第300回 | 2016.10.17

流通研究所のこれまでとこれから③
~二の釼終了の挨拶に代えて~

私はこれまで、流通研究所の経営上の目標年度を2020年のオリンピックイヤーとし、売上目標を3億円に、従業員数の目標は30名に設定してきた。しかし近年、流通研究所の成長速度は加速しており、オリンピックイヤーを待たずして、これらの数値目標は達成される見通しであり、代表就任当初から描いてきた会社像に近づきつつある。

併せて、自分の身の振り方についても考えてきた。持続的に会社を発展させるためには、円滑な事業継承を行い、次世代のリーダーにしっかりバトンを渡すことが重要であると考えている。社長は一生社長でいられるだろうと思う人が多いようだが、私は社長には寿命があると考えている。他社の社長の姿やリーダーと呼ばれる人の言動を見るにつけ、賞味期限が過ぎた人物はその地位から潔く去るべきだと確信している。

高齢化に伴い、人は体力・知力ともに衰え、自分の成功体験に基づく過去のやり方にこだわり、時代の流れを読み切れず、新しい発想やチャレンジ精神が希薄になる。また、年々上から目線になり、自分が一番正しいという幻想を抱き、一方的に自己主張するばかりで人の話を聞かなくなる。もちろん、個人差はあるものの、これは長い歴史が証明するところでもある。そうした人間が社長の地位に固執することは、会社のためにも社会のためにもならない。高齢化に伴い自分で気付かないうちに、結果として会社を私物化してしまっているような最悪の社長も多く見受けられる。

こうした考えから、私は自ら社長としての寿命を定めることとし、その寿命をオリンピックイヤーまでのあと4年半と設定している。私自体まだまだ壮年であり、気力・体力・知力共に負けないと自負しているが、社長兼コンサルタントという今のスタイルをとり続けることに、近い将来限界が生じることは明らかである。流通研究所のスタッフは皆優秀で、後を任せられる人材も急成長している。流通研究所の経営は、どこまで行っても課題は尽きず、まだまだ私自信が解決すべきことは山積しているものの、事業継承に向けた基本的な道筋はついたものと確信している。

では、残る4年余りで、私が何をやりたいのかと言えば、人材の確保・育成、マーケット創造、財務の健全化の3本柱に尽きる。そして、この3本柱を着実に実行していくことが、流通研究所のこれからめざす将来像となる。とてつもないビジョンを描く経営者も多いが、ビジョンは単なる夢物語ではなく、達成して当然の目標であり、経営者と従業員、会社と社会の約束事だと考えている。私は、これまで流通研究所が歩んできた道は、間違いないものであると確信している。この道の延長上で発展していくことが、流通研究所が中期的にめざす姿だと考える。

先ずは、流通研究所の人材の確保・育成である。近年のリクルート環境は厳しく、今年度も新入社員の募集をかけるが、どれだけの人材を確保できるか不透明な状況にある。コンサルタントは誰にでも出来る仕事ではなく、相応の学力・経験・資質に加え、仕事に対する情熱、高い上昇志向、強い精神力、激務に耐えうる体力などが求められる。これまでのように、こうした人材に巡り合えるかどうかは神頼みの部分が大きい。

コンサルタントは、どんなに優秀な人間でも、一人前になるために最低3年はかかる。人材育成のために、流通研究所もいくつかの研修制度を用意しているが、そんなものだけでは人は育たない。どちらかと言えば職人に近い世界で、先輩の技を盗み、絶えず自ら学び、工夫を重ね、小さな成功と大きな失敗を繰り返しがなら成長するものである。私は、若手達のそうした自助努力を、精神的、技術的な面から支え、成長を促すことに全力を尽くしていきたいと思う。

また、次世代の経営者の育成にも注力する必要がある。既にその資質がある人材は育っているが、今後は、さらに思い切った権限移譲により、それぞれのポジションを与えると共に、折に触れて私が学んだ経営学を伝えていきたい。その一方で、次世代のリーダー達には、私を反面教師として、私とは異なる視点・発想の会社経営を期待している。流通研究所の経営理念や行動規範は揺らぐことはない。その上で、新しい時代にふさわしい、斬新で活力ある経営をめざして欲しい。従業員も経営者も、会社の経営理念に掲げているように「時代に挑戦し続ける」人材に育ってもらいたい。

マーケット創造では、農業・水産業に特化したコンサルティングという基本方針は変えることなく、時代を先取りした仕事を創っていきたいと考える。近年の流通研究所の業務内容を分析すると、いわゆる農業振興計画の策定といったオーソドックスなものから、道の駅など拠点施設の開設、地域商社設立、卸売市場改革、首都圏での販路開拓、流通システム構築、水産物輸出など、さらに専門性が問われる仕事へと移行しつつある。こうした地域の要請に応えてきたことが流通研究所のこれまでの成長要因であり、これからも流通研究所でしかできない領域を確立していきたい。

また、社会環境の変化に伴い、求められる政策が目まぐるしく変化する中で、地域の現状・課題を正確に捉えて企画提案し、誠実でスピード感がある業務を遂行し、確実な成果を出していくという会社のスタイルを継続・強化していきたい。そして、沖縄支所での業務強化を含め、全国展開を基本に、農業・水産業専門のコンサルタント集団として、「流研ブランド」を不動のものにしていきたい。

KABS事業については、来年度を第2ステージの初年度と位置づけ、2つの取組を柱に躍進をめざしたい。一つ目の柱は、自社直営店舗の開設である。これまで高級スーパーや百貨店でのインショップ形式での店舗展開であったが、所詮場所借りであることから、販売事業を主導する上での足かせが多かった。自ら店舗を開設し自主運営すれば、販売額は倍増することに加え、様々な仕掛けが可能になる。直営店舗を開設することで、先ずは何より、農家所得の向上と農家・産品のブランド化を実現し、これまで一緒に取り組んできた県内若手農家の期待にしっかり応えたいと考えている。

また、自社直営店舗は、全国の産地のアンテナショップという役割を担って行きたい。これまで流通研究所は、全国数百か所の産地の支援業務に入り、その場所その場所で、絶品と思えるような多くの産品に出会ってきた。流通研究所が価値を認める農産物を、買い取ってPR販売すると共に、産地の販売代理店として外販まで手掛けていきたい。かつて、二宮尊徳先生は、郷土を離れ、栃木県をはじめ様々な地域で農村再生に取り組んだ。流通研究所も、これまで支援に入った地域の逸品を、販売やブランディングの面で、商業ベースで支援する仕組みをつくりたい。

財務の健全化については、理想に近いところまで来ている。これからも適正利益を確実に確保し、その利益を従業員に還元することに加え、計画的な投資に充てるという判断が求められる。経営者にとって、投資することは、非常に勇気が求められる。流通研究所の最大の投資は、スタッフの増員である。一人雇えばそれだけ人件費が拡大するが、人への投資なくして企業の発展はない。今後も、毎年最低1名は増員という考え方で人に投資し続けていきたい。そうなると、現在の自社ビルもたちまち手狭になることから、事務所増設などへの設備投資も必要となろう。また、KABS直営店の開設は、喫緊の取組課題として大きな投資案件になると覚悟を決めている。

以上の3本柱を通して、私が真に願うのは、スタッフとその家族の幸福である。流通研究所で自らを磨き高め、仕事の面白さを享受しつつ、コンサルタントとして社会に貢献していく人材へと成長していく。やったらやっただけ、収入も上がり、世間並以上の所得を安定的に確保できる。そして、やがては次の世代の経営者へと育っていく。流通研究所に勤めてよかったと、全てのスタッフとその家族に思ってもらえるような会社。誇りある仕事を通して、自分も家族も生きていくことの喜びを感じられる会社。それが、私が求め続けている流通研究所の姿である。

今後、また、かたちを変えて情報発信することもあるだろうが、これで、二の釼をひとまず終了にしたい。これまでお付き合い頂いた全国の読者の皆さんには、心から感謝したい。そして、私の300回に渡るコラムが、少しでも地域振興の役に立てば幸いである。ちなみに、このコラムは今回を持って終了するが、我が流通研究所は永遠に不滅である。(完)