第71回 | 2011.11.07

流通業者の社会的使命を問う! ~TV番組の特集から~

貧乏暇なしの毎日だが、私もたまにはテレビの特集番組を見る。10月31日に放映されたNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられた、食品スーパー経営者の福島徹氏の特集には大変感動させられた。本日はこの特集番組の内容を中心に、流通業者の社会的使命について考えてみたい。

福島氏が東京羽村市を中心に4店舗を展開する食品スーパー「FUKUSHIMAYA」は、消費者にも生産者にもメリットにつながる商品という視点で吟味を重ね、全国の提携する生産者から商品を調達している。広告宣伝は一切行わず、そこで浮いたコストを生産者にも消費者にも還元することを心がけている。その結果、この店で売られている商品は、オンリーワンのものばかりだ。大手スーパーの多くが選択してきた大量ロット・低価格販売と真逆の路線を歩む。しかし顧客からの信頼は厚く、一貫して増収増益である。

福島氏は目利きのプロであり、食品業界の「トレジャー・ハンター」と言われている。良いものは、見た目ではなく「匂い」で分かるそうだ。良いものは良い匂いがする。それが目利きの究極の極意ということだそうだ。また、地場密着で展開している利点を生かし、近隣の主婦たちを「MPS」として組織化して、定例的に試食会を開催し、商品に対する意見を収集している。最終的な消費者達が、どのように商品を評価するのか、消費者目線のマーケティングも欠かさない。「良いものは良い、悪いものは悪い」と判断することが、流通業界のプロフェッショナルとしての存在意義があるという。

商品を選ぶ場合、品質・価格・安全性に加え、福島氏が大切にしているもう一つの要素があると言う。それは生産者の「ものづくりへの思い」である。生産者がどのような思いで生産に打ち込んでいるのか、その情熱とこだわりが商品そのものに反映されるし、その思いを消費者に正しく伝えれば、必ずものは売れるという。

福島氏は、起業して間もない30歳代の頃、市況が暴落したほうれんそうを生産者からただ同然で買い付け、特売で売りまくったことがある。ほうれんそうは飛ぶように売れたが、ある時その生産者が売場に現れ、「うまく儲けたな」と寂しげにつぶやいたそうだ。その時福島氏は、「自分は一体何のためにこの仕事しているのか」と気付き、本当の仕事とは何かを自問自答しながら現在の業態に転換してきた経緯がある。その答えは「大きく儲からなくてもいい。生産者と消費者をつなぐ仕事をして行こう」ということだった。

福島原発事故以降、風評被害が蔓延した。どれだけ安全性を証明しても、やはり消費者は福島県産農産物には否定的だ。各小売店ともに応援フェアなどを打って、買い支えしてきた時期があるが、この夏以降、福島県産農産物の価格は下落傾向にある。このような環境の中、新米が出荷される。福島県の一部の産地から放射能が検出さえ、福島県産の米への信頼感はさらに揺らいだ。しかし、最悪の環境の中でも、歯をくいしばり必死に米づくりに取り組んで来た篤農家達がいる。

福島氏は、会津の篤農家を訪れ、米の品質・米づくりに対する思いを見極め、買付を決めた。自主検査を含め、3重のチェックのもと、篤農家の思いを込めた売場づくりを進め、福島県産の新米フェアを開催した。結果は大成功で予想を上回る売上だった。福島氏が自ら店頭に立ち、生産者の思いを伝えきったことも成功要因の一つであるが、福島氏の長年の取組が店舗のブランドとなり、「FUKUSHIMAYA」が推す商品なら絶対大丈夫という消費者の信頼が大きい。

東北以外から米を仕入れることはたやすい。しかしそれは、流通業者が風評被害を広げることになる。必死で頑張っている生産者を流通業界が殺すことになる。この現実から目をそむけたら、流通業者としての使命は果たせない。仕事の要は、良いものは良いと言い切ることであると福島氏のコメントは続く。

先に放映された「ガイヤの夜明け」では、「外食のコメの裏側」という特集が組まれていた。福島県産の新米については約7割の外食チェーンが取引に否定的というアンケート調査が出される一方で、一部の外食チェーンと生産者が、タッグを組んで安全性を証明しようとする挑戦がドキュメントされていた。フード・アクション・ニッポンの受賞歴を持つ「おむすび権兵衛」は全国12の米の生産グループと直接取引しているが、福島県の旧岩瀬村のグループの新米を今年も取り扱っている。番組の中で岩井社長は「外食店としてやってはいけないことは、風評被害で取引を拒否することだ」とコメントしていた。

大震災と放射能問題を契機に、流通業界全体が、もう一度、自らの使命を考え行動する時を迎えている。反面、TPPへの参加が決まれば、店頭に並ぶ食はドラスチックに安くなるだろう。それが国民のメリットであると考える流通業者・消費者は、日本人としてあまりに情けない。残念ながら、このような状況下にあっても、どれだけ生産者から絞りあげ、マージンを確保するかに奔走する流通業者も多いようだ。福島氏や岩井氏のような方々を力強く応援し、後に続く人材・企業を育成することが、国民全員の義務だと思う。反面、だめな流通業者に対しては、国民が審判を下すような社会でありたい。

流通業界が絶対やってはいけないこと、絶対やるべきこと。そして流通業者は何のために存在するのかについて、番組を通して深く考えさせられた。良いものは良いと言い切り、生産者の思い、商品の価値を消費者に正しく伝え、堂々と適正価格で販売すること。それが流通業者の社会的使命であると確信した。