第203回 | 2014.08.25

民間活用方式 VS 直営方式、道の駅のあるべき運営方式とは ~道の駅・「富楽里とみやま」と「とみうら枇杷倶楽部」~

本日は、再び道の駅のことを書いてみたい。今年も全国の道の駅立ち上げに関わる仕事をさせて頂いている。道の駅は、行政が取り組む事業として、非常に高い費用対効果が期待でき、地域の資源を活かしポテンシャルを引き出せる効果的な事業であると確信している。しかし、立派な施設を整備し、国交省の看板をもらうだけでは、こうした成果は発現出来ない。成果発現に向けた最大のポイントは、施設をいかに運営し、持続的発展につながるようなソフトの仕組みをつくるかにある。

先般、ある自治体の視察のコーディネーターとして、道の駅・「富楽里とみやま」と「とみうら枇杷倶楽部」へ再び伺った。「富楽里とみやま」は、10年以上前、私が立ち上げを支援した施設であり、「とみうら枇杷倶楽部」とも様々な業務で係わっていることから、黒川さん、鈴木さんの両支配人とは旧知の中である。それぞれのこれまでの経緯、運営の実態や課題は熟知しているつもりであったが、この度の視察を通して、さらに多くのことを学ばせて頂いた。その中で、道の駅の運営は、どのような方式が最適なのかという単純な疑問が湧いた。

「富楽里とみやま」と「とみうら枇杷倶楽部」は、双方とも第3セクターによる管理運営方式をとっているが、同じ3セク方式でも、その内容や手法は全く異なる。「富楽里とみやま」は、農産、商工、水産の各団体が出資している第3セクターであるのに対し、「とみうら枇杷倶楽部」は市の100%出資による第3セクターである。また、「富楽里とみやま」は、産品出荷は各団体が担い、飲食部門は全てテナント出店方式をとっているのに対し、「とみうら枇杷倶楽部」は物販も飲食も全て直営方式である。

施設全体の年間売上高を比較すると、「富楽里とみやま」は約12億円であるに対し、「とみうら枇杷倶楽部」は、その半分の6億円といった状況だ。しかし、第3セクターの収支を見ると、「富楽里とみやま」は、市から管理委託料をもらってかろうじて収支トントンという状況であるが、「とみうら枇杷倶楽部」は毎年潤沢な利益を計上しており、その利益を施設整備や新たな事業化などの投資に向けている。

高規格道路からも一般道からも利用できるハイウェイオアシスという業態をとる「富楽里とみやま」は、まさに南房総の拠点であり、観光シーズンや休祭日は利用者であふれかえっている。農産・商工・水産の特産品が販売されている1階は、出荷主体はそれぞれ「富楽里農産」、「とみやま商販」、「岩井漁協」の3つの法人組織が担い、第3セクターがレジを担当するという仕組みである。一方2階は、アイス・喫茶・ラーメン・惣菜の4店舗、及び海鮮レストラン共にテナント出店方式をとっている。地域の民活を活用し育成するという政策は見事にあたり、民間パワー爆発といった活気と賑わいを見せている。

1階の物販部門における第3セクターの販売委託手数料は7%強と低い。また、2階のテナント料は、民活育成の視点から低い金額でスタートしたが、成功した現在でも出店者側の要望などにより、テナント料引き上げは難しい状況である。第3セクターは、いわゆる「管理3セク」という性格であり、12億円という途方もない売上を上げても利益は出にくい収益構造にある。出荷者・出店者は儲かるが、第3セクターは儲からない。しかし、農産部門だけでも約320名の出荷者がおり、農業振興や地域の活性化に大きく寄与していることは間違いない。

一方、「とみうら枇杷倶楽部」は、農産物直売コーナーを持っておらず、物販はオリジナルのびわの加工品や工芸品などが中心である。また、レストランではびわカレーを主軸メニューとした喫茶店という位置づけである。農産物の直売や海鮮料理の提供は、隣接する民間事業者の運営による「とみうらマート」などの施設が行っている。市100%出資の第3セクターであることから、民圧迫を避けた独自の事業展開に終始してきたことに加え、民間との役割分担のもと、道の駅エリア周辺の開発を促進してきた。

この第3セクターは、「まちづくり会社」と位置づけれており、2つの新たな地域再生に向けた事業を担っている。1つ目の事業は、規格外のびわを生産者から買い取り、これを保管・加工して、オリジナル商品を開発する事業である。びわソフト、びわカレーなど様々なヒット商品を生み出し、地域の農業振興とブランド力向上に結び付けている。もう一つの事業は「一括受注システム」と言う観光事業である。第3セクターが、地域の旅行代理店としての役割を果たし、都内などの事業者との一元的な営業窓口となり、地域での旅行企画の立案や調整業務などを手掛けている。

2つの第3セクターを比較すると、「富楽里とみやま」は直接効果発揮型、「とみうら枇杷倶楽部」は波及効果発揮型といるのではなかろうか。「富楽里とみやま」は、多くの民間事業者が施設運営に参加することで、道の駅自体が生産者などの所得を生み出している。一方、「とみうら枇杷倶楽部」は、加工品開発と観光事業を通して、間接的に地域が潤う仕組みをつくりあげている。では、道の駅の管理運営を担う第3セクターとして、どちらのタイプが正しいのであろうか。

私の答えは、「どちらとも正しい」である。公共施設を活用して、地域の生産者・民間事業者を育成し、「民」を主体に地域ぐるみで魅力ある拠点をつくりあげていくことは、行政施策として王道であろう。その典型的な成功事例が「富楽里とみやま」である。一方、地域の政策課題を踏まえ、行政ではできない役割を、第二の公共としての性格を持つ第3セクターに担わせ、拠点施設を核に新たな仕組みをつくることも、行政施策として非常に優れている。そして、その先進的な事例が「とみうら枇杷倶楽部」である。

どちらのタイプの第3セクターを選択するかは、地域の状況や特性によるだろう。しかし、その選択にあたっては、地域の政策課題に照らし合わせながら、そのメリット・デメリットを慎重に精査していくことが必要である。今後、まだまだ道の駅は整備されるだろうし、その管理運営を担う第3セクターも新設されることになるだろう。その検討段階においては、「富楽里とみやま」、「とみうら枇杷倶楽部」という2つの道の駅、それを管理運営する2つの第3セクターを是非視察し、参考にして欲しい。