第11回 | 2010.08.09

流通改革は進む! ~JAの直接取引を考える~

JAにおいて、直接取引による販売事業の拡大は長年のテーマになっている。周知のとおり、JAは系統出荷と言われる市場流通に販売事業のほとんどを依存してきたが、流通改革が進む中で、市場外流通への取組は避けて通れないものであることは、JAの役職員にとっても共通の認識であろう。しかし、JAの直接取引はなかなか進まない。その理由は以下の2つに整理できる。

①自ら販路開拓しリスクを負って取引するという営業活動のノウハウが不足している。
JAは販売事業を標榜しながら、その実態は規格を揃えて市場に持ち込むだけの作業に留まっている。直接取引では、自ら実需者を訪問し取引内容を取り決め、相応の貸倒リスクを負って代金清算まで手がける必要があるが、民間企業にとっては当たり前のこうした営業活動ができる職員は少ない。また、「そんな取引をして代金回収が出来なかったらどうする」といった上層部の保守的な思考が、最初の第一歩を踏み出せない要因となっている。

②定量・定質・定時・定価格という取引に対する生産・出荷体制が整わない。
多くのJAは作目別部会を組織しているが、部会員の高齢化や指導事業の弱体化などに伴い、品質のばらつきが拡大する傾向にある。一方、全ての部会員の野菜は、一元的に集荷・共同選果され、プール方式で販売代金を清算することになる。JAが直接取引する場合、市場出荷した商品と直接取引した商品の販売代金を分けて清算することは困難である。そこで、直接取引向けの出荷組織と清算システムを新たにつくる必要があるが、これまでつくり上げてきた組織の和を乱すなどの理由から部会員の抵抗はことのほか強い。

こうした状況から、直接取引においては、第3号で特集したように、営業活動を積極的に行い意識を持った生産者を組織化しているスーパー法人などに、JAが大きく水をあけられる結果となっている。

ところで弊社は現在、栃木県からの受託業務で、「産地ビジネス推進セミナー」の開催支援を行っており、今年で3年目となる。このセミナーは、県内のJAや農業生産法人などの受講生に対し、加工・業務用を主体とした直接取引のノウハウを習得して実践してもらうことを目的としたものである。先日開催した2回目のセミナーでは、全農茨城県本部園芸部県西VF(ベジタブル・フルーツ)ステーションの齊藤センター長を講師にお招きして、日本一先進的な直接取引の取組についてご教示頂いた。

全農茨城県本部は平成8年に、量販店、生協、業務用など販売先のニーズに合わせた選別や包装加工を行い、直接販売するVF事業を開始した。県内及び都内に計5箇所のステーションを持ち、約20名の営業マンを配置している。中央は大手スーパーや学校給食向け、県西は業務・加工用向け、県南は地元小売店向けの販売に特化するなど、機能分化による効率的な運営をはかっている。また、大手ファミリーレストランチェーンのサプライヤーとして、必要な食材の調達から一括配送までを担っている。昨年度の売上高は128億円に達し、特に農業生産法人を出荷者に取り込んだ中央VFステーションの伸び率が著しい。VF事業の特長としては、①施設型直販(ステーションを核とした集出荷体制の整備)、②買取直販(委託販売ではなく買取販売)、③産地開発型直販(単協との連携強化による産地化)、④担い手育成型直販(法人化などを積極的に支援)、⑤市場連携型直販(市場出荷と直接取引を販売事業の両輪と位置づけ出荷調整)があげられる。その中で受講生にとっては、どのように出荷者を組織化しているのかが最大の関心事であった。そのポイントは、①実需者別に部会を設けていること、②部会員は広域で一本釣りした有志であることなどであった。栃木県のJAは組織力が強く系統共販率が高いのに対し、茨城県の系統共販率は40%台と低い。裏を返せばJA離れした一匹狼達を、販路と条件を示して新たに組織化したと言える。

JA利根沼田やJA富里など、直接取引に取り組むJAは年々拡大傾向にある。いずれのJAも、営業活動、生産・出荷体制という2つの課題に対し、VF事業を参考に解決策を見出し直接取引にチャレンジしている。営業活動については、不足するノウハウを全農や有力卸売業者との連携により克服しているが、生産・出荷体制についてはJA単独で答を出して行かなければならない。そのためには、部会組織を守りつつも、若手農家などを中心に意識改革を進めること、JAを離れた大型農家や農業生産法人を独自の販売事業で組織化することが重要であろう。JAのミッションは地域農業を守ることにあるが、組織を守ることが必ずしも地域農業を守ることにはつながらない。平等主義に基づく組織育成に加え、直接取引を核に意欲ある生産者を力強く引っ張ることで、JAの求心力は高まり、結果として地域農業の活性化を実現できるのではないかと考える。
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