第277回 | 2016.03.28

民設民営による拠点施設の整備・運営手法を考える
~ (株)TTC「伊豆村の駅」の事例より ~

先般、地元の経済団体などの集まりで、(株)TTCの三嶋専務とお会いし、親しく話す機会を頂いた。TTCは、土産品の企画・販売・運営からスタートした企業であり、その後、地域密着型の施設を整備・運営に着手し、成功を収めている異色の起業である。現在静岡県の三島市の「伊豆村の駅」をはじめ、北海道と栃木にも同様の施設を整備・運営している。比較的自宅に近いことから、私も「伊豆村の駅」には何度か訪れたことがある。TTCという民間企業が整備・運営していることは知っていたが、その事業内容を詳しく聞き、改めて驚かされることが多かった。

「伊豆村の駅」は、約1万㎡の敷地に100台以上の駐車場を完備し、約1,600㎡の施設で、農産物の直売、土産品の販売、飲食店の運営などを行っており、現在の年間売上高は12億円を突破している。一見すると道の駅のような施設であるが、100%TTCの資金で整備した施設であり、補助金などは一切活用していない。施設は贅肉を落とした鉄骨づくりで、初期投資は約5億円まで圧縮し、開業から10年間で初期投資を回収したという。

二の釼が斬る第277 号_写真                      (伊豆村の駅ホームページより)

事業コンセプトは、ずばり、地域振興である。地場産の農産物・特産品の販売に加え、地域食材を活用した軽飲食店が出店されており、地域の農家や商工業者を巻き込んだ事業展開に力を入れている。「伊豆村の駅」の利用者は、観光客より地域住民の方が多い。地域住民に毎日来てもらうようにするためには、農水産物の品揃えが欠かせない。店内はいつも活気があり、週末にはまぐろの解体ショーをはじめ、さまざまイベントが開催されている。

一方、「伊豆村の駅」で稼ぎ頭になっているのが加工品である。TTCはもともと、土産品の企画・開発・販売が主な事業であったことから、地域の農林水産資源を活用したオリジナル商品の開発は専門分野である。自ら製造する訳ではなく、地域のメーカー、さらには提携する全国のメーカーへの製造委託方式で商品化し、「伊豆村の駅」で販売する方式をとっている。毎年のように新商品を開発しており、最近では、地域の食材を活用した、わさびバーガー、しいたけバーガーが大ヒット商品になった。

地域の産品を買い上げ、製造委託方式で商品化して販売することで、生産者の所得向上につなげると共に、商品を通して利用者に情報発信することで、地域振興を実現するという事業スキームを確立している。全国どの地域でも取組課題となっている6次産業化や農商工連携を、民間企業が実践し、成果をあげている稀有な事例である。

売場は、地域色豊かな「伊豆村の駅」のオリジナル商品であふれているが、その一方で、TTCが開発した全国の特産加工品も数多く並んでいる。これらの商品がコンスタントに売ることで、売上・利益を確保している。比較的利幅が薄く品揃えも限定される地場産品を、これらの商品で補うことで、健全経営を実現しているところに、TTCならではの運営ノウハウがあると言える。

道の駅的な施設を整備したいが、財源が確保できず、断念してしまった、あるいは計画が凍結している市町村は多いのでなかろうか。公設民営ではなく民設民営方式での拠点施設を整備する手法はないものか、などと考える行政マンもいることだろう。こうした市町村では、TTCを誘致することも、有効な手段の一つではないかと考える。専務にこのようなことを申し上げたら、前向きな答えが返ってきた。

TTCは、農産物直売+特産メニューを提供する軽飲食+地域素材を活用した加工品の開発・販売を基本とし、地域住民はもとより観光客を誘致し、地域振興を実現するという事業スキームは、全国どこでも出来る。施設の整備は全て自社で行うし、地代も払う。補助金をもらうと事業に縛りが出てしまうので、一切不要である。その代り、用地の確保や地権者との調整、開発許可などの支援を頂ければ、全国どの地域でも出店を検討する余地はあるという見解であった。

もちろん、完全な民間企業がビジネスとして取り組む事業であることから、採算性は重視する。したがって、相応の商圏人口が見込めることや、面前道路からのアクセスがよいことなども出店条件となろう。しかし、民間企業が全て自腹で施設を整備し、地域振興に結び付く事業をやってもらえるのなら、市町村にとってこれほどよい話はない。仮に、1ha規模の遊休地を保有し、その利活用に苦慮しているような市町村があれば、一度TTCへ相談に赴いてもよいのではなかろうか。

また、弊社が長年付き合っている南房総市でも、TTCは成果をあげている。南房総市が合併前に整備した道の駅・ローズマリー公園の中にある物産施設「はなまる市」は、これまでどれだけ工夫しても売上が上がらず、毎年大幅な赤字運営を強いられてきたが、TTCが運営主体となって以来、売上は急増し、黒字化を実現している。こうした実績を踏まえると、TTCは赤字に苦しむ道の駅や活性化施設の救世主となる可能性があると考える。

ちなみに、専務に、同じようなビジネスモデルで商売をしている企業は他にあるのかと聞いてみた。やはり、TTCの他には見当たらず、TTCしか出来ないビジネスモデルのようだ。地域振興という運営理念を掲げ、その効果を確実に発揮しつつ、企業が整備から運営まで全て責任を持つという離れ業はなかなか出来るものではない。この企業は、まだまだ伸びるだろうと思う。なぜなら社会に必要とされる企業だからだ。今後のTTCの動向に、大いに注目していきたい。