第257回 | 2015.10.26

沖縄の明日を切り拓くパートナーになりたい ~ 流通研究所が沖縄支所開設! ~

流通研究所この度、沖縄支所を開設した。先ずは、県庁所在地の那覇のレンタルオフィスの一角を借りてスタートしたが、今後は事業量に応じて支所の規模を拡大てしていく方針である。本日は、沖縄支所開設にあたり、沖縄の農業の現状・課題を踏まえつつ、私たちの意気込みを語ってみたい。

(流通研究所沖縄支所長主任研究員森岡忠司)

(流通研究所沖縄支所長主任研究員森岡忠司)

沖縄では、さとうきびの生産を中心に、マンゴーなどの熱帯果樹、きくなどの花卉、ゴーヤやおくらなどの野菜、及び肉用牛など多様な農畜産物が生産されている。平成25年度の農業産出額は885億円で、作物別の構成比は、肉用牛17.9%、さとうきびが17.1%、野菜14.2%、豚13.9%、花卉10.5%である。亜熱帯の気象特性を活かし、南北に長い日本の中でも特異な生産体系を確立している。

沖縄県の平成27年9月1日の人口は143万人で全国で25位。全国で人口減少が顕著化する中で、移住人口の増加と高い出生率(1.87人で全国1位)を背景に、沖縄県の人口は増え続けている。一方、観光客数は716万人で過去最高を記録しており、近年は対前年比10%近い増加率を実現している。国の交付金措置は手厚くインフラ整備も着実に進み、観光を中心に大資本の投資も活発であり、県内経済は概ね右肩上がりで、あらゆる面で今後も発展が期待できる地域である。

こうした状況の中、県内農業は、「さとうきび依存型農業の脱却」が大きなテーマとなっている。さとうきびは、沖縄県の栽培農家数割合で約7割、畑作における栽培面積割合で約6割を占める基幹作物であり、砂糖の主原料として国民の食を支えると共に、糖製造事業者を含めた地域経済を支える重要な作物である。また、さとうきびは、痩せた農地でも生育し干ばつに強く、台風になぎ倒されても再び立ち上がるという特性を持ち、自然災害の常襲地帯にである沖縄では最適な作物であると言える。

TPP交渉では、高糖度の精製用原料糖や新商品開発用の試験輸入に限定して無税での輸入を認めることに加え、加糖調製品については品目ごとにTPP枠を多少拡大することで決着した。協定発効後も、安価な輸入原料糖に調整金をかけて価格を引き上げ、国産糖との価格差を埋める糖価調整制度は維持されるものの、加糖調整品は輸入量が少なからず増加することから、国内需要の低迷とあいまって、さとうきび需要が低下するなどの懸念材料は残る。

地元では一部の生産団体から不満の声はあがっているものの、当初言われていたようにTPP合意でさとうきび産業が崩壊するなどの恐れはないと安堵している。実質的には、安定的な買取価格を国が保証する制度が継続することから、これまでと大きな変化はないというのが実態であろう。したがって、「さとうきび依存型農業の脱却」が沖縄県共通のテーマであることは間違いないが、農家も行政機関も生産団体も、総じて危機感は希薄であり、本格的な取組みが加速する予兆はあまり感じられない。

また、さとうきびに代わる作物を生産するとなると、灌漑施設や土壌改良などの基盤整備に加え、気象条件などに適合する作物の選定や栽培方法の確立、さらには生産技術の習得や担い手育成など、いくつもの高いハードルを乗り越えなけばならない。しかし、中長期的な展望を考えると、現在の糖価調整制度が永遠に継続される保証はなく、出来るところから段階的に挑戦していく姿勢は必要不可欠であろう。

一方、沖縄は、亜熱帯という気象条件を活かして多様な農業ができる潜在力を持つ。バナナやパイナップル、マンゴーやパッションフルーツなどの熱帯果樹の生産はもちろんのこと、野菜についても、例えばおくらやししとうを12月頃まで出荷できるなど、他産地にはまねが出来ないような農業が可能である。こうした潜在性を可能な限り引き出すことで、全国的にも優位性が発揮できる産地へと発展できるものと考えられる。既に、台風にも耐えられる施設園芸団地を整備し、新たな品目や生産体系にチャレンジしようとする地域も見られる。

販売面では、本州・九州もしくは海外への「輸出」による外貨獲得戦略と、拡大する内需に対応した地産池消戦略の2本立てが基本となる。外貨獲得戦略では、県下一農協である「JAおきなわ」を中心に、首都圏・関西圏などの有力市場との連携を強化し、産地形成に力を入れているし、県でも多様な販路開拓や販促活動を積極的に支援している。また、地産地消戦略では、道の駅や直売所の整備が急速に進み販売拠点となっていることに加え、スーパーでの地場産農産物の取扱いが増加傾向にある。しかし、こうした取組は、全国的にみると総じて立ち遅れており、例えば品質・ロットの確保による首都圏などでのブランド化、急増するリゾートホテルなどへの食材供給など多くの取組み課題を残している。

流通研究所が沖縄支所を開設した第1の狙いは、民間企業として当然のことながら受注の拡大、売上の増進にある。一方で、無限の可能性を秘めた沖縄で、地域に寄り添った地道な、正義のためのコンサルティング活動を実践したいという思いが根底にある。沖縄の自治体は、一括交付金という潤沢な財源を持つが、ソフト事業となると一過性のイベントや広告宣伝にのみ予算を使ってしまう傾向が強い。流通研究所は、農水産業専門のコンサルティング会社であり、生産現場の川上から販売先の川下までをカバーし、実践的で成果重視の課題をモットーとしているが、うちのような会社は県内には存在しない。したがって、地域に多くの取組み課題が存在しても、その解決に向けた手法が分からず、一緒に取組むパートナーが見当たらない状況にあると言える。

流通研究所はこれまでも、大手企業と連携し県内でいくつかの仕事をやってきた実績はあるが、支所の開設で、沖縄での仕事が一気に増えるとは考えていない。先ずは地域の声にしっかり耳を傾けて、小さな事業から一つ一つ丁寧に、地に足がついた仕事をして、地域の信頼を獲得していきたい。そして、沖縄の地で、地域振興の実績を一つずつ積み重ねることで、明日の沖縄を共に切り拓くための頼れるパートナーになりたい。