第10回 | 2010.08.02

流通改革は進む! ~地場スーパーとの直接取引に取組もう~

columu8

景気低迷の中でも、圧倒的な購買力を背景に価格圧力を掛け続けてきた大手スーパーに対する生産者・生産団体の評価はすこぶる悪いようだ。そのような状況のなか、一方、地方の有力スーパーや中堅スーパーでは、大手に対応するため、従来八百屋であったノウハウを活かし、良好な人間関係のもと、産地・生産者との直接取引を拡大する傾向が見られる。第6回では、加工・業務用の直接取引について述べたが、今回は地場スーパーとの直接取引について、優良生産法人の取組を通して考えてみたい。

山梨県の(有)さくらファームの栽培面積は約25ha。農地はほとんど借地で、地域の農業公社の調整・斡旋のもと、この3ヵ年で約3倍に拡大してきた。主力はレタス(春・秋の2作)で、加えてはくさい、キャベツ、だいこん、ハウスのトマトなどを生産している。販売形態は全量直接取引で、市場出荷は行っていない。スーパーが約8割、カット野菜業者やコンビニベンダーなどの業務用が約2割という販売構成である。県内の有力なローカルチェーンを中心に、東京・中京の大手スーパーや生協とも取引している。また、一部のスーパーとは、地元の有力卸売業者を通した取引形態をとっている。

代表の佐野氏は元JAの販売担当職員であり、新規就農以前から直接取引のノウハウやネットワークを既に持っていた。こうした背景からさくらファームは、価格がいくらになるのか分からない市場取引では企業経営はできないと判断し、設立当初から直接取引を主体とした経営を行ってきた。現在は、営業はほとんど行っておらず、法人であること、大規模経営であること、実績と信用があることなどがポイントとなり、うわさを聞いて様々なスーパーや加工業者が訪問してくるという。その中で条件に合う実需者を選んで取引するというかたちでこれまで事業を拡大してきた。

スーパーによって取引形態は様々である。さくらファームの物流倉庫へ毎日昼ごろ商品を集荷に来てくれるスーパーもあれば、毎朝8時~9時までの時間帯に納品に行かなければならないスーパーもある。主力のレタスは、いずれのスーパーへも2L主体で8kg箱に12玉入れて出荷している。取引価格は1kgあたり135円、一玉90円程度を相場と考えている。加えて、別途センターフィーとして8%~13%をとられるケースもある。値決め方法も様々で、市況を見ながら一週間単位のところもあれば、季節単位のところもある。市販用なので、いずれも虫食い、病気、褐変などの見た目にはうるさい。特売にかかることも多く、場合によっては1玉70円で取引する(店頭価格は78円など)こともある。但しこの場合、1日200ケース以上の大型取引になるため販売効率は良く、経営収支は黒字である。豊作で商品が余ってしまう場合は、さくらファームがスーパーに働きかけ、特売イベントを実施し全量売り切ってしまう。逆に少なくなってしまった場合、事情を事前に話せば理解してもらえる。地元の有力卸売業者とは、季節値決めで無選別納品の取引を行っている。さくらファームが計画書を出し、卸売業者が販売先を決めていく形態であり、生産状況に応じて柔軟な出荷ができることが利点となっている。

一方、業務用レタスも2Lが基本で、スーパー用と同じ品種のものを販売している。年間値決めで1ケース900円程度が相場であり、市販用より価格は低い。但し、歩留まり重視で、中にはM玉などを重量で取引してもらえるところも見られる。スーパーの場合、これまでの信頼関係から比較的柔軟な取引ができ、ほぼ全量を販売することができる。反面業務用となると、価格は一定でも契約数量は絶対厳守で、逆ザヤであっても市場などから仕入れる必要があったり、売れ残りは市場でたたき売らなければならいない。いくつかの生産法人では、業務用途を中心に高い価格で販売しているが、その反面、過不足も多く地域の市場と連携した取引にならざるを得ないようだ。業務用はリスクも多く、さくらファームでもこれまで取引先3件が倒産し、貸し倒れ金は1,000万円に上っているが、その点スーパーは倒産の可能性が低く安心できる。レタスはM・Lではなく2L主体に栽培することで、市販用でも業務用でも活用でき、利益が出るというのが佐野氏の持論である。10aあたり8,000玉でき、660ケースが出荷できる。最悪の歩留まりを想定しても500ケースで45万円の売上高となるが、ここから逆算して労務費、資材費を考えてゆけば確実に利益はとれるという。

当面営業よりむしろ内部の生産体制の構築に力を入れたいという。ここ3年間で6名の若者が入社して戦力になりつつある。毎晩作業終了後、翌日のほ場ごとの作業、投下人数の検討に長時間を要しているが、生産計画を再構築する中で利益を最大にできる生産管理体系をつくり上げていきたいと考えている。他の大規模生産法人の様に、地域に多くのレタス農家が存在すれば、そうした農家から仕入れることで需給調整ができるが、さくらファームの場合近隣にレタス農家が存在しない。今後も地域スーパーとの取引を中心に段階的に経営規模を拡大していく方針であるが、地場産農産物であることが条件であることから、規模の段階的な拡大と地域農家の育成などが今後の課題になっている。一方、業務筋から引き合いも多く、取引拡大に向けて、今後は例えば千葉県の生産者と連携するなど、冬場の生産をカバーした周年出荷体制を目指すことも検討して行きたいと考えている。

このように、地場スーパーとの直接取引により、安定した経営を実現している生産法人も存在する。業務用は、契約基準がきっちりして融通が利かないものの、安定した売上が見込める。一方地場スーパーは、人間関係に基づき柔軟な取引ができるが、地場産が条件であることに加えやはり市況の影響は受ける。それぞれのメリット・デメリット、及び地域の生産状況などを踏まえ、経営の安定に向けた最適な販売政略を構築していきたい。