、アドバイスに入る前から、職員たちは既に答えを持っていたからである。10年間の蓄積はかけがえのない財産になっている。是非とも自信を持って信じる道を力強く邁進して欲しい。必ず未来への扉は開けるはずだ。
私も全面的に応援していきたい。読者の皆さんも、是非一度購入して頂ければ幸いであるし、有力な取引先などの情報があれば、寄せて頂きたい。